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いきなりゴールイン

 杉本くんはクラスメイトの男子だ。

 体型がスラッとしていて爽やかで、キリリとした顔は普通ならカッコいい部類に入る男子だ。

 ……普通ならって言ってる時点で普通じゃないと言ってるようなものだけど。

 高校一年生も半分を過ごして、もう文化祭。

 慣れつつあるクラスの中で、わたしの視線は図らずとも彼の方向に釘付けになっていた。

 わたし――宮里ひかりは、彼にとある感情を抱いていたのだった。というか、ぼかす必要もないか。単刀直入に好きだった。


「あの、杉本くん!」


 文化祭も終わりを迎え、帰ろうとする杉本くんに、わたしは呼びかけた。


「うん?」


 振り返る杉本くんのクールな姿を見ると若干気持ちが萎んだけど、今日のわたしはひと味違う。

 わたしは、もう決心して来たのだ。


「ちょっと……来てもらっていい?」


「うん」


 そういってわたしは彼を人気のない体育館裏へと連れていったのだった。定番中の定番だけどね。

 体育館裏の、ちょうど影が差す場所で、わたしは杉本くんと正面から向かい合っていた。


「…………」

「…………」


 ……決心してたけどやっぱり思ってたより緊張する――!

 言葉が出てこないよ。なんで杉本くんしゃべろうとしないの? なんか察さないの? なにクールな無表情でわたしを眺めてるの?

 ああ、もうダメだ、なんか話さなきゃ――!


「あの、さ……杉本くんって残らないの? ほら、打ち上げとかあるじゃん」


 結局、最近の出来事から掘り下げることで広げていこうという結論に至った。まあ片付けが終わると同時に帰ろうとしたのは少しびっくりした。


「うん、苦手」


 対して杉本くんは簡潔明瞭に、一番最適に簡略化された一言で返してきた。

 その中にはなんとなく色々な思いを感じたので、


「あはは、そっかー……」


 としか言えない。


「…………」

「…………」


 一言交わしただけで会話が終わった……。

 何かないか何か!


「きょ、今日はいい天気だねー……」


 しょうがない、こんな感じでお茶を濁すしか――。


「もう夕方だけど」


 はい正論突っ込んできましたー。そうだよね、今さら天気の話してももうすぐに終わることだもんね。


「あ、あはは……」


 もう苦笑いしかできない。

 まただ……。

 静かになった気まずさに危機感を感じながらわたしは杉本くんの特性について考えていた。

 そう、杉本くんが普通ではない一面。

 それは、完膚なきまでに無愛想ということだ。

 会話は一文で終わらせる。なにかの集まりには極力参加しない。おまけに表情も全く変わらない。

 そんな男子なのだ。男子の中ではそれが面白くて上手くやっていけてるみたいだけど、女子の中ではそのイケてる顔の割に評判があまりよろしくない。

 ……まあ、わたしはそんな普通じゃない男子に惹かれた普通じゃない女子なんだけど。

 もうそろそろ沈黙による気まずさがマックスになってきたところでわたしはもういっそ一気に言い切ってしまうことにした。

 だってこの分じゃ気軽な会話からナチュラルに続けるとか無理に決まってるもん!

 緊張で口がパサパサになっちゃったり、顔が暑かったり、足が震えだしたりしたけど、それでも構わず口を開く。

 ベタだけど誰もが最初は経験するようなセリフを。


「――あ、あの、杉本くんが好きです! 付き合ってください!」


「うんいいよ」

「…………」


 なぜだろう。言いきらないうちに返事が来たと思ったのはわたしの気のせいかな?

 相変わらず杉本くんは無表情でこちらを見つめていた。


「あれ……?」


「じゃあ帰ろっか」


 戸惑っているあいだに杉本くんは踵を返して歩き始めた。そうして時折チラチラとこちらを窺っているのでどうやら一緒に帰ろうということらしい。

 わたしは慌てて杉本くんの隣に並び、だけど保留になったままの事柄を聞いた。


「へ、返事は……?」


 だって、たぶんあの聞こえた了承の返事は空耳だもん。

 その問いに杉本くんは隣のわたしに一瞥くれたかと思うと、すぐに前を向いて口を開いた。


「言ったじゃん、『うんいいよ』って」


「……は」


 口をあんぐり開けてしまった。今のわたしはさぞ間抜けな顔をしていることだろう。


「え、本当に? 本当に言ってる?」

「うん」


「……嘘じゃないよね?」

「うん」


「……嘘だよね?」

「ううん」


 しっかり否定された。っていうことは、めんどくさいからとりあえず頷いていたわけじゃないということだ。

 それはつまり。


「――ええっ!!」


「……俺だって恋愛には興味があったんだ」


 そういって前を見つめる杉本くんの顔は無表情にも関わらず少し赤らんでいるようにも見えた。

 え、なにこれ、最高!

 たぶんわたし、今一番幸せな気がする!


 ――と、いうのはこの時だけだった。

 思えば、あの時杉本くんが赤くなったように見えたのはたぶん夕日の補正が入ったからだね、うん。

 彼の無愛想さは舐めちゃいけなかった。


「ねえ、今日一緒にカフェ寄っていこう?」

「いやだ」

「休日、どこか遊びに行かない?」

「いやだ」

「…………」


 付き合いはできたけど、ラブラブイチャイチャまでの時間はまだまだかかりそうです……。

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