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神の名のもとに〜異世界と現実の狭間に生きる〜  作者: 麒麟燐
第二章 王政奪還編
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第二十一話 過保護


 夕食は基本的には滞りなく済んだ。

 ひとつだけあった問題といえば、エリカが案外無骨な悠斗に口うるさく説教していた程度だ。



 その後、部屋に戻る。


 遊び道具もなく、必然的に即就寝の方向で意見が一致する。

「ほら、エリカ風呂入ってこいよ」

 入浴の流れになり、普段は自己優先の悠斗が珍しくレディーファーストのクソ制度を適用した。

 理由は、単にこの部屋がエリカの金で泊まった部屋だからである。

 いつも悠斗が入浴を自分優先にするのも、あそこが悠斗の家だからだ。

 ……直訳すると、幼いエリカに優しいわけではない。


「そうですわね、それじゃあゆうとも来なさい」

「はあ? なんでそうなる」

 備え付けの脱衣所へ向かいながらエリカが悠斗を何気なく誘う。彼女の手の中にはキューちゃんもいた。

 エリカの幼児体に興奮したりしない……と思うが、この年齢差で混浴など不健全だ。

 悠斗の純粋な疑問にエリカは純粋な瞳を向ける。

「――? だってわたくし1人では髪が洗えませんもの」

「――ぇぇぇ…………」

 まさかの過保護生活による一人暮らしへの支障。

 王家の娘は召使いにでも洗ってもらうのだろうか?

 ……いや、それとも案外一般的にこの年齢の子は親に洗ってもらうものなのか?

 自分が一般家庭の基準と異なるため、比較対象がない。

 1日程度髪を洗わずとも…………いや、女子的事情でそれは無理か……。


「ほら、何をぐずぐずしていますの、早くしなさい」

「あああああ、分かった分かった、自分でやるから」

 準備に移行しない悠斗に痺れを切らしたエリカは服を脱がせようと脱衣所から出てくる。

 それだけは悠斗のプライドに似た何かが絶対に許さなかった。

 渋々風呂場へと行く。

「……堂々と……」

 悠斗の前では羞恥心を見せないエリカがスルスルと服を脱いでいく。

 当然あっという間に全裸になる。

 体は未発達も未発達で、若いな〜と、しみじみと感じた。


「あら、随分と狭い浴場ですのね」


 扉を開き中を見ると、一般的なホテルのお風呂の風景があった。

 ホテルの備え付けとしては十分な大きさだが、彼女は自宅の豪華な温泉とでも比較しているのだろう。

 拍子抜けしたように言うと「まあいいですわ」と切り替えて早速シャワーで体を流し始める。

「ゆうとも早くしなさい。動きが遅いですわよ」

 シャワーを止め、悠斗を催促する。

 悠斗は彼女にまた服を脱がされそうになる事を恐れ、急いで服を脱いだ。

 タオルを腰に巻き、隠す所を隠すと、

「入るぞー」

 と気怠そうに合図して扉を開いた。


 エリカが体に石鹸をつけている。

 泡立てている。

 体の隅々を擦っている。


 興奮は……して……いない!


 あーちゃんやノアを推すといったロリコン的素質はあるかもしれないが、このエリカは幼すぎる。

 対象外だ。

 そうであれと願っている。


 体を洗い終わると、そのままちょこんと床に座り、

「特別に今は髪を触ってもいいですわよ」

 と言って、遠回しな要求をする。

 素直に従うのも悪くはないが、少し悪戯がしたくなった。

「ん? じゃあ触らなくていいから、自分でやりなよ」

 上から目線な態度を改めさせる目的を建前に、そう言って断る。

 エリカはむっ、と頬を膨らませて悠斗を睨むが怖くない。

 寧ろ可愛い。

 悠斗は湯船に浸かるふりをしてエリカの言葉の訂正を誘発する。

 悠斗の爪先がちょこんと湯にあたると、湯船全体に波紋が広がる。


「ちょっと、わたくしが珍しく許可しているんですのよ、そんな態度は――」

「いくら身分差があっても人に頼む態度ってのは、一定のラインまでは頭を下げないといけないだろ……」

 悠斗を静止し何を言うかと思えば、変わらぬ態度で遠回しに命令するだけだ。

 それに対する悠斗は教育環境の悪さに呆れながらそう指摘した。

 何故か悠斗よりもエリカの方が怒っている。

 そのため、エリカの声は風呂場内ではよく響いた。


「うぅ…………」


 こんな幼き少女にどんなプライドがあるのやら。

 頬を膨らませ、呻きながら思案する。

 今の態度を貫くか否か。


 結果――

「……頭、洗いなさい……」

 悠斗から顔を背けて背筋を伸ばす。

 これが彼女なりの頼み方なのだろう。

 動詞が命令形になっている時点でアウトだが、進歩はしている。一向にこの空間から動けないと予測して、悠斗も妥協し、手にシャンプーをつけた。

「……ほら、洗うぞ」

 まず頭頂部に手を当て、そこから泡立たせながらシャンプーの領域を広げていく。

 桃色の髪がシャンプーの白に飲み込まれていく。

 繊細であろう幼き女子の髪。

 悠斗は爪で傷つけたり、力強く擦ったりしないようそれなりの配慮を見せた。


 女子の髪を触る機会はあったが、洗う機会など一度もなかった。

 長髪の洗い方がイマイチ分からない。

 慣れない手つきで繊維に沿って梳くように桃色の綺麗な髪をなぞる。

 つるつるの髪が、シャンプーで一層艶を増す。


 頭と髪を洗い終え、シャワーを手に取った。

 温度を切り替えても、数秒間は水が出るのでまずは湯に変わるのを流して待つ。

「流すぞ」

 手で触れて切り替わったことを確認すると軽く合図してエリカの頭にシャワーを浴びせた。

「ぶーーーっ」

 湯をかけている間、エリカはそうやって声を出して口内への水の侵入を防いでいた。


 ごしごしと泡を落としていく。


 しかし、数秒でエリカの息が切れるため、その都度シャワーを止める必要があり面倒だった。


 そんなこんなで、洗い終わるとエリカは湯船に浸かった。

 湯船には洗面器に入ったキューちゃんもいた。

 悠斗は、その時初めて気づき「そこにいたのか」と呟いた。


 悠斗も早々に体を洗うと、少し寒いが風呂場を出ようとした。

 すると、

「ゆうと、浸からないといけませんわよ」

 と嗜められる。


「……いや、でもな、一緒に入るのはまずいだろ……」


 手遅れな発言で場を逃れようとする。

 エリカも「何を今更……」と嘆息している。

「ふきつですわよ」

「不潔な」

 エリカの単語の間違いに鋭く反応する。

 風呂に入らないから不潔は分かるが、風呂に入らないから不吉は意味がわからない。

 あかなめでも出るのだろうか?

 いや、あかなめは浴槽のあかを舐めるため風呂に入った方が出る確率が高い。

 とすると……ねずみ男?

 あいつは確か風呂にも入らず臭いやつだったはずだ。


「いいよ、それでも」


 そう言って悠斗は「さむっ」と言いながら風呂場を出た。


「…………寒いなら浸かればいいですのに……ね、キューちゃん」

「ぷきゅーー」


 愚痴を溢し、手元の洗面器の中にいるキューちゃんに同意を求めた。

 言葉を理解しているようにキューちゃんは声を風呂場に響かせた。


 悠斗はその楽しそうな声を背後から受けながら、風呂場を離れた。




 待つこと10分。

 エリカも漸く風呂から上がった。


「もう寝るぞ」

 悠斗は再度制服を着ており、そのままベッドに座り込んでいる。

 着替えがないので清潔ではないが制服のままの就寝となる。

 こんな堅苦しい睡眠は正直疲れる。

 が、文句を言っても服は手に入らない。


「ま、待って」


 悠斗が消灯しようとすると、エリカがそれを止める。

 悠斗は上げかけた腕を下ろし、背後を見るとエリカはキューちゃんの寝床を探していた。

「もうその辺の椅子の上でいいだろ」

「ダメですわ、それじゃあ風邪ひきますもの」

「魔物が風邪ね……」

 風邪をひく魔物がいるのか。

 魔物も万能でないと知ってはいるが、そこまで軟弱とは思っていなかった。

 しかし、よくよく考えれば、この世界での魔物は現実世界での動物と同じだ。その等号が正しいか分からないが、もしそうだと仮定するならば風邪をひくのも頷ける。


「じゃあお前が着ない服を掛けてあげればマシになるんじゃないか」

 そう発言するとエリカは「いいですわね」と言って折角畳んだ自分の綺麗な服をキューちゃんに掛けてあげる。

「ぷきゅるるーー」

 音がいつもと異なることから、喜んでいると推測できる。


「あ、そういえばエリカ」


 エリカの用が済みベッドに潜り込むと悠斗は電気を消し掛けたが、何かを思い出し再度その手を止めた。

「ぅん……なんですの」

 潜った掛け布団の中から顔を出して悠斗の方へ視線を向ける。

「明日も特にすることないんだろ?」

「………………まあ」

 悠斗の確認にエリカはバツが悪そうに視線を逸らしながら答えた。

 どうやらホームシックが始まったらしい。

 でもまだ頭は冷えていない様子。

 もう少し……最低でもあと1日はこの生活が続くだろう。


「なら、明日は図書館に行きたいんだけど、いいか?」

「図書館?」

「ああ」

 悠斗の提案に眉を顰めて疑問符を浮かべる。

 何のために?といった視線が悠斗を捕らえる。

「勾玉について調べたいんだ」

「まあ、いいですわよ」

 そう言ってエリカはぷいと反対側を向いて再び布団の中へと入っていった。


 悠斗はそんなエリカの読めない態度に肩を竦めた後、消灯する。

 ベッドに上がり身なりを整えたあと中に入る。

 季節は春。

 布団は暑すぎず寒すぎずで快適だった。


 天井を見つめ静かに目を閉じる。



 今日も波乱万丈、紆余曲折あった。

 相変わらず、悠斗は落ち着けない。



 悠斗の頭の中は勾玉やエリカ、過去のこの世界のことでいっぱだった。

 色々と熟考し、やがて、眠りに落ちた。



 暗い室内、閉じたカーテンを透き通って、月光が差し込んでいた。



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