Pre-Z-10:君がための青い目の剣士(9)
君がための青い目の剣士
☆前回までのハコニワ☆
月食開始。
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突撃ついでにもう一発──驚いた、かなりの反応速度だ。
ほぼ不意打ちであったにも関わらず、赤目男は特に動ずることなく受け止めた。得物は刃渡り十数センチのナイフ。すでに血で染まっている。
見開かれた赤い瞳。だらしなく弛んだ口元。少し長めの灰色の髪。そして──なんだ?何か違和感がある。
「あぁがはああはははははっはっはっはっ!」
奇声ともとれる気色の悪い声で笑いながら俺のもとへ突っ込んでくる。
一発目は剣で受け、二発目を跳んでかわしたが、三発、四発、と隙のない動きになかなか攻めいることが出来ない。
短い得物に素早い猛攻。守り受けながら次の一手を考える。右、左、縦、右、右、突き──規則性も何もない。
くそ、予想していたよりも遥かに強い。何か手はないのか。
ふと、周りから声が聞こえる。
「「頑張ってえ!そんな男、さっさとやっつけて!」」
「「どうした坊主、へばってんじゃねぇ!早く殺せっ!」」
町民の声援。
まさか自分がそんな声をかんなとA以外にかけられるとは。
──全く、本当に耳障りだ。
「りゃあっ!!」
力任せに凪ぎ払う。
一度下がった赤目は再び接近。そして次はおそらく、突き。
タイミング合わせて奴の上を跳び、奴の後ろへ廻る。そして振り向きざまに可能な限りの重い一撃。
しかし、それは虚しく空を切った。
気づいたときにはもう遅い。少しずらすので精一杯だった。赤目は俺の動きを読んでいたのか、俺が前へ跳んだときには既に不可視領域に移動していたようだ。
直撃を避けたとはいえ、俺の軽い体は簡単にぶっ飛んだ。
固い地面で全身を打つ。
くそ、無理なのか?
「「なにやってんだよ。さっさと殺せっ!」」
「「相討ち覚悟だ、皆の命背負ってんだぞ」」
「「お願い、助けて!」」
刹那、煮え繰り返るように熱く、心が沸騰した。
ああ、そうだった。人はこうしてすべてを都合よく解釈して期待という名の押し付けをする。一を見ただけで千を知った気になって他人を語る。
──かつて俺に死を期待した人間は、今俺に自らの生を求む。俺の戦う姿を見て、自らがために戦っていると勘違いする。──ああ、何と滑稽だろう──だが、決して間違うな。俺が誰が為に剣をとり、何が故に瞳を青く染めたかを。
バネのように起き上がり、鉄砲玉の如く突き進む。赤目男はおもちゃが直って嬉しいのか嬉々として得物を振りかざす。俺はそれを確認せず、先に一撃を咬ます。いくら早かろうと、先にこちらが動けばいい。いくら読めなくとも、敵に動かせなければいい。
攻める。夏の夕立のように。
止める。何よりも隙が無いように。
敵は怯んで受けるのに精一杯のようだ。
──いける。
攻撃にスパートをかける。
すると奴は確かに口元を弛まし笑った。
「ニィひにひヒひ」
剣が弾かれた。
渾身の攻撃が、執念の連撃が、たった一度の一振りで無へと還った。
とっさに距離をとろうとするとあり得ない方向から奴の得物が飛んできた。左右同時。俺はバランスを崩してゴロゴロと後ろに転がった。
見ると奴の周りでナイフが七つ、宙を浮いている。
魔法が使えるのか!?そんなの聞いていないぞ!?
「うぎぃいひゃひゃひゃひがあははははっっっ!」
人とは思えない音を口から出し、赤瞳が夜に咆哮る。
同時に七つのナイフが奴を中心に放射するように飛んでいく。
それは近くにいた町民たちを刺し、抉り、肉へと変えた。何人死んだだろう?
かんなは──よかった。無事なようだ。
「ぎゃいひゃひゃひゃひゃひゃあっ」
赤瞳が俺めがけてナイフを飛ばし、自身も更に一本持って切りかかりに来る。──駄目だ、反応が追い付けない。
かんな、ごめん──
『───』
金属同士の激しい音。
見ると見覚えのある男がそこにいた。
黒い髪に青い瞳。いつもAから剣を習っていたあの男。
そいつは七つのナイフと赤瞳を、たった一瞬で弾き返した。
月は既に喰われ、真っ赤に染まっていた。
こんにちは。ななるです。
投稿遅くなってごめんなさい!慣れない戦闘シーンに苦戦しておりました……。楽しんでいただけたら幸いです。
気がついたらブックマークが一件増えていました!本当にありがとうございます!これは書かねば!と昨日から頑張って今になりました……ごめんなさい……
次回があれば、またお会いしましょう!