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神の名のもとに〜異世界と現実の狭間に生きる〜  作者: 麒麟燐
第二章 王政奪還編
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『第三部』 第三十話 弟子


 4月25日、木曜日。


 昨日の昼、悠斗は無事に現代への帰還を果たした。

 帰還後、露無、夏花、エリカたちは勿論、多くの知り合いに挨拶をして回った。

 とはいえ、悠斗の知り合いの数など高々10人程度。

 早々に終わらせて、夕方は一人で大型ショッピングセンターへ買い物へ出かけた。

 食料品や生活必需品、また近々から様々に備えて色々と準備をしておいた。

 帰宅後のゲームも問題なし。


 そして夕食の時、エリカから遂に作戦準備完了の知らせを受けた。

 正確にはまだ完了していないが、決行日は土曜日になるそうだ。


 作戦とはいえど、内容は単に住民を避難させることだけだった。

 その避難する住民の厳選と王宮への侵入方法はエリカたちの戦略で、それ以外の立ち回りは悠斗たちが戦略を練ることとなった。


 今日と明日は平日だが、伊龍や露無、健祉からの助言もあり二日間は休むことになってしまった。

 今週の出席率の悪さを後ろめたく思いつつも、万全な状態で挑むためにも悠斗は首肯したのだ。



 司と唯がメイドと一緒に避難先へ行き、住民たちの安全確保役を担うこと。

 伊龍が幻影魔法を使って避難先を偽り、国の衛兵を邪魔にならない場所へと誘導すること。

 力のある悠斗、王宮内の地図を知るエリカ、そしてテレポート&不可視化能力者のノアが牢獄に閉じ込められているエリカの家族と罪なき囚人の解放へと向かうこと。

 残りのメンバーは逃げ残りの誘導や敵戦力迎撃役として待機すること。



 この作戦が決まり、解散。

 全員が限られた数日を、緊張とともに気侭に過ごす。

 そう決意し、はや数時間。


 昼食も終わると一同はまた自室へと向かおうとするが、


 ピンポーン。


 と休暇中にも関わらず、玄関のチャイムが鳴らされた。

 モニターに映る姿はほぼなく、黒い髪が少しだけ入っている程度。

 依頼者かな?

 とエリカが呟き、


「私が出るよー」


 と言って廊下へと出る。


「待て!」


 しかし、悠斗がそれを静止させた。

 張りのある、よく通りよく響く声音。

 何かを察知した気配。

 全員の表情が一瞬で強ばる。

「……お前らはこの部屋にいろ。許可するまで出てくるな」

 顔に影を入れて悠斗が低い声で指示した。

 誰一人反論せず、ただ静かに、信じて待つ。


 悠斗は遅れた時間に不審さを持たせないため小走り廊下を走り「はーい」、と声を上げながら玄関の扉を――


 シュッ


 と一閃、斬光が目前を横切る。

 悠斗はそれが刀であると瞬時に判断。今の一撃を躱したことに襲撃者も動揺し、僅かに遅れを見せる。

 しかし瞬く間に表情を変え、行動を決定。

 悠斗が微かに開いている扉の隙間から宅内へと瞬足で駆け込み――

「待っ――テェっ!」

 悠斗は玄関の扉を即座に全開にし、その走る影の腕と思われる器官を掴み門前の道路まで投げ飛ばす。

 疾風の如く脇を通り過ぎようとした影を捕らえたのは流石悠斗というべきか。

 しかし強く投げすぎた。

 このまま塀に直撃したら……なんて杞憂は本当に杞憂だ。


 黒い影は素早く身を回し、回転を制御しタイミングよく足を伸ばすと塀に張り付き、そのまま勢いを殺すとシュタッと地に舞い降りる。


 その動きは、そこらの異世界人にも類を見ないものだ。


 奇襲を悉く防いだ悠斗に強い視線を向ける影。

 因みに、ここまで悠斗と相対する者を影と呼ぶのは、影だからではない。

 影のように息を殺し、身を顰め、闇に紛れるように電光石火の動きを易々と見せる姿が、そして身を纏う装飾と髪の色が、正しく影を思わせるからだ。


 闇夜に紛れるための黒の装飾。

 口元を覆い、髪を整え、異彩の動きを見せ、誰にも悟られずに任務をこなす存在。

 晴天の昼には全く似付かわしくない存在。

 そいつは、忍者だった。


 黒の布切れが目元以外を覆い、少し長い髪も動きの妨げにならぬよう上手く纏めてある。

 その唯一晒した眼。

 その眼が、悠斗へと向けられている。


 忍者が刀を持つかは知らないが、一本の刀を片手に、またその刀を収納する鞘も装備してある。

 悠斗の動きに少々気圧され、早速行き詰まっているが、表情からは全く伝わらない。

 極々自然に、真昼の住宅街に佇む影の存在。


 悠斗は玄関の扉を後ろ手に閉め、忍者からの攻撃に備え身構える。

 忍者の装備品と言えば、やはりクナイと手裏剣の飛び道具。

 この二つは注視しておいていいだろう。

 そして右手に装着した籠手も相当硬質なものとみれる。


 玄関先で、二人が睨み合う。


 悠斗からは動かない。

 肝心なのは、忍者の目的。

 無闇矢鱈と攻撃は仕掛けない。


 春の生ぬるい風が吹いたその刹那、忍者が悠斗目掛けて強く地を蹴った。

 風を置き去りに忍者は猛接近、刀を振るい悠斗の肩から腰にかけてを一直線に斬るつもりだ。

 それを察知した悠斗は、避けるではなく受け止める方向で構えた。

 避けると再び攻撃を繰り返されるだけだが、受け止めるとそのまま刀を片手で封じ、空いたもう片方の手で返り討ちにする事が可能だ。

 勿論、刀を腕で受け止めることは悠斗にしかできない。

 能力で右腕だけを執拗に強化し硬質化させる。

 受け止め準備を完了させ刀の動きを目視する。


 瞳孔を開き、一瞬一瞬の刃の煌めきを焼き付ける。

 迫り来る鋼のヤイバ。

 悠斗は振り下ろされるその刀を受け止めるべく、身を屈めて腕を頭の上に出した。


 のだが――


「っ――!」


 刀は不可思議なことに悠斗の腕をすり抜けて真っ直ぐに、一ミリのブレもなく斬りつけんと降り注いで来た。

 悠斗は即座に迎撃方法を変更。

 迫り来る刀の動きをもう一度見直し、今度は体を、見た目は気持ち悪く、しかし質は綺麗にくねらせて、(はし)り廻る刀の悉くを躱して見せた。

 そして一瞬、忍者が攻撃を終了して身を引こうとした瞬間だ。

 その隙を狙って蹴りを一撃、死なない程度に撃ってやった。

「ぐっ――」

 初めての忍者の声はその唸り声。

 悠斗の蹴りをまともに食らえば誰だってそうなる。

 しかし忍者は根性が違った。

 悠斗の蹴りを食らっても、一度ついた膝をもう一度上げ、カッコつけるように刀を鞘の中にしまう。

 カチャ、といい音を鳴らして。


 プシィ――っと液体の飛び散る音と、突然の激痛が……


「っがぁぁぁぁぁっっっっっっ、ぃぃぃぃぃぃ……」


 刀と鞘が一つになったその瞬間、何故か悠斗の腕が切断された。

 激しい痛みに声を上げる、苦悶の表情でその傷口を左手で押さえた。

 ほぼ無意識に発動させた回復魔法で痛みは早めに引いたが、正直意識が飛びそうだった。

 地に落ちた自分の手を拾い、傷口を合わせて右腕に魔法をかけると、僅か数秒で繋がった。


「……ふぅ……よかった……」


 繋がった後、何度かグーパーを繰り返し信号伝達の正常を確認。

 安堵の吐息を漏らし、忍者と向き合う。

 そして交わる視線。

 忍者の布の下の見難い顔が歪んだ気がした。


 刹那、次は数多の手裏剣が悠斗に降り注ぐ。

 リーチを活かした攻撃に転換してきたが、手裏剣なら幾らでも受け止められる。

 悠斗は家への被害も考え、殆どの星を捕まえ全てを地に落としていく。

 相手も自分も手は二つ。

 相手が二つの手で投げてくる手裏剣は、受け止める力があると仮定すれば、受け止められる。

 そして悠斗に関してはその仮定がただの仮定ではない。

 実現可能なのだ。

 やがてその乱撃も無意味と知ると、忍者の手の動きが刹那だけ停止した。

 その刹那を悠斗は好機と見て、全力で地を踏み込み、全力で駆け出した。


 応戦すべく、黒衣に身を包んだ忍者も刀を抜き取り悠斗目掛けて駆け出す。

 よく分からな刀だが、少なくとも体をすり抜けることは分かる。だから兎に角、あの刀には決して触れないようにする。

 斬光の嵐を掻い潜り、悠斗は忍者の伸ばした刀を持つ手を掴むと、くるっと回し体を宙に浮かせた。

 その隙に刀を奪い取り遠くへ放り投げたあと、柔道の技のように相手を押さえ込み、手にした手裏剣の煌めく刃の部分を忍者の喉に突きつけた。

 悠斗の鋭い眼光と鋭利な手裏剣の先端で脅す、降参しろ、と、無言で。


 暫く互いに睨みを利かせ、忍は何度か脱出のためにもがいていたが、やがて観念したように力を抜き右手で地をトントンと叩いた。

 降参と判断し、悠斗は跨って拘束していた身体を解放すると手裏剣を足元へ放り投げた。

 忍者はその手裏剣の動きを見つめ、その後遠ざかって行く悠斗の背を見ながら立ち上がる。


 悠斗は自分が放り投げた刀を拾い上げ忍者の下へ帰るとそれを差し出す。

 無言でその刀の嶺を見て手を伸ばす忍者。

 掴もうとした刀がすっと遠ざかる。

「何しに来たのか、話してくれ」

 忍者が顔を上げるのとほぼ同時に悠斗はそう尋ねた。

 刀を返す代償と悠斗が受けた襲撃の対価はそれだ、と言わんばかりの表情で。

「…………」

 その忍者は、目元以外を覆っている。

 表情は見え難いが、難しい顔をしていることは伝わった。

 どう出るのかしばし待つ。


 すると、突然忍者は片膝を着き、


「――拙者を、弟子にしてください」


 と申し出てくるではないか。


「…………は? なんて?」


 俺でも聞き間違いをするのか……なわけあるかい!

 俺が聞き間違えるか!

 ってことはやっぱり、本当にそういう意味で……。


「――拙者を、弟子にしてください」


 一言一句、一文字一文字の間隔すらも違いなく答え直した。

 なんか無駄に二度も言わせてすまない、そんな気持ちになった。

 にしても、勇ましい声だ。

 キリリとしたよく通る声でありながら、何処となく陰湿というか……闇といった感じの声音。

 そんないい声。


「拙者は、鬼影(おにかげ)と申します」


 そっと顔の一部を包んだ漆黒の布を巻き取り、素顔を表す。

 とてつもなく美形だった。

 美男子に近い顔立ちだが、司よりは男っぽさを持っていると言うか、凛々しいと言うか……。

 司の美形にクールさを加えたような、そんな顔立ち。

 男子同士だろうと関係なく見惚れるほどの良い作り。

 悠斗はそう感じた。

「お、鬼影? えっと、苗字とかじゃないん……だよな?」

 聞き慣れない呼び名に少々困惑する。

「はい。鬼影は拙者の父から貰った忍者としての名です」

 膝をついて頭を下げたまま、淡々と返答する。

 妙というか、不思議というか……なんだか掴めない。

 奇襲を仕掛けておいて弟子にしてくれだなんて、変わっている。

 嘘っぽさは感じないが、本心……だろうか?

 忍者としてやはり心を隠すのが得意なのか。


 取り敢えず、忍者――もとい、鬼影からの攻撃意識が見られなくなったので刀と手裏剣を全て返す。

「……まあ、色々話し合いたいから、中で話さないか?」

 悠斗は戦闘用具を全て返還すると右手で後方の自宅を示す。

「……はい」

 そうして二人はエリカたちの待つリビングへと入った。



 待ち侘びていたメンバー4人に鬼影のことを話し、弟子入りについて考察する。



「俺の意見としては、俺が師匠になれるほどの実力や経験がないから辞退したいんだけど……」

「――? だけど、どうしたの?」

 悠斗が言葉を詰まらせると、エリカが不思議そうに首を傾げた。

「……依頼なら、受けるほかないと思ってる」

 まるで誘導するような発言だが、そう言い切る。

 断っておくと、別にその方法を使えと言っているわけではない。

 悠斗たちは表向き探偵社としているが、実際のところお助け屋みたいなものだ。依頼であればほぼ断ることはない。

 断るとすれば、暗殺依頼とかだ。

 ただ、悠斗のそばに男が増えるのなら、師匠になってもいいかな、なんて疚しい感情がないわけではない。

「ってかさ、師弟関係になって何を教わりたいんだ?」

 黙って聞いていた白翼が組んだ腕を解きながら鬼影と悠斗それぞれの表情を捕らえながら聞いた。

 その質問に悠斗も「そういえば」と言って鬼影に視線を向けた。

 必然的に全員の眼差しが集中する。


「腕」


「うで?」


 一言に対し一言の疑問で応答。

 白翼の疑問符にコクリと頷くと悠斗を見上げる。

「拙者の奇襲、扉を開ける前から気付いていたようですが、何故でしょう?」

 その言葉で悠斗は腕の意味を理解した。

 確かにあれは肉体強化等の能力以外では気が付けまい。

「そういえば、お兄ちゃん、気付いてましたしね」

 ノアも鬼影に便乗するように顎に手を当てた。

「ああ、あれは気配だな」

 悠斗の単純だ、と言った得意げな表情を前に鬼影は瞳孔を開いて少し前のめりになる。

「気配⁉︎ そんなはず、だって殺意はちゃんと消して――」

「それだ、気配がなさすぎたんだよ」

「気配が……なさすぎ……?」

「ああ」

 影に潜むものとして身を潜める力にはある程度自信があるようだ。

 だからこそ、自分のその部分が簡単に破られて無念なんだろう。


 悠斗はビシッと言い切り、優しく言葉を続ける。

「息を殺すのは上手かったと思うが、この場でそれは不自然だ」

 細かく言うと鬼影も悠斗の言葉の意味を理解し少しだけ身を引く。

「上手く殺意を消しても、それと同時に普通に存在する気配までも消してしまったら逆に怪しい。特に今回みたいな単なる訪問ではな」

 鬼影に続き、エリカたちもなるほどと頷いた。

 気配に関しては悠斗も一流レベルのそれを持っているからな。簡単には欺けない。


「やはり、凄いです……。拙者の気配に関しても、その後の戦闘能力についても」


 鬼影がそう呟き、悠斗を見上げ直す。

 なるほど。

 鬼影は悠斗のその実力に目をつけたわけだ。

「どうするの?」

 鬼影の「師匠を見つけた!」的なセリフを聞き、あーちゃんが悠斗に視線を向けた。

「いや、別に弟子はいいけど……俺は特に何も教えないぞ?」

「つまり、見て、体験して学べ、と言うことですね」

 遠回しに諦めろ、と言う意味だったんだが……。

「分かりました、それでは以後、よろしくお願いします」

「あーー…………わかったよ」

 何をもって悠斗を師匠に選んだのやら……。

 悠斗は項垂れるようにしながらも結局了承した。


 まあ、鬼影の真意こそ全く掴めないが、この時期に仲間、しかも男が増えるなんて最高だ。

 そこそこな警戒を払いながら、鬼影を悠斗の弟子として迎え入れることとしよう。



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