第二十四話 蔓延る悪
体がぐるぐる巻きなされ身動き取れない。
束縛された状態で、頭から足まで動かせず視界も白い糸で閉ざされている。
少し粘り気のあるその糸は、触れた感触が気持ち悪く、足掻くのを躊躇うほど。
突如、弱い風圧に体が押されるが、幼い体でもまだまだ耐えられるほどだった。
しかし、全身を粘糸で拘束された少女――エリカは突如現れたクモに襲われたこと、体を拘束され訳のわからぬ場所へと運ばれること、そして何より見知った人が死んでいく光景(思い込みだが)を間近で目撃して大量の涙を流し嗚咽を漏らしていた。
咽び泣きは風に攫われ、誰の耳にも止まらない。
いや、どちらかと言えば、泣き声を残しエリカが攫われている、の方が正しい。
エリカ自身は自覚が無いが、丁度エリカが運ばれている間、彼女は音速を超える速度で移動していたのだから。
勿論、途中で停止したり速度を下げたりという場面はあったが、それもエリカは気付いていない。
瞼に鼻に頰に、ましてや服までを涙で濡らしたエリカはしばらく糸玉の中に閉じ込められていたが、外での動きが止まるのとほぼ同時に解放された。
ついに待ち望んだ解放。
しかし、その解放は望んだものとは違っていた。
糸が破られる音に合わせて、二人の男の話し声も聞こえる。
やがて、糸がほとんど破られると、
「おっ、案外可愛いんじゃね、割と好みなんっけど」
「蓼食う虫も好き好きか、このロリコン」
エリカに差した光を遮る男たち。
一人のチャラい雰囲気の男を、もう一人の冷静沈着そうな男が罵倒する。
エリカの流した涙で粘糸が濡れていた。
それを引き千切ったチャラい男が、
「あれ、ミスティアちゃん、漏らしちゃったやつ?」
と、下品な冗談を言う。
「やめてくれ、虫唾が走る」
相方は男の性格と性癖に辟易しているのか、またしても罵倒して顔を顰めた。
二人の見知らぬ男たちに恐怖し、エリカは全身を震わせ、更に涙を流す。
恐ろしさのあまり、声が出ていない。
そして、更にその涙目で、視界に捕らえたものがある。
それは、
「ひっ、いやァッ!」
自分の背後に静かに佇んでいた巨大なハチとクモ。
悠斗を襲い、エリカをこの場へ連行した張本人。
いや、人では無いので張本虫?
どちらにせよ、この瞬間から、エリカは虫と言う存在を拒絶するようになった。
振り返った先にいた、二匹の虫を目にすると、エリカはその二匹から距離を取る。
「うわぁお、ミスティアちゃんから寄って来てくれるとか、うれちー」
しかし、反対側には二人の男。
虫から遠ざかると、必然男たちに近づいてしまう。
チャラ男はそれを勘違いして、勝手に喜んでいた。
「その態度をやめろと言っているんだ。俺の指示を無視するんじゃない」
まともに見える男が、チャラ男を嗜め……というか怒って手を掴む。
その隙にエリカは二人からも距離を取る。
心にゆとりなど微塵も無いが、余力で周囲を見回した。
今頃気づくが、ここは室内。
室内といっても、綺麗な作りでもないし雰囲気から言って地下だろう。
石の壁に石の天井、無駄に大きい扉だけは木製だ。
「ちぇっ、ちょっとぐらい良くね? 硬い頭してんな」
チャラ男は肩を竦ませた後エリカの元へ歩み寄りしゃがみ込む。
そして、なんとその体を軽々と持ち上げた。
「ねー? ミスティアちゃん」
「い、いや! やめて! 離して、離して!」
チャラ男は相方の忠告を気にも留めず、変わらずエリカにちょっかいをかける。
エリカは泣き喚きながら、手にした袋を顔に当てたりと無意識の反撃を繰り返していた。
「まったく、蛙の面に水だ」
相方はそういって嘆息すると、巨大バチと巨大グモの側へと歩み寄り頭などを撫で始めた。
チャラ男はエリカの攻撃が止まないので、虫の側へと歩み寄った。すると、エリカは突然動きを止め涙を垂らして硬直する。
「蛇に睨まれた蛙だな」
「それな、この絶望感に満ち溢れた顔もたまんなくね、マジテンション上がるわー」
エリカの表情にそれぞれが気持ちを表現する。
チャラ男に関しては性癖が非常に気持ち悪く、悪趣味だが、相方は相当まともだ。
「それより、王はどうした。ユリテウスを王座から下ろさないと話にならないんだぞ」
「ああ、それならダイジョブッしょ。この場所が分かるように跡は残しといたし、ちゃんと罠も張ったし。俺ってばやっぱ天才じゃね?」
エリカを掲げながら自己陶酔を始めるチャラ男。
「虫が好かんな」
自惚れる相方と距離を置き、男は虫との交流を深めた。




