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先輩!

 学級委員をしていると、よくこんなことがある。


「宮里さん、これ職員室まで持ってきてくれない?」


 荷物が手一杯の先生に持てない荷物を運ぶように言われる。


「はーい、わかりましたー」


 別に、嫌じゃないんだけどね。好きかと言われたらそうじゃないというか。言われたらやるけど言われなかったら絶対やらないことだ。

 まあ愚痴みたいなのはここまでにしておこう。

 わたしはクラス全員分のプリントを持って職員室へ向かった。


「ひかり、手伝おうか?」


「大丈夫大丈夫」


 ゆいのありがたい申し出を軽い調子で断り、


「師匠、わたしが持ちます!」


「絶対だめ」


 ここねんの申し出を断固拒絶した。だって手伝わせたら必ずろくでもないことが起こるもん。ごめん別に悪口じゃなくてね。経験的に。

 となると次は順番的に杉本くんの番だけど……来るのは無理そうだね。男子にわらわら群がられてる。

 うん、これはいつものことだ。

 杉本くん、付き合い始めてから休み時間とかのたびにわたしの方に来てくれようとするんだけどその前に男子軍団に捕まっちゃうんだよね。イチャイチャさせるのを阻止してるのか、普通に杉本くんが人気なのか。たぶん後者だと思う。

 だから杉本くんとまともに話せるのは放課後の帰りくらいなんだよね。まあ帰りが一緒なだけマシか。もし杉本くんが部活入ってたら帰りさえ一緒じゃなかったわけだし。

 というわけで杉本くんとの共同作業は素直に諦めてわたしはお仕事を終わらせに職員室へ向かった。



「ありがとう宮里さん。助かったよ」


「いえいえ」


 先生の感謝に軽く会釈してわたしは教室へと引き返そうとした。


「失礼しましたー」


「あれ、ひかりんじゃない?」


 職員室を出たあたりで唐突に話しかけられた。

 そして、わたしをこんなキャラクター名みたいな呼び方をするのは一人しかいない。

 わたしは声に振り返って尋ねた。


「佐藤先輩?」


「あ、やっぱりひかりんだった。なんか久しぶりだね。二学期初かな」


 そこにはブロンドのうねった髪のギャルっぽい人がいた。あ、でもメイクとかしてないしキッチリとした服装的にはお姫様っぽいかな。


「本当に久しぶりですね」


 部活などのパイプがないわたしの唯一親しい先輩だった。

 そしてこの人こそ、この学校の生徒会長を務めるトップだ。つい先日までは副会長だった。つまり二年生だ。

 この学校は学年によって階が違うので普通に生活していても違う学年の人とは会わないことが多い。あるとしたら一堂に会する食堂くらいのものだ。それだってお弁当の人とか購買の人とかを除けば少ないものになる。


「これは運命なのかもしれないね」


「そうですねー」


 だからここで会ったことにそんなことを言われても引かずに対応することができた。


「先輩はなぜここに?」


「たまたま通りかかったらひかりんを見つけたの」


「へえ、すごい偶然ですねー」


「思い出すわね、この場所。覚えてる? 初めて会った時のこと」


 えっと、佐藤先輩と初めて会ったのは入学式の時だったっけ。

 忘れもしない(?)あの日――。


 *❀✿❀*


 四月九日、入学式。

 わたしは新入生だったけど、いち早く学校に来なければいけなかった。

 なんでも、入試成績上位者ということで新入生挨拶なるものをしなければいけなかったからだ。そのリハーサルを前もってするというものだった。

 まあ中学の時も何十回か人前で話をすることはあって慣れていたから緊張とかはない。面倒だったのは定型文以外のところを考えなきゃいけなかったことだろうか。

 まあとにかくわたしは朝早くの学校に到着した。人の気配のない学校に間違えたのではないかという不安を抱えながら正門をくぐる。

 たしか、職員室に一度集合するということだった。


「……って、本当に合ってるのかな」


 その職員室前。

 職員室には明かりが灯ってなかったし、シーン、という静寂がわたしのいる場所を包んでいた。

 でも、たしかにあそこの札に『職員室』と書いてあるから間違ってはいないはずなんだけど。


「なに、これってまさか洗礼? 文面だけで判断するなってこと?」


 わたしはもうあの連絡が暗号にしか思えなかった。そして不安はムクムクと膨らんでいく。

 そんな中、コツコツ、と。

 誰かが歩いてくる音がした。


「うわー誰だろう、なんか言われるのかな、君には失望したよ、みたいな」


 静まった中に突然響く足音に、この時わたしはお化けの可能性とか微塵も考えなかった。結局のところそんなことなかったけど。

 ということでわたしは足音と反対方向を向いてできるだけわからないフリをすることにした。

 どんどんと足音が近づいてきて、わたしの真後ろで止まった。


「おはよう!」


 いきなりの大声にびっくりしつつも、わたしは振り返って何も知らないフリを続けた。


「お、おはようございます……」


「あ、新入生って君か。私は佐藤ちはる。よろしくね」


 その人は先生ではないようだった。制服着てるし。そしてブロンドの髪に穏やかな表情は図らずもわたしを安心させた。


「宮里ひかりです。よろしくお願いします」


 なーんだ、洗礼とかじゃなかった。よかった。普通に集合場所はここで合ってたみたい。


「うん。で、ひかりんはここで何してるの?」


「ひか……」


 と思ったら洗礼だった。今まで会って数秒でそんな呼び方されたことない。

 じゃなくて。引っかかったのは後半部分。


「職員室に集合、と聞いていたんですが……」


「なるほど。だからこんなところで突っ立ってたのか」


 佐藤さんは、はははと笑った。何かおかしかったかな。


「ああ、いや、去年の私と同じことしてるなって思って」


「去年?」


「うん、私も新入生挨拶担当だったの。職員室集合って言われてまんまと今のひかりんと同じように待機してた」


 去年新入生ということは佐藤さんは二年生の先輩というわけか。


「え、ってことはここ間違いなんですか?」


「惜しいけどね。普通に入るんだよ」


 といって佐藤先輩は暗い職員室のドアをガラガラと横に開いた。わたしもおそるおそるついていくと、中には先生が集合していた。

「失礼します」と口を揃えて言ったあと、佐藤先輩は小声で解説してくれた。


「ここ、節電してるからすごく暗くない限り滅多に明かりつけないんだよ」


「そ、そうなんですね……」


 なんてわかりにくい。何も知らない新入生の集合場所としては不親切じゃない?

 ともあれ佐藤先輩のおかげで集合が完了すると、講堂に移動してリハーサルを行った。リハーサルは一回でオーケーをもらうことができた。

 先生たちもこれは予想外だったらしく、わたしは入学式の開会まで暇になってしまった。

 ここでも佐藤先輩は大活躍だった。


「私が校舎を案内してあげるよ」


「お願いします」


「っていっても、入学したあと学校回りはするんだけどね」


 といいつつも、佐藤先輩はわたしの暇つぶしに付き合ってくれたのだ。


「先輩はなんでこの時間に学校に?」


「先輩って呼ばれるの、二年生で私が初めてだな」


 佐藤先輩は照れくさそうに笑ってから、


「役員のためにね。私はこれでも生徒会副会長だから」


「そうだったんですか」


「うん。そのおかげで忙しい毎日を送ってるよ」


「へえ」


 といいつつ、佐藤先輩がお偉いさん(?)だったことを知って言動に気をつけようと心に誓った。

 それにしても、佐藤先輩はいい顔をしている。副会長という役職もなるほどと思える。

 わたしもこんな先輩になりたいなあ。

 そう思ったのはこの時だったっけ――。


 *❀✿❀*


 ……というのが佐藤先輩とのおおまかな出会いだ。


「あの時は色々とありがとうございました」


「いいって。私も一年生の時やってもらったことをしてあげただけなんだから」


「それ、まさか、三年生の前会長に、ですか?」


「……うん」


 色々と叫びそうになった。だって、前会長は男子だったもん。しかも佐藤先輩が恥じらっているのを見るに……。


「まさか、お二人は付き合っていてその件がきっかけ、というところですか」


「……そういうところ、鋭いよね」


 キャーだよキャー。どういう理想の恋愛だよそれ。入学式から始まるラブストーリーってもうマンガにできるよ。


「へ、へー。変なこと知っちゃったなあ」


「もういいよ。ひかりんなら知ってても。でもこの学校で知ってるのは少なくしたいから、ひかりん、しゃべっちゃダメだよ」


「わ、わかってます」


 逆にしゃべったらどうなることか。会長権限で何かされそうで怖い。

 と思っていたら佐藤先輩はむふふとイタズラっぽく微笑んだ。


「まあ、私もひかりんのことについてはよく知ってるんだけど。杉本くんのこととか」


「な……」


 な、なにぃ!

 たしかに学年には広まってるってゆいが言ってたけど。

 いいんだけどね、別に。隠し通せるわけじゃないし。

 わたしは佐藤先輩の肩に手を置くと、満面の笑みを浮かべた。


「先輩、これからも仲良くしましょうね」


「当然よ」


 こうして、彼氏持ちの二人の関係はより一層深まったのであった。

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