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文化祭っ


 デパートで買い物をしている時だった。


「あれ? 彼女さんじゃありません?」


 不意に聞き覚えのある声にそう話しかけられ、わたしは振り向く。

 そこには中学生くらいの女の子がいた。

 わたしの顔を確認すると「やっぱりそうでした〜」と近づいてくる。 そういえばかなり久しぶりな気がする。


「奇遇だね凛ちゃん」


「そうですね。わたしは今さらながら冬服を買いに……」


 凛ちゃんは苦笑いしながらここにいる理由を話した。わたしも似たようなものだった。


「わたしも。着れはするけどキツいんだよね」


 成長期はすぐ色々と買い換えないといけないから困っちゃうよね。


「な、なるほど……たしかに大きいですもんね」


 凛ちゃんが胸を抱くようにしながら羨望の眼差しを向けてきた。やったー、ってことはわたし憧れの的になってるってことじゃん。

 そのままわたしのことを見つめ続けていた凛ちゃんは、ふと思い至ったように聞いてきた。


「名前、たしか宮里ひかりさん、でしたよね?」


「うん、そうだけど」


 名前覚えててくれたんだ。てっきり彼女さんって呼ぶから顔だけ覚えられてそれ以外忘れられてるのかと思ったよ。


「もしかして、あかりって名前の妹います?」


 そして唐突にわたしの一番身近な固有名詞が出てきてびっくりした。


「うん、いるよ」


「やっぱりそうでしたか。実はですね、宮里あかりちゃんとは同じ中学なんです」


「えっ、そうなの!」


 そんなことは思いもよらなかった。

 でも、よく考えてみたらわたしと杉本くんの家近い方だし中学が同じでも不思議ではないのかも?


「あかりちゃんが最近よく『お姉ちゃんが付き合ってるんだよ、爆笑だよね。あーわたしも付き合いてー』なんて言うんです。それでそれを言い始めた時期と苗字とかからして姉妹なのかなーって」


「へ、へー」


 わたしの妹、結構欲求不満なんだな。なんかわたしに似てる。そして情報を拡散しないでほしいんだけど。家に帰ったら言ってやろう。そういえば、杉本くんの名前は教えてないからあかりは凛ちゃんと杉本くんが繋がってることに気づかないのか。


「ところで彼女さん。いや、ひかりさんって呼ばせてもらいますね。不都合なければこれからお茶でもどうですか?」


 わたしと凛ちゃんの手にはそれぞれ袋が握られていた。つまりわたしたちはするべき買い物を終わらせた後なのだ。

 そしてこのお誘い。急用もないし、大歓迎だ。


「うん。ぜひぜひ」


「じゃあ行きましょう」


 わたしは凛ちゃんに連れられてお茶をする場所へと向かった。



「……と、いうわけで、お兄ちゃんとの出会いを聞かせてください」


 真冬に嬉しいホットの紅茶が運ばれてきたところで、凛ちゃんがいきなりこんなことを聞いてきた。


「出会い、って言ってもなあ。杉本くんとは最初から同じクラスで、気にかかってて、それで告白して、そうして今に至るわけなんだよ。だから凛ちゃんの期待してるような運命的な出会いっていうのはないよ」


 というかそもそもそっちの出会いの方が少ないのではないか。食パンくわえて『ちこくちこくー!』なんて叫びつつ曲がり角でぶつかって……なんてことは現実には起きないし起こそうとする人なんて世の中の数パーセントしかいないだろう。そう考えるとわたしと杉本くんは健全で自然で普通なんだなあ。

 いや、でもよく考えたら今の状態はわたしが一方的に告白してそれをオーケーされただけなわけで杉本くんがこちらをどう思ってるのかはわからないぞ。お試し感覚で付き合ってる、なんてこともあるかもしれない。


「お兄ちゃん、いつも口数少なくてあんなですけど、家ではひかりさんのこと話すんですよ。『可愛い』とか『かわいい』とか『カワイイ』とか。単語だけですけどひかりさんのことが好きなんだなあってことは伝わってきます」


 ちょっと、今の違いあった?

 それはそれとして。……杉本くんもわたしのことそれなりに考えてはくれてるんだな。


「ので、付き合う前に何かエピソードがあると思ったんですが。何かあったら聞いてみたいです」


 エピソード、か。そうはいっても、わたし杉本くんと付き合うまではほんの二言三言交わすだけの仲だったんだよな。

 まあ、あったといえば、あったかな。


「文化祭の時のこと、聞く?」


 凛ちゃんの顔がパアッと明るくなった。


「はい、ぜひ!」


「うん。準備のところから始めるから長い話になっちゃうと思うけど」


「大丈夫です。時間はたっぷりありますから」


 凛ちゃんが紅茶を一口飲んでホッとため息をひとつ。わたしも同じように一口。


「じゃあ、夏休みが終わって二学期が始まったあたりから。わたしのクラスでは――」


 そうしてわたしは語り始めた。

 告白する前。わたしがそこまで至った経緯を。


 ☆♪☆♪☆


 二学期が始まると夏休みのボケも抜けきらないうちから来月に差し迫った文化祭についてクラスで話し合いが行われた。


「……では、実行委員はこの四人にお願いします」


 わたしがそういうと、ぱちぱちと拍手が起こった。

 実行委員というのは、文化祭の運営について重大な役割を担う役職だ。それが立候補で全て決まったのだからこのクラスはすごいのだと思う。ちなみにわたしは推薦されて危うく実行委員にされそうになったけど、学級委員という肩書きがあるから重複不可という先生の助けもあってなんとか逃れた。


「じゃあ、学級委員の進行はここまでにしてこれからは実行委員に進めてもらいたいと」


「宮里さんのまんまでいいよー」


 わたしはさりげなく戻ろうとしたけど先生に言われてそれは阻止された。そしてクラス中が相槌を打ったのでやめられる雰囲気でもなかった。

 わたしは観念して、この時間まではしっかりやろうと決心した。


「はい……。次はクラスの出し物ですけど何かやりたいことありますか?」


 これには次々と手があげられ意見が述べられた。『演劇』、『喫茶店』、『お化け屋敷』……他にもあったけどだいたいこの三つだった。

 そして、喫茶店は男子が仕事しないだろとか衣装姿見たいだけだろとかの女子の不評で消された。お化け屋敷も学校の規定で必要以上に暗くしちゃいけないとかなんとかで却下された。

 で、残ったのは。


「というわけで演劇になりました」


 まあそうなるよね。これも定番中の定番。ド直球だけど一番壮大でやりがいのあるもの。

 先もいったように文化祭はもうひと月まで迫っている。できることなら決められるところまで決めてしまいたい。


「演目の案はありますか。それとも脚本立てますって人」


 これにも色々あった。

『白雪姫』、『ロミオとジュリエット』、『マッチ売りの少女』、『かさこじぞう』、かさこじぞう!?

 ハッ。待てよ。

 白雪姫をやった場合……。

 わたしが白雪姫役を、王子役を杉本くんがするとする。

 白雪姫は魔女のりんごで眠っちゃうよね。眠っちゃうじゃん?

 そしたら王子がくるじゃん?

 王子は目覚めさせるために、き、キッスするじゃん?

 ということはわたしと杉本くんがキッスするじゃん!?

 ……いいかもしれない。

 わたしはこの時からもう杉本くんにまつわるこんなことを考えていた。


「はいはーい!」


 その時ゆいが目を爛々と輝かせて手を挙げた。


「なに?」


「ロミオとジュリエット、杉本くんと香川くんでやらない? もちろん香川くんがジュリエットで!」


 え、なにそれ……。そういうのって男女でやるからいいんじゃ?

 と、思っていたら「それいいじゃん」「その手があったか」「カオスだけど面白そう」などと結構好評だった。

 そして杉本くんと香川くんは突然の抜擢に目を白黒させながら「え……」「それ、マ?」と困惑した声を出していた。

 えっと、これはどうしよう。この無理やり感は良くないと思う。


「いったん静かに。みんな乗り気だけど二人はあんまりというか……」


 だけどそこでタイミングよく終わりのチャイムが鳴ってしまった。その流れで先生がホームルームを始め出したからこの件はうやむやになってしまったんだけど……。


 後日、先生の作ってきてくれた計画表には、『ロミオ・杉本』『ジュリエット・香川』としっかり書かれていた。

 そんなわけでこの二人は否応なく主役を演じることになったのである。

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