別の世界
日は暮れかけ、商店街はごった返していた。
帰宅するサラリーマン、買い物の中年女性、学生、子どもたち、ぶらぶらしている初老の男性、その他さまざまな人びと。
自転車のベルの音。ひとごみの中を徐行しつつ通り過ぎる自動車。
少し離れたところから、電車のレール音と警笛がひびく。
やがて空は暗くなり、街灯が灯った。
夜空に円い天体が昇ってくる。
月よりもはるかに大きい。そして青くかがやいている。
それは地球だった。
その上部、陽光に照らされている部分は中国大陸である。
よく見ると、その端に照らされているのは、日本列島だった。
わたしは大衆食堂に入った。
混雑している。
注文の呼び声。中華料理のにおい。コップの鳴る音。
薄汚れた店内では、古いテレビが野球中継を放送している。
私は手近な席についた。
女店員がやってきて、水の入ったガラスコップを手前に置く。
——ああ、これはあちらの世界なのだ。
私はなんとなく、腑に落ちた。
コップには、キリンビールのトレードマークが入っていた。