Pre-Z-□:白玉オバケと二番目のアルファベット
白玉オバケと二番目のアルファベット
☆前回までのハコニワ☆
………………□□□。
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「おいバージ、“trick or treat”」
うちの玄関に白い布を被った正体不明の何かが現れた。
「おいバージ、お菓子、お菓子出せ」
白い布には簡単な目と鼻が描いてある。
声でわかった。
「──かむい。いったい何やってんだ?」
名を呼ばれたそいつは一度ピクッとなったが、すぐに体を揺らしてこう答えた。
「かむいじゃない。白玉オバケだ。お菓子をくれなきゃ“デリート”するぞ?」
あくまでもオバケで通すらしい。
「ハイハイ、“デリート”じゃなくて“イタズラ”な。──まぁ、とにかく中に入れよ」
そう言われて、俺より先に進もうとする白玉オバケの首にそっと手を伸ばして、掴んだ。素早く布だけをひっぺがす。
「おっ!?」
白い髪に白い瞳。先生は確か、かむいはこの姿を嫌っているといっていたはずだが。
「あっ!返せよ!」
とピョンピョン跳ねて取り返そうとするかむいを見て、俺は反射的に布を高く持ち上げた。
「今日は白いんだな。また魔法使えなくなったのか?」
ピタッと止まった。図星か?
「違う。……かんなに言われたんだ」
かむいの白い肌が少し赤くなった。
ふむ、これは──
「よし、続きは中に入ってから聞こう。菓子も準備してやるよ。ノロケ話はそれからだ」
「の、ノロケではない!」
もう耳まで真っ赤だった。
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外では木枯らしが怪しく躍りながら色づいたはを巻き上げている。
バージの家はどうしようもないくらいボロっちいが、それでも外と比べると断然暖かかった。
出された紅茶のパイをかじる──おいしい!
「気に入ってもらったようで何よりだ」
バージは苦笑した。
う、そんなに顔に出ていたかな……
「で、今日は何でそのままで来たんだ?」
ピタッと手が止まる。
それは今朝のことだった。
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カサコソカサコソ………
(ん?何か聞こえる………けど眠い………聞こえる………ねむみ………)
コソコソカサコソ………
(………何だろう………ねむっ………何ねむ………寝よう………)
カサカサコソコソ………
「「………せーのっ………トリックっオア、トリートォォオオ!!」」
「ひゃああああああああああああっふあああああああああ!!」
全身を駆け巡る電撃のような感覚、局所を的確に押さえたことによる避けることのできない洗練された手つき──
「やめっ………こちょこちょっ、やめっ………やめてぇぇえええ」
必死にそう叫ぶと、Aは俺を解放してくれた。
うう、まだ全身に力が入らない………
見ると、かんなとAは何やら怪しい格好をしていた。
かんなは黒いドレスに、ネコミミ?
Aは、えーと………たぶんドラキュラ。
「何なんだよ、一体朝から………」
「かむいさん、かむいさん!今日はハロウィンですよ!“trick or treat”!!」
………もうイタズラされたんですけど。
「じゃんっ!見ろ!かんながお前のために今日用の衣装を作ってくれたぞ!ほら、着てやれ」
白い布に目と鼻が描いてある、フードみたいになっているようだ。
「これは?」
「オバケです!白玉オバケ!ちなみに私はクロネコですにゃー」
可愛っ………!!
いかんいかん………
「フローラでは仮装大会なるものが有るそうです。一緒に行きましょう!」
「仮装大会?」
「ああ、町を仮装したまま歩くと招待されるんだ。で、優勝すると豪華賞品が貰える。今年は千年に一度なるかならないかと言われている直径3メートルの幻のカボチャ“ジャックオーランタン”だ。俺も二千年くらい前に食べたことがあるが………ひひっ………アレは旨かった………じゅるり………」
そんなに………じゅるり………
「わかった。でも、先に朝御飯を食べさせて──」
「ダメです。最高に空腹の時に食べた方が美味しいじゃないですか。私もAさんもまだ朝御飯を食べてないんです」
嘘だろ、馬鹿だろ?
かんなの口許からヨダレが覗いている。
「………わかったわかった。ちょっと待って。今支度するから………」
と言って、俺が自分の髪と瞳に魔法をかけようとすると、かんなに止められた。
「ダメです!この衣装、普段のかむいさんをイメージして作ったんです。綺麗な白い髪に瞳、隠すことなんて無いじゃないですか!」
かんなの青い瞳がぐっと近くに迫る。顔が近い………
「ば、バカを言うな!そんなの俺の勝手だろ?とにかく、俺はこの見た目を他の奴に見られたくないんだ。文句を言うなら俺は参加しない!」
「どうしてですか?別にもう白いからと言って責める人はいないですよ?もう気にしなくたって──」
「──逆に何でお前は平気なんだっ!!」
お前だってその姿で生まれたせいで散々な目に遭ったはずなのに、俺の苦しみだって少しはわかっているはずなのに………どうしてお前は、まだ人と関わりを持とうとするんだよ?
ポタリと冷たい雫がこぼれた。
「──あ、れ?」
何で、何で俺、泣いてるんだ?
溢れて、溢れて、止まらない。
何で、どうして、どうして──本当は俺だって──
「かむいさっ──」
「──ごめん」
バッと外へ駆け出した。
走りながら支度する。靴を纏って、服を変えて、髪と瞳は──そのままで。
習った通りにゲートを開く。
Aはどうして止めてくれなかった?
Aはどうして俺を叱らなかった?
わからない、わからないよ。
どうしてあの時、「俺だって」なんて思ったのか、わからないんだ。
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「──そうか、それで行き場所なくてここに来たんだな?」
コクン、とかむいが涙を浮かべて頷いた。
「そうか………」
正直、俺にもわからない。
先生に何があったかは聞いたけれど、俺には理解することは出来なかった。余りに昔のこと過ぎる。余りに過酷すぎる。余りに──
もう、かむいはパイに手をつけはしなかった。
いくら進めても、「いらない、あいつらも食べてないんだ」の一点張り。
仕方がないから、俺が取ってかじったら「ああっ!」と心から残念そうな顔をするのだから、どうしたものか。
俺は頬についたパイのかけらを親指で取ってから、紅茶を口に流し込んだ。
「たぶん、だけどさ。」
かむいが顔をあげた。
「かんなだって、苦しいんだよ。苦しくて苦しくて、仕方がないから、進むことにしたんだ。憎むだけじゃ何も変わらない。それを大好きなお前にも知ってほしくて、わかってほしくて………一緒に進みたくて、必死に手を伸ばしてるんだ」
「………でも、わかってても、」
「そうだ。別にそれはかんなの勝手。お前が気にする必要はない。伸ばされた手を掴まないといけないなんて法律は何処にも存在しない。──先生を見てみろよ。わかるだろ?ああやって好き勝手するくらいが、神様にはちょうどいいんだ」
かむいは何か気がついたようで、じっと自分の開いた右手を見ている。
そして、充分に時間がたってから俺の方を見て笑った。
「そうだな。勝手がちょうどいい。──俺は手をまだ掴まない。けど、今度は俺からかんなに手を伸ばすよ。ありがとう、バージ。行ってくる」
そういってかむいが立ち上がったとき、玄関の方から声が聞こえた。
「オーイ、バージいるかー?」
「先生!?」
かむいが玄関へ走っていった。
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「おっ!目当てが出てきた」
「かむいさん!」
外にはAと一緒にかんなもいた。
二人ともさっきの仮装のままだ。
「かむいさん、さっきはその………」
「さっきはごめん。折角頑張って衣装作ったのに無視して………」
かんなは頭を下げるかむいを見て、目を見開いて驚いたが、すぐに微笑んで、
「いえ、こちらこそごめんなさいです」
といった。
それでもかむいはまだ申し訳なさそうで、
「しかし………カボチャは………」とおどおどしている。
「あ、その事なら!」
パチッとAが指をならした。
煙と同時に直径3メートルくらいの大きなオレンジの玉が現れた。
「ジャーン!どうだ!かんながお前を探している間、俺は先に仮装大会で優勝してきたぞ!どうだ、凄いだろ?ハッハッハッ!」
いきなりのことに、かむいとかんなは目をぱちくりしていたが、ひとり「あっははは」と豪快に笑う男がいた。
「ったく、先生、あんたって人は………な、かむい。言っただろ?神様っていうのはこれくらい勝手なのがちょうどいいんだってな!」
それを聞いて、かむいもようやく状況を飲み込んだようで、今日一番眩しく笑ったのだった。
「ああ、本当だな。」て。
こんにちは。ななるです。
わりと遅めの「ハッピーハロウィン」です。
“うちドッ”とは対照的にしっかりとした内容で書いてみました。所々「?」なところもあると思いますが、それは後程。
次回は少し更新遅いです。楽しみに待っていただけたら幸いです。
次回があれば、またお会いしましょう!