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あの手この手で落としたい


「おっ待たせー!」

 扉を開け放つと同時に、開口一番で弾んだ声。恵人は満面の笑みで屋上へとやってきた。初女装のあれから一週間が経った水曜日。今日は通算四度目の給水係の日である。

「テンション高いなぁ」

 恵人と正反対の地を這うようなローテンションでそう言ったのは三谷だった。当然のことながら屋上にいるのは係である恵人と三谷の二人のみ。いつも通りに胡坐をかいて文庫本を開いている彼は、今日も恵人より早く屋上にやってきていた。

 三谷は屋上に飛び出すように出てきた恵人の全身を見回し、

「女装してるって訳でもないのになんでそのテンションなの?」

 素朴な疑問を口にした。

「安心してよ。ちゃんと今日もセーラー服は着るから」

「それは求めてないかな」

「あっ、でも着替えてるところは見ちゃ駄目だよ。そこはお・あ・ず・け」

「…………」

 三谷は恵人との意思疎通を諦めた様子で、文庫本に視線を戻した。恵人の方もそれ以上会話を続ける気はなく、バッグを置いて中からセーラー服を取りだす。そして鼻歌混じりに着替えを始めた。三谷の耳に届くのは衣擦れの音と鼻歌のみ。

「はいっ、完了!」

 恵人の着替えが終わる。と同時に下を向いていた三谷の顔が、すっと上がった。

「なーんだ、やっぱり見たいんじゃん」

「声に反応して反射的に見たただけだよ」

 悪戯っぽく笑う恵人に、三谷は表情一つ変えずそう言った。恵人は、照れなくていいのにーなんてことを言いながらその場でくるくると回り始めた。スカートが広がり、ゆるりと円を描く。

「なんか今日は本当にテンション高いね」

「テンションが高いってわけじゃないんだよねー」

 恵人は動きを止めた。

「前回は失敗しちゃったから、それを踏まえて改善してるんだよ。もっとそれらしく、芯から美少女にならなくちゃってね」

「美少女になる?」

 三谷は明らかに頭に疑問符を浮かべた顔をしている。

「セーラー服を着て、ほんのちょっとそれっぽくするだけじゃそらもりさんを落とすことはできないってわかったからね。見初められるためには非の打ちどころのないような美少女にならなきゃでしょ?」

 恵人は小首を傾げ、三谷に微笑を向ける。

「そうすれば今日は成功するって?」

「それは神のみぞ知ることだよ。我々人間にできるのは人事を尽くして天命を待つことのみなのだ!」

「……若干キャラがぶれてる気がするけど」

 三谷は恵人の美少女っぷりに対し疑いの眼差しを送ってくる。しかし恵人は怯まない。方向性がいまいち定まっていないのは一旦無視しておくのだ。とにかく、何が正解かわからない以上、思いついたことをとにかくやる以外に近道などない。それは間違っていないはずだ。

 恵人は三谷の視線を気にかけることもなく空を仰いだ。一週間前と変わらず青い空が広がっており、その中には悠々自適に泳ぐ獣の姿もある。恵人は両手を空に向けて真っ直ぐに伸ばした。

「今日こそ虜にして見せるんだからーッ!」

 声は空へと吸い込まれ、あっという間に学校のあちらこちらから聞こえてくる生徒たちの喧騒しか聞こえなくなる。いまのはなんか美少女っぽかった気がする。恵人はたったこれだけのことに手ごたえを感じ、少しばかり満足げな顔で視線を戻した。

 幸先もよいこととて、恵人は上機嫌でバケツを掴み、いつも通りに水を汲んできて準備を整えた。恵人は三谷から少し離れたお決まりの位置に腰を下ろし、何の気なしに空を眺める。

 そうやっていれば、すぐにお待ちかねの時間はやってきた。

「あ」

 恵人の視界の中、空を泳ぐそらもりさんの動きが変わった。

「そろそろ来る?」

 恵人の漏らした声が聞こえたようで、三谷が顔を上げる。恵人が頷きを返すと、三谷は文庫本を傍に伏せ、すぐに立ち上がった。いそいそとバケツを持って屋上の中央に向かえば、そらもりさんはすぐに降下の態勢に入った。

 来る。二度目の挑戦の時がいま来るのだ。

 恵人は唾を飲み、そらもりさんを見る。今日はイケる。さほど根拠のない確信を自分の中で大きくさせ、それを表情に出さないようにしながら待つ。

 そして、そらもりさんはすぐに屋上に至った。

「――――ッ!」

 風が巻き起こり、視界が白く染まった。

 恵人は足を踏ん張り、必死に表情を崩さぬようにした。微笑を浮かべ、可愛さを維持する。二度目ともなると前回よりは少しばかり楽にできる気がした。しかし、

「……?」

 恵人は前回、いや、これまでとの妙な差異を感じた。それは水だ。そらもりさんに包まれている時に水気を感じるのはこの係においてごく当たり前のことだが、それは体が湿り気を帯びる程度のものでしかない。いままでと比べると、体に感じる水気が多い気がするのだ。その証拠に、服が肌にくっついてくる感覚まであった。

 予想もしていなかった出来事に意表を突かれつつも、恵人は必死に表情と姿勢を維持する。些細な出来事に気を取られている場合ではないのだ。

 そうこうしている内に、恵人の耳にまたあの音が届いてきた。あの、低く重い音が。

 吟味されている。いま恵人は見られているはずだ。そらもりさんの眼鏡にかなう女かどうか審査されている状況にある。それと関係しているのか、恵人は吹き付けてくる風が少し弱くなった気がした。そしてそれとは逆に体に感じる水気はさらに増した。何の意味があるのか、そんな変化に気を取られている内に、唐突に重低音は恵人の耳から消え去った。

「え……?」

 同時に、一際強い風が一瞬だけ屋上を吹き抜けた。

「わッ」

 そしてそれを最後に、風はぴたりと止んだ。そらもりさんの水分補給が終わったのだ。

 そしてそれは、今回も恵人が獣を落とせなかったことを意味していた。

「ふぅ…………どうだった? 今日は何か成果はあったの?」

 開口一番、三谷はいつも通りのローテンションンで恵人にそう訊ねた。

 が、次の瞬間、

「ぇえッ⁉」

 いままで恵人が聞いたこともないような素っ頓狂な声を上げた。恵人が驚いて彼の方を見てみれば、その顔は驚愕の表情で固まっていた。

「どしたん?」

「えっ、なんでそれ、えっ、嘘ッ! 嘘ぉ! えッ?」

 三谷は壊れてしまったようだ。恵人はあっさりとそう結論付けて目の前の男の珍妙な様子をよーく目に焼き付けようとした。こんな異常行動を前にして美少女がどう行動するべきなのかは恵人の脳内データベースには存在しないので、とりあえず素の自分なりに冷静に観察するという選択を取ってみる。

 対する三谷は、

「きみ、それなんなんだよ⁉」

 ようやく意味の通じる言葉を発した。そして同時に恵人の体を指差した。

「それ?」

 指された箇所を追うように、恵人は視線を自分の体へと下ろす。指の向く先は胸だった。そこにあるのは、

「あらら、服が濡れて体に貼りついちゃってるね。やけに水っぽいと思ったけど、やっぱりいつもより濡れてるわ。あ~もう、ブラまで透けちゃってるし」

 そこまで騒ぎ立てるようなものではなかった。

「いや、おかしいでしょ! なにそれ! なんでそんなもの着けてるの⁉」

 たまらず三谷が吠えた。

「そんなものとは失礼な。ブラは大概の女性が着けているものだというのに」

「きみは男でしょ! 女ものの下着を着けるのはおかしいでしょ⁉」

「あっはっは、セーラー服を着てる男に向かってなにをいまさら」

「そこは…………! そこはなにか一線があるじゃないか!」

「今日は最初に美少女になるって言ったじゃん。下着までそうするのは当たり前でしょ?」

「あッ! まさか着替えを見るなって言ってたのもそれで⁉ 下着姿を見られたくなかったから……!」

「あー、ばれちゃったね。いやぁ、奥ゆかしい恥じらいのある面を見せちゃったかな」

「そんな可愛いものじゃない!」

「可愛くない? ほら、透けブラしてても胸の小さな女の子にしか見えないでしょ? ねえどう?」

「見え…………………………………………見えない!」

「うっそだー」

「ぼくはきみなんかに欲情しない! それは断じてない!」

「いや、欲情してるとはは言ってないけど」

「きみはおかしい! そんな……! そんな……!」

 一言しゃべるごとにヒートアップしていく三谷。顔を真っ赤にしながらなおもなにか抗弁しようとする。

「目的は理解できなくもないが、その手段はどう考えても――」

 その時、不意に一陣の風が吹いた。

 恵人のスカートが、ひらりとめくれ上がる。

「あ」

 その中にあるものを、三谷はしっかりと見てしまった。

「ッッッッ!」

 彼がその場に力なく膝をついた瞬間、恵人は濡れた体に寒気を感じて身を震わせた。

「っくしゅ」

 まずまず可愛いくしゃみだった。


 学ラン姿の二人の男子生徒が屋上に座っている。二人の間にある距離は、さながら二人の心の距離を表しているようでもあった。

「初めて見たパンチラが男のものだったからってそんなにショックを受けることはないでしょ」

「それでショックを受けたわけじゃない」

 三谷は文庫本を開くことはせず、恵人と二人して空を眺めている。そばには満水のバケツがあり、いつでも獣が来てもいい状態だ。

「そりゃ、上を着けてれば下も着けてるよ」

 恵人は目の前に広げたセーラー服を指先でつつきながらそう言った。濡れたものを着たままでは風邪をひきかねないので、日光で乾かしているところだ。

「いや……」

 ちら、と三谷の視線が恵人の腰の辺りに向かう。が、見たのは一瞬ですぐに明後日の方を向いた。

「そこまでするもんなの?」

「するもんでしょ。むしろ、なんでしないのって話だよ」

 恵人はさも当然という風に言った。いまは学ランを着ているが、屋上にいることには変わりないため口調は美少女を意識したままのものだ。

「それに、実際に効果があったっぽいしね」

 言いながら、恵人は手元のセーラー服を持ち上げた。水気を帯びていて少し重みを感じる。

「いつもより濡れてるでしょ。三谷君の方はいつも通りだったのに、なぜかこっちだけ濡れてた。しかも下着が透けて見えるぐらいに。これはきっとそらもりさんがよーく吟味した証拠だね。下着の色やら柄やらまで確認するほどに」

「うえぇ……」

 三谷の口から呻き声が漏れた。顔を歪め、口をへの字に曲げている。

「それ、気持ち悪くないか?」

「気持ち悪かろうが悪くなかろうが、そうするぐらいには興味を持ってるってことだったらこっちとしては望むところだよ」

 そう言って笑う。その笑みもまた少女のものだ。この屋上にいる限りは板橋恵人は微笑であり続けなければならない。そしてそうしていれば、まだチャンスはあるはずだ。

 恵人はセーラー服を元の位置に下ろし、再度口を開く。

「下着を着けたり振舞いを変えたりするぐらいじゃ駄目みたいだけど、勝算はまだある」

 恵人には自信があった。女に興味があるのなら、自分の力で落とすことができる。そんな自信があった。

「……怖くはないの?」

 ぽつりと、三谷が言った。唐突で、思わず漏れてしまったひとり言のようなその言葉。

 しかし三谷は、続けてはっきりと言う。

「なにがどうなるかもわからないのに、あんな得体の知れないものに取り入ろうなんて怖くないの? 本当に何か特別な力が得られると思ってる? 死ぬかもしれないとか、空の上に攫われて、そこで一生を過ごすことになるなんてことは考えない?」

 単純な疑問というよりも、どこか責めるようなものを感じさせるその口調は、いままでにないほどに真剣みを帯びていた。

「そんなもの」

 三谷の問いは、確かにとても妥当なものだ。そう、

「考えたに決まってるじゃん」

 恵人がとっくに考えているほどには妥当である。

「そらもりさんについて正確な知識を持っている人なんて誰もいないんだから、リスクなんてのは嫌ってほど想像したよ。想像した結果、やってみようと思った。それだけだよ」

 三谷が問いに含んでいた深刻さをものともせず、こともなげに言う。

「リスクはあるかもしれないけど、逆転のチャンスがそこにあるかもしれない。不確定なそんなものに賭けてみたってだけの話だよ」

「そんなにいまのままが嫌?」

「そんなに嫌っていうか…………単純に脇役になりたくないんだよね。漫画でもアニメでもドラマでも小説でもいいけどさ、主人公がいいんだ。脇役人生は嫌。理由としてはそれが大きいかな」

「脇役……」

「けっこうありがちじゃない?」

「その考え自体は、理解できなくもない」

 三谷は小さく呟き、そして黙ってしまった。

 二人の間に沈黙が流れる。

 ちょっとちょっと三谷君、自分の言いたいことだけ言って人を質問攻めにしたあげく、急に黙っちゃうとは何事だい? なんて台詞が頭に浮かんだが、三谷の顔を見ればそれを口にすることは憚られた。空気を読むのも美少女である。

 ただし、

「…………」

 読んだうえでどうするのが正解なのか、恵人にはまだわからなかった。結果、視線が向くのは空だった。そこにいるのは悠々自適に飛びまわるそらもりさん。

 あいつを落とせば、この空気を変えられるような力も手に入るのかな。なんてことを思いながら、恵人はそらもりさんの姿をぼんやりと目で追っていた。


 翌週も、恵人の挑戦は続いた。恵人はひたすら女装姿で係の仕事にあたったのだ。

「じゃーん! どうかなどうかな?」

「……なにしてんの」

 三谷の呆れた顔を前にして、

「なにって、イメチェンだよ。服装を変えた程度だけどね」

 恵人は平然と言った。その言葉通り、恵人は定番のセーラー服ではなく、Tシャツにショートパンツという出で立ちになっていた。セーラー服でも露わになっていたその白い肌はより存在感が増している。

「制服はお好みじゃないみたいだから、いろいろと試行錯誤をしてみようってわけ」

 三谷は、恵人が初めてセーラー服姿を披露した時と同じように全身をまじまじと眺めている。

スカートを穿いていなくともいまの恵人は十分美少女として通用する見た目をしているはずだ。

「可愛いでしょ?」

「女には見える」

「そんなつれない言い方しちゃって~。本当はいますぐ抱きしめたいぐらいに可愛いと思ってるくせに」

「どこからその自信が来るのさ」

「こっちは母親と姉の審査を通過済みだからね。もう大絶賛だったよ。母親なんて、身の危険があるから父親にはこの姿は見せられない、なんてことまで言ってたし」

「急に別の不安要素が出てきたね」

「うちの父親は置いておいて、ともかくこれで再チャレンジだよ。透けブラの準備もオッケーだしね」

 自信満々の恵人は意気揚々とバケツに水を汲んできて、そらもりさんの給水を待った。さほどの時間が経つ間もなくそらもりさんは降下してきたが、しかし特別変化はなく空へと帰った。

「……なんもなかったなぁ」

 透けてしまって柄までくっきりと浮かんでいる下着を見下ろしながら、恵人は呟いた。三谷はそれを一瞥して、何も言わずに踵を返し扉の方へ歩いていく。

「ふっふっふ。しかーし、まだまだこれで終わりじゃないよ。こうなることも予測済み。次なる手は準備してあるのです!」

 振り返り、丁度扉を開けたところだった三谷をびしっと指差して宣言した。

「いや、わざわざ言わなくても好きにやりなよ」

 三谷はその体勢のまま顔だけ振り向かせ、一ミリも衝撃を受けていない表情で恵人を見返す。そして、扉の向こうへと消えていった。

「なるほど……」

 恵人はまたもやひとり頷く。

「正論だね」

 三谷の言葉に従った恵人は、彼が水を汲んでいる間に二度目の着替えを済ませた。

 結果、

「…………」

 屋上に戻ってきた三谷は、出会いがしらに恵人の膝上三十センチのミニスカート姿を見ることになった。

 三谷はしばしの無言ののち、

「いや、わかってる。いちいち訊かなくてもわかってる。言いたいことはあるけど返ってくる言葉もわかってるからそれも言わな――」

「可愛すぎて言葉を失っちゃった?」

「そんなわけあるか!」

「ほーらッ!」

 恵人はその場で思いきりジャンプをする。即座に三谷の顔が斜め下を向いた。

「やめろぉーッ!」

「そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。だって男同士だよ?」

「僕の周りにいる男は女物のパンツは穿いてない」

「それだけでそんなに欲情しなくても……」

「エロい目で見てるわけじゃない! 絶対に!」

「三谷君は怒りっぽいなあ。でも感情を表に出すってことは、それだけ二人の距離が近づいたってことだよね。ね?」

「ぐぅう…………。ふざけたこと言ってないでさっさと水を汲みにいきなよ。準備ができてないと愛しのそらもりさんがいつまでも下りてこられないよ」

「なにそれヤキモチ? もー、可愛いんだからぁ」

 笑い声を上げながら、三谷の返事を待たずに恵人はバケツを持って校内へと入っていった。おかげで、三谷の苦虫を噛み潰したような顔を見ずに済んだ。

 恵人がバケツに水を汲んで戻ってくると、

「お待ちだよ」

 腰を下ろして空を見上げている三谷が、恵人の方を見ることもなくそう言った。視線を追って空を見上げれば、そこには屋上に頭を向けながらうねうねと空を泳ぐそらもりさんの姿があった。

「今日はやけに早いもんだね」

「暑くなってきたし、喉が渇くんじゃないの?」

「そっか! 屋上に立つ謎の美少女の姿を見たくてすぐに下りたくなっちゃうんだ!」

「人の話を聞きなよ」

 無駄口を叩きながらも、二人はバケツを持って定位置に立つ。それを見止めたそらもりさんは一目散に屋上へ向かって下りてきた。そして一分も経たぬうちに水を飲み干し、空へと帰っていった。

「なにか成果は?」

 妙な話を振られないようにするためか、三谷は自分から恵人へ声をかけた。

「これは想定外だったかも」

「ん……?」

 恵人は妙に真面目な顔をしていた。女装を始めてからこっちあまり見せたことのない、美少女を演じていない顔が見え隠れしている。

「なにかされたの?」

 仮にそらもりさんから何かアクションを起こされたのなら、それは大いなる進歩を示しているかもしれない。三谷には関係のないことだが、何か変化があったのであれば、それに対しては単純な好奇の思いはあった。

 しかし、

「濡れちゃった」

 恵人の答えは三谷の期待に沿うものではなかった。

「濡れた? そりゃそうでしょ」

「いや、下が濡れちゃった…………中が」

 言いながら恵人はバケツを下ろし、空いた手でスカートの端を摘まんで持ち上げた。恵人が言っているのは、

「中」

 露わになった太腿のさらに上の箇所である。

「やめろぉーッ!」

「濡れちゃった」

「見せるな! それになんで頬を染めてんのさ!」

「そりゃあ恥ずかしいもん」

「じゃあ見せるな! 言うな! そっと黙って濡らしとけ!」

「…………この状況、なんかいやらしいよね」

「ない! それはまったくない! 余計なことは考えなくていいから、濡れてるならさっさと乾かして!」

「そんな! 三谷君はここでノーパンになれっていうの⁉ なんていやらし――」

「僕はきみの方を見ないから、好きな方法で黙って乾かせ!」

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