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神の名のもとに〜異世界と現実の狭間に生きる〜  作者: 麒麟燐
第二章 王政奪還編
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第十七話 今は昔○○といふものありけり


「終わり」


 悠斗の言葉と同時に発光が止まる。

 ノアよりも美楽に聞かせるための言葉だ。

 これ以上は何もないと示すための言葉。

「ありがとうございます」

 ノアが首を回して悠斗を見る。

 兄の意思を汲み取ったように笑い立ち上がる。

「もう終わったんですか?」

「はい、終わりです」

「ほっ……よかった」

 美楽は自分の誤解だとようやく自覚し、安堵の吐息を漏らす。悠斗もよかったと思った。

 早々と部屋を出ようと、鍵を回しかけた悠斗、だが後方かでふとこんな事を言う。


「……? ノアちゃん、何か光ってますが」


 途端に悠斗に悪寒が走る。

 ノアが光ると言えば、彼女が消える前兆。自分の失態を想像して鳥肌を立たせた。

 急遽ドアから手を離し振り返ると、光っていたのはノアではなく、ノアの首元にかけた勾玉だった。

「本当ですね……何でしょうか?」

 不可思議な淡い光。

 勾玉と同じ色で、吸い込まれそうな輝き方だ。

 ノアがなんの躊躇いもなく手に取り見つめる。


「……?」

「見せてください」

「はい……」


 別の光に翳してみたり、遠ざけたり、近づけたりと色々な見方を試すが何も変わりがない。

 八尺瓊勾玉であることは、以前通達済みなので美楽は自分の方が詳しいと思ったのかノアに手を出す。

「……? どうしたんでしょうね」

 しかし、やはり美楽も分からないと首を傾げる。

「いいっすか?」

 流れに乗り、悠斗もその勾玉を手に取る。


 そして、美楽から悠斗に譲渡された瞬間――


「うあっ、なんっ――」


 室内が目を焼く白の光で包まれた。

 悠斗の声が途中で途切れ、美楽とノアの呻き声だけが響いた。

 悠斗の声が途切れた瞬間、光は何事もなかったように収まっていた。

 ビクビクしながらノアが視界を広げていく。


「ぅ……あれ……? お兄ちゃん……?」

「……え、悠斗さん?」


 ノアが開いた視界の中、兄の姿がどこにもない。

 ぐるりと部屋を一周見回し、悠斗の消失に気がつく。

 ノアの声に美楽も瞼を開けると、ノアと同じく当惑の声と表情であたりを見渡した。



 異世界にとって、テレポートはただの便利すぎる道具である。




           *****




 草地を踏みしめていた。

 視界が開け始め、まず始めに飛び込んできたのは目に優しい緑色の芝生。目が光にならないまま視界をさらに広げていくと、悠斗の前には大きな口を開けたトンネルのような通路がある。

 奥は黒々としており、先に何が待ち構えているのか想像もできなかった。

「つーー、またテレポートかよ……」

 幾度となく悠斗に襲いかかるテレポートの力。

 初のテレポート、ジェヴァニたちによるテレポート、美楽との試練の際のテレポート(あれは少し違うが)、そして今回のテレポート。

 利便性の高さのあまり、人々に乱用されるのではないか、そんな恐怖さえ湧いてきた。

「……参ったな……」

 辺りをぐるりと見回す。

 ノアと美楽の姿が見当たらないことから、悠斗だけが飛ばされたと見ていい。

 そして原因は十中八九、八尺瓊勾玉。

「……やってくれるよ、ほんとに」

 手の中に掴んでいた勾玉に陽の光を浴びせる。

 その光を反射する勾玉は、既に己の光を失っていた。

 この勾玉が悠斗を選んでここに転移させたと見て間違い無いだろう。


 辺りをもう一度ぐるりと見回す。

 そしてようやく気がつく。

 ここが複数の木とその周りにある塀によって閉塞された空間であると。

 案外こう言った状況には慣れている。

 これもエリカと出会ってから今日までの濃い日々のせいだろう。


「…………」

 屋根がないので、悠斗なら塀を飛び越えて外へ出られそうだが、このような形で呼ばれたと言うことは通路の先へ進めと言うことだろう。

 覚悟を決め、暗闇へと足を運んだ。


 ある程度は闇の中でも分かるので、さほどいつもと変わらない歩速で進む。

 そしてやがて――

「ああ? 行き止まりじゃねえかよ……」

 一本道を真っ直ぐに進んで来たが、通路が塞がれていた。

 ここだけ薄暗い灯りもあるのでてっきり出られると思ったが、見たところギミック等も存在するとは考えられない壁だった。

 最悪の場合壁は打ち壊せるが、この向こうにずっと壁が続いていればそれは労力の無駄だ。

 つまり、ここで取るべき最善の行動は、

「戻るか……」

 一気に活力を失い、萎えた気分で元片道(一本道だが)を折り返して行った。


 出口の光が見えてくる。

 ずっと暗闇にいたので、光が真っ白で目に痛い。


「――――」


 声がした。


「誰かいる!」


 誰かが悠斗の後から入ったのか、それとも前からいたのか定かではないが、入ってきたのなら、悠斗でもない限り脱出方法を知っているはずだ。

 悠斗は心を軽くして足を早めた。

 やがて声が近づき、気配も近づく。


「あははは、くすぐったいですわ」


 幼い少女の声。

 石の通路を踏み込む音が次第に大きくなる。


「っ! だれですの!」


 悠斗の靴音に反応した少女が、勢いよく振り返り何かを自分の背に隠した。

 眩しい太陽の元、芝生に座り込んでいる少女は幼い。

 小学生低学年あたりだろうか?

 少し長い桃髪が愛らしいが、悠斗を睨む剣幕な顔つきでその可愛らしさも半減していた。

「そっち側に入口は無いはずですわ、どこから入ってきたんですの」

 少女は悠斗に敵意剥き出しで語調も強く言い放つ。

 雰囲気からこの土地の所有者であり、悠斗より後から入ってきたと思われる。


「いやー、突然ここにテレポートしちゃったんだけど、君ここの子?」


 相手は子ども、下手に出てやれば簡単に何でも教えてもらえるだろう。

「そんなの嘘ですわ、こんな場所いつ知ったんですの」

 だが簡単にはいかない。

 テレポートの能力についても知っている様子。嘘では無いが到底信じられないと言う見解もきちんと出せていた。

 さらに悠斗への不信感は募り、少女は座ったままゆっくりと後ろへ体をずらして接近する悠斗から適切に距離を取る。


「いや、ほんとに今飛ばされたんだよ。君も無い? 突然どっかに瞬間移動したりすること」


 軽くジョークで場を和ませようと試みる。


「ありませんわよ、素人じゃありませんもの」


 遠回しに悠斗は素人だと罵られた。

 若干心に刺さる言葉だ。

 特にこんな少女に言われたことは大きい。


「じゃあせめてここから出る方法おしえてくれる? すぐに消えるから、ね?」


 にこにこと愛想のいい表情を保ち極力印象を悪くしないよう心掛ける。

 多分普通にキモい。


「今はダメですわ」


 あれ〜?


「ど、どうしてかな?」

 てっきり二つ返事でオッケーされると思っていた悠斗は不意打ちに態勢を崩す。

 髪を触った後、苦笑いを浮かべながら理由を問う。

「……今はお母様たちがわたくしを探し回っていますもの」

 悠斗の不気味な笑みに不快な顔をして少し距離を取ると親切に答えてくれた。

 答えながら少女は悠斗が悪者でないと悟ったのか、隠していたものを解放する。

 それが生物であることは理解できたが、肝心の姿は少女がうまく遮っていて見えない。意図的にだろう。

 いや、それより今しれっと少女はすごい発言をしていた。


「キミ、家出?」


「……あなたには関係ありませんわ」


 悠斗が突いた図星に少女は一度沈黙し、すぐに誤魔化す。

 態度がどこか子どもっぽくない。

 かと言って、大人びてもいない。

 少女は自分の影にいる生物に餌をあげているようだった。

「ふーん……。キミ、その動物何?」

 悠斗が近づき覗き込もうとすると、少女は必死にその動物を庇った。

 自分の背に動物を隠し、悠斗に敵対心を向け強く威嚇する。


「あなたには関係ありませんわ!」


 必死に庇い、両手を広げる。

 身長差や力量差で無理矢理に見ることは可能だが、か弱い女の子にそんなことをする男ではない。


「じゃあキミさ――」

「あなた、さっきからわたくしに向かってキミキミって、失礼ですわよ」


 少女が煩わしそうに髪をかき上げ、可愛い顔に多少の苛立ちを混じり込ませる。

 その動作の際、彼女が動いたせいで彼女が庇う動物の小さな朱色の羽が悠斗の視界に映った。

「そ、そうだね……」

 己を過大評価する少女に僅かばかり引きながらも一理あると少女の考えに同意する。

「えっと、じゃあ、キミの名前は……?」

 指摘されたから聞く、そんな無礼な人間だと思われるのは癪だが、事実な上にここを省くと面倒なので型に沿って尋ねてあげる。


「人に名前を聞くときは、自分から名乗るものですわよ」


 偉そうに胸を張って見下ろすような視線で悠斗を見上げた。

「…………」

 ん?

 なんだか少しおかしいような……おかしくないような。


 キミという二人称が気に食わない、納得できる。

 人に名前を聞くときは自分から名乗る、納得できる。


 ではこの二つを同時に指摘されたとき。


 それは少女の都合なため、名乗るのは少女からでいいのではないだろうか?


「…………俺は神本悠斗だ」


 少女に言いくるめられた感覚に釈然としないながらも、拗れさせるとまた疲労が溜まる。

 ここは冷静に流される。


「今の間は……まあいいですわ。日本名のようですから、『ゆうと』ですわね」


 まあ予想はしていたが、呼び捨てにされる。

 変な名前、とでも言いたげな目つきで悠斗を見下し(見上げているが)動物へと向き直る。

「それで、キミのお名前は?」

 やり返し、嫌味を込めて丁寧にお名前をお伺いした。

「……ゆうと、本当にわたくしのことご存知ありませんの? わたくしこれでも有名な方ですのよ?」

 誇示するように己を指し示し悠斗を試すような目で見上げた。

 ついに動物を隠すことも忘れ、うっかり悠斗にその動物の姿を見せてしまっていた。

 因みに、その動物とは鷲のような羽と上半身、そして獅子の体毛を生やした下半身。

 小さすぎて恐ろしさや勇ましさこそカケラもないが、間違いなく空想上の生物、グリフォンの子どもであった。


 だが、そのことは一旦忘れよう。


「ごめんね、本当に知らないんだよ、こっちの事は」


 悠斗の素直な返答に「ふーん」と興味なさげな声を出してグリフォンに餌をちょいちょいと与えた後もう一度悠斗に向き直ると、バッと勢いよく立ち上がる。

 偉大である自分の存在を強調するように自分の胸に手を当てふんぞりかえると、こう名乗る。



「わたくしは、父であり現国王のユリテウス・アルティア・スィースターの娘――」


 ――――――――――。


「――――ミスティア・エリキャス・スィースターですわ」



「………………は?」



 悠斗は数秒間世界から見放された感覚を覚えたのだった。



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