Pre-Z-13:君がための青い目の剣士(12)
君がための青い目の剣士
☆前回までのハコニワ☆
バージの家、古い。
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二ヶ月前、Aはある神獣の保護のために地上に降りていた。
神獣というのは、神や世界が変わっても存在し続ける、不思議な力や役割を持った生き物のこと。それを守り、次に伝えるのも神様の仕事のうちだ。
今回の保護対象は“スクナメルジャ”という水辺に生息する生き物らしい。
「こいつが面白い生き物でな、黒い目の生き物にはこいつが透明に見える、つまり全く見えないんだという。しかもだ、こいつの出す紫の霧を浴びると大抵のやつは目が黒くなる。直接紫を浴びなくても、いずれそれは空気に溶け、ヤツの住まう辺り一帯にばらまかれて皆目が黒くなるってんだ、面白いだろ?」
神様とて、全知ではない。
先代から受け継いだものや世界が巡る仕組みを調べることとかがAは好きだ。今も目がキラキラしている。
「スクナメルジャには他の神獣同様に別の名がある──“Marker”──さっき、こいつの霧に触れたら大抵のやつは目が黒くなるって言ったろ?大抵の、だ。目が黒くならないやつもいる。例えばかむい、かんな、とかな」
「バージは?」ヤツの目は青い。
「三日後には真っ黒だな。──つまりは世界の理に反した者がスクナメルジャの霧の効果を受けない。神であったり、次期神であったり、普通じゃない力を持ってたり、世界において特別な役割が有ったりするヤツのことだ。バージはどれでもない。ただの凡人──ん?俺か?俺の瞳が黒いのはもともと。黒色の魔法使いだから仕方ない」
「ハハハッ」とバージが乾いた声で笑った。
「ええっと、何の話だ?……ああ、俺がスクナメルジャをどうしたのか、だな……もともとスクナメルジャはリュークの湖に住んでいたんだが、住人が魔法実験で湖の水を汚してしまってな。こいつは綺麗な水と空気を食って生きてるから、移動しなくちゃならなくなった。それで俺があたらしい住みかとして、フローラの東の森の湖に目をつけたんだ──」
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取り敢えずスクナメルジャの住みかは決定したが、移すこと自体に問題があった。フローラの人間は急に目が黒くなって混乱するのではないか、ということだ。リュークでは湖の周りの地形や風の影響で人には何の影響もなかったがフローラではそのまま霧が町に流れ込んでしまう。
考え事をしながらフローラの酒場で飲んでいると、バージに出会った。
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「バージはこの辺りを治めるフローラ家の三男でな、将来領主にはなれないが好きなことをしていい、と言われて悩んでいた。俺があったときにはそれはそれはベロンベロンに酔ってて『しゅきなことってなんだよお~』て愚痴を撒き散らしてたな」
「や、止めてください!子供の前で……」
バージは赤くなった顔をおさえてしゃがみこんだ。
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そこでバージとAは意気投合。それから二、三件と夜のフローラを遊び歩いた。
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「で、気がついたら道端で寝ちまってた。起きてびっくり、持ってきたナイフ“血塗り月”をどこかに落としたみたいでな。あわてて魔法で探してみたが見つからない。今思えば、既に人の形になってたんだな」
“血塗り月”というのはA愛用のナイフ。Aは基本的に刀やナイフなどを身につけて外に出かける。
「“血塗り月”は厄介な代物でな。普通に使うにはとてもいいんだが、呪いがかかってるんだ。月食が近くなると人の形になり町を歩く。数日に一度姿を変えて、戦いやすい体になっていく。──月食日に備えて、だ。月食日になる前に最後の変身を遂げて目が赤くなる。そして月食が来たら……あとは分かるだろ?」
人を斬る、だ。
いつもならそうなる前に何かしらの処置をとるというが、今回は最初の人の形がわからなかったから捜すことすら出来なかったらしい。
「血塗り月が暴れるのは月食前後の日も可能性がある。だから万が一に備えてバージを育ててやってたって訳だ」
まとめるとこういうことだ。
どうせ血塗り月を先に止めることは出来ないから、それを利用してスクナメルジャを移動させようとAは考えた。そうすれば町の人は赤めにトラウマができ、全員が黒目になるなら問題なく受け入れるだろうと考えたらしいが──
「かむいさんと考えてること似てますね!」
なんか一ヶ月前の自分を全力で殺したくなった。
「さっきも言ったが、血塗り月は月食前後の日も暴れだす可能性がある。どちらにせよ、俺がスクナメルジャを移動させている間に血塗り月の相手ができるやつが必要だった。そこで、バージだ」
バージはもともと剣術修業が好きだったらしく、すぐに話に乗った。勿論、神獣の話を含めて、だ。
「──一般人を巻き込んでもいいのかよ?」
「仕方なかった。それに最初の時点でこいつはお前より遥かに強かったしな」
むぅ……。
「俺は気にしてないよ。それにむしろ助かった。今の実力なら自信をもって家を出られる。──道場を開きたい、ていう夢が出来たからな」
「ま、師匠越えは一生無理そうだけどな」
「先生っ!」
ハハハッと笑ってAが立ち上がった。
「さ、俺はそろそろ帰ろう。かむい、かんな、お前たちは明日の昼に迎えに来る。そのときがちょうど入れ替わりの時間だ」
そうか、うっかり自分とハチあわせないようにしないと。
「そうそう、お前ら、」
そう言ってAは天界の門を開いて通り際にこう言った。
「本当、よく頑張ったな」
なんだか少し、くすぐったい。
けれどそれは、いつも朝起こされる時のようなものじゃなくて、少しだけ嬉しいものだった。
こんにちは。ななるです。
やっと、やっと、「君がため」完結です!
もうお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、このお話は「フラッタの剣士」の裏話です。いやー長い!
「ハコニワ」自体はまだまだ続きますが、次のシリーズに入るまでは長い間お休みとなります。
ただ、来週にハロウィン特別話を入れる予定なので、お楽しみに!(ハロウィンには間に合いませんでした……)
次回があれば、またお会いしましょう!