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神の名のもとに〜異世界と現実の狭間に生きる〜  作者: 麒麟燐
第一章 人生開幕編
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第十一話 名前


 場が凍り、今までとは比較にならない空間が出来上がる。

 先まで寝ていた黒髪の少女が外出を妨害するように扉の前に立っていた。それを見て悠斗は顔をしかめる。

「……目が覚めたんだな」

 即座に普段の顔つきに戻しいつも通り応答する。

 悠斗のしかめっ面に一瞬眉を顰めたがこちらもすぐに会話を継なぐ。

「ああ、ついさっきな。そんな事よりあーちゃんはどこだ」

 本当にあーちゃんと呼んでいるらしい。それを確認できたことがまず一つの収穫だ。強気な姿勢を見せる少女は恐らくかなりの実力を持っている。

 彼女からは覇気こそ感じ取れないが、雰囲気が強さを物語っている。


「あーちゃんってのが銀髪の娘の事ならお手洗いだ。待ってたら戻って来る」

「…………」


 あーちゃんに話を聞いたことを知られないためにあーちゃんという呼び名を知らぬ存ぜぬで通す。

 事実を述べる悠斗を不信な目で見つめる少女。悠斗は信用されていない。かと言って他2人も同じであり、肝心のあーちゃんは現実問題トイレにいる。

 適切に対処して信用を得なければならない。

 最悪信用を得ずとも、事実証明ができるまで時間を稼げればいい。

「怪しいか?」

 緊迫した空間を作り出す少女に声を掛ける。

 尚も数秒沈黙した後に応える。

「ああ、怪しいな」

 あーちゃんが早めに用を足して戻って来る事を祈って上手く言葉を選ぶ悠斗。


 相手は恐らく能力者であるため、迂闊な行動は取れない。

「案内しようか?」

 この手の相手にはこの言葉は基本効かない。しかし、ありきたりな質問を飛ばすことで無駄な時間を稼げる。

「いや、それは危険だな」

 想定通りの返答だ。このやり取りを数度続けて事実証明が可能になるまで待つ。


「家の中を探ってもらってもいいぞ」

 空気は変わらず流れる。

「それも結構だ」

 空気が更に重くなる。


「ならどうする?」

 ここで敢えて相手に選択権を譲る。

 こちらからの提案が切れた時は相手に選択権を与え、それを断る事でも時間を稼げる。


「そうだな、お前ら全員――」


「お姉ちゃん?」


 あーちゃんの声だ。

 戻ってきた。

「あーちゃん! どこに行ってた」

 悠斗たちを警戒しつつ、突然背後から登場した妹に驚きながらあーちゃんにがっつく。

 あーちゃんは大容を理解して宥めるように応える。

「トイレに行ってたの。この人達は悪い人じゃないの」

 悠斗他2名を指して笑うあーちゃん。その後ろから睨みを聞かせる姉。

 どうやら非常に警戒心が高く、中々信用できないらしい。

 エリカの話やノアの事件から服従能力なんて物があるほどだ、簡単に信用できる世界ではない。

「それに、この人達が傷を治してくれたの」

 その言葉に自身の状態を見直す姉。傷が全て消滅している事を遅れて理解し、顔が軟らかくなる。


「俺たちが、怪しいか?」


 再度確認をとる悠斗。今度は別の認識であると理解して。

 その後ろでは、少しでも環境を良くしようと笑みを作るノアとエリカの姿もある。


「……いや……怪しいけど……怪しくない……」


 言葉だけを見ると意味不明だが、言いたいことは伝わる。

 当然全員に伝播しているだろう。ならばそれで問題ない。

「そりゃどうも。あーちゃん、席外してくれるか」

 姉から個人の主張を聞くためにあーちゃんに一旦下がってもらう。

 悠斗のあーちゃんという呼び方に姉が僅かに反応するが、何も言わずに会話が進む。

「……分かったの」

 姉へ視線を向け頷くあーちゃん、それに相槌を打つ姉。

 姉妹での以心伝心が完璧なのか、他には理解できないやり取りで意思疎通をしてあーちゃんが席を外す。

 あーちゃんが和室の戸を閉める音を聞き終え、事態を進行させる。

「じゃあお姉さん、ここどうぞ」

 悠斗は食卓であーちゃんにした通り、同じ席に座らせ食事を提供する。

 少女は配膳風景を疑心暗鬼に見ていたが自分の前にだけ料理が多数並べられるのを見て早々に理解する。


「……なんだ」


 食事に睡眠薬でも入ってると思ったのか、一層警戒を高め悠斗に視線を送る。「これは何か」と。

「いつからか分からねぇけど飯食ってないだろ。食事は取るべきだ。何も入ってないから食べなよ」

 あーちゃんと全く同じ献立を指し催促する。

 注意を払いながら箸を掴む。

 丁寧に箸を持ち食を口へと運ぶ。味がお気に召したのか一口を終えると次々に食事を口に突っ込んでいく。

 警戒しつつも食べたということは、やはり誘惑に負けるほど空腹だったということだ。

 あーちゃんよりも更に短時間で完食すると少し赤面する。

「……美味かった。どうも」

 今度こそ確実に信用を勝ち取ったと、悠斗は心の中で1人誇る。

「好みだったようで何より」

 少女の羞恥を紛らすように笑う悠斗。それを快く思わない別の少女が更に紅潮する。


「もぅ、悠くんは……」

 横から嫉妬の声が聞こえるが無視して進行する。

 食器をキッチンへ下げ、会議?を始める。


「それじゃあまず、名前は?」


 悠斗の決まりの質問だ。会話をする前に名前を聞く。

 相手の名前を知っておかなければ、会話が成り立ちにくいからだ。代名詞を使ってもいいが、あまりピンとこない。

 と言うか、気に入らない。


「……ない」


 こちらもだ。あーちゃんと同じように名前を持たない、無名らしい。姉妹であるとしたら両親は一体どんな意図で名前をつけなかったのだろうか。

 いや、そもそも名前がないということは苗字すらも存在していないため両親にも名が無いこととなる。

 とすると、何かの掟が彼女らに『無名』と言う名称を与えたのだろうか……。


「えっと、誰かに呼ばれてる名前とかは?」

「ない」


 間髪入れずに応える。まるでこの話を拒絶するように。先は考えなかったが、もしかすると無名とは忌むべき事なのかもしれない。


「じゃあ……なんて呼ぼう?」


「チッ、馬鹿にしてんのか? なら勝手につけて呼べよ」


 舌打ちし叱責される。この少女に怒鳴られると迫力と威圧感があり少し怖い。とは言え名付け親になる資格を与えられたため即席の名前を考える。


「そうだな……即席で……黒金白翼ってのはどうだ」

「えっ……は?」


 悠斗の提案に少女は二度も間抜けた声を出す。

 ネーミングセンスの無さに思わず声が漏れたのかそれとも……真面目に考えるとは思わなかったのか。


「あ、えっと、イヤか……まてよ、なら……」

「…………なんでそんな名前なんだ」


 驚いた顔を隠すように俯き加減に問う。

 悠斗の提案した名前が何故か心に刺さったらしい。


「え、ああ、単純だけど羽が白と黒でカッコ良かったからだな。黒金か白金か迷ったけど、なんとなく黒金で。あ、金ってのはパッと浮かんだカッコよさげなものだったからだな」


 悠斗の説明に目を見開き僅かに涙を浮かべる少女。

 悠斗はその表情を目に移して困惑する。

 ちなみに『金』を名字にした理由としては純粋この世界に存在する名字がすぐに浮かばなかったこともある。


「え、あ、えっと、悪い悪い、今のは無しで別のを――」

「いや……それでいい。…………何年ぶりだろうな」


 動揺している悠斗の言葉を遮り小さく応えるが俯き表情を隠しているため顔はよく見えない。最後の一言は誰にも届かないよう小さく呟くが、悠斗に届かないはずがない。その後頭をパッと上げ涙を堪えて正面を見る。

 男っぽい勇ましい口調から一変、乙女のような可愛らしい姿を見ることができた。


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