緘黙の難しさ
思わずタップすると、その薬の情報が出てきた。
場面緘黙は、生まれつき脳の前頭葉という、恐怖や不安を感じる部分が敏感なために起こるとも言われている。
誰でも恐怖を感じると体が固まって動けなくなると思うけど、それが日常的に起きるのだ。
その緊張を緩和し、かつ言語野を刺激する成分がとある薬草から発見され、抽出することに成功。緘黙状態になったとき、もしくはなる場所に行く前に飲むと、緘黙状態が緩和され、言葉がするすると出る…と書いてあった。
…いやいやいや!怪しい!嘘くさい!
そんなもんで簡単に治るんだったら苦労しない!
そもそも、場面緘黙の原因はまだはっきりわかっていない。
生まれもった気質だけでなく、心理的な要因や生育環境も影響しているかもしれない。
だから、これを飲めば場面緘黙が治るという薬もない。
症状の強さや出方も人それぞれで、症状が強い人や他の精神疾患がある人は、病院で不安を和らげる薬をもらったりするけど、緘黙の特効薬ではない。
発症するのはだいたい幼少期だから、気づいたら早めに診断してもらって、薬物療法と行動療法をするのがいいと聞いた。周りが安心できる環境を作ってあげて、ちょっとずつちょっとずつ出来ることを増やしていく。
決して無理強いせず、本人が意思表示するまで気長に待ってあげたり、いろんな事を体験させて自信をつけさせたり…かなり長期戦になるみたいだ。
私の子供の頃は場面緘黙なんてほとんど知られていなかったので、私も周りも全く知らなかった。
診断もされていないし、数年前にたまたまネットで目にして、これだったんだとわかったぐらいだ。
しかも子供だったらそういうアプローチがあるけど、大人で引きずってる人にはサポートとか全くなく…どうしたらいいんでしょーね…って感じ。
それがこんなんで解決?
いやいやいや!あるわけない!絶対騙されない!
私はそのサイトを閉じてゲームに戻った。そして、そのプレーが終わるとカフェラテを飲み干し席を立った。
都心を離れた少し下町寄りの場所にある小さなマンション。
そこが私の実家だ。…って今も実家住まいなんだけどね。
「ただいま~…」
家に帰ると、ふわりと香ばしい揚げ物のにおいが鼻をついた。
お、今日は唐揚げかな?
思わずお腹が鳴って、ふっと肩の力が抜ける。
やっぱり家は安心する。
それにしても、お母さん、最近カロリーを気にして揚げ物作らないのに珍しい…。
そう思いながらキッチンと繋がっているダイニングに入る。
「お、姉ちゃんおっかえり~♪」
そこにいた人の顔を見て合点がいった。
「蓮!あんた来てたの?」
にっこり笑顔でひらひらと手を振っていたのは、我が弟の長野 蓮だった。