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トラストルノ  作者: なさぎしょう
輪舞曲
95/296

戦線離脱者達



「…リド‼︎」


「良かった‼︎同じ抜け道(バイパス)を使おうとしてたんだな‼︎」


リドウィンは無事だった。それだけで気が緩みそうになる。


「アリスは?」


「もう東校(イースト)のやつらと先に降りてる。カルマは…?」


(イースト)の人達と合流してたのか。カルマは見当たらなかった…でも、血痕とかも見なかったから、たぶん別のルートで外に出てるんじゃないかな?」


「そう…なのか?」


「何がともあれ、今はちゃんと自分の身の安全を確保することが最優先だ。フィルが先に降りて、僕も後を追おう。」


「…あぁ。」


フィリップは意を決して穴に滑り込んでいった。暗い暗い中を延々と落ちながら、自分の浅ましさや狡さを呪ってやりたくなっていた。

リドに意見を求めたのは…免罪符が欲しかったからだ。間違いなく、逃げたんだ。

首席の責任から…

最低だな。





「フィル‼︎遅いから…その…来ないのかと思ったわ。良かった…‼︎」


「まぁあと数秒待ってこなかったら置いていくつもりだったけどな。上で何かあったなら俺らだって長居は無用だ。」


「いや、実はリドがっ…‼︎」


滑り台の出口付近で立ち止まって話をしてしまっていたために、滑り降りてきたリドウィンがフィリップを思い切り蹴り飛ばしてしまった。


「っ‼︎すまない‼︎」


「リド⁉︎無事だったのね‼︎」


「あぁなんとかね。」


多少の切り傷打撲などの怪我は見えるが、どうやら元気そうなリドウィンを見て、アリスは顔を輝かせたが、そのあとすぐに顔を曇らせた。


「ねぇ…カルマは?」


「彼は……大丈夫さ‼︎彼なら自力で戦線から離れてるよ。」


「で…でも‼︎」


アリスが苦痛の表情でリドウィンに縋ると横から伏が鋭い声をかけた。

その声はアレイも聞いたことがない。突き刺さるような重く、鋭い言葉であった。


「あのさ、僕らだって仲間を2人も置いてきてる。いま彼らが生きてるのか、死んでるのか、はたまた苦しんでいるのか、何も分からない。僕らだって不安だ‼︎心配だ‼︎出来ることならいますぐこの手にかき抱いて、互いの無事を喜び合いたい‼︎でも‼︎いやだからこそ、そのために今は耐えて、生き延びなくちゃならないんだ‼︎」


そこで一呼吸。


「辛いのは君だけじゃない‼︎僕らだけでもない‼︎向こうで彼ら彼女らも、同じように耐えて頑張ってるんだ‼︎……振り返るな、とは言わないよ。でも、戦場で振り返っても、あるのは過ぎた栄光と踏み越えてきた屍体の山だけだ…‼︎」


アリスだけではない。その場にいた全員が、その言葉に、その叫びに返す言葉が無かった。

先へ進まねばなるまい。

アリスは「そうね…」とだけ言うと、今一度姿勢を正し前を見据えた。


「じゃあ、行くか。」


アレイを先頭に、一行は先へと進んでいく。





「………嘘だろ。」


「今度はこれを登れってのか?」


「梯子じゃなくて階段なのが良心なの…かな?」


「こんな急な階段を良心って言えるあなたの心の広さに驚くわ。」


「おぉ‼︎体力つきそう‼︎」


冗談じゃない。怪我人や女子もいるってのに、なんて馬鹿みたいに長くて急な階段だ。

でもきっとこの先が出口に違いない。しかし脚を負傷しているアレイにこの階段はきつい。


「じゃあ、はい。」


「?」


「乗って‼︎僕レイくん位ならこの階段、背負って登れるから‼︎」


「⁉︎」


いやいや正気か⁉︎

この急な階段を自分よりでかい男背負って登るなんて自殺行為だろう。


「ほら‼︎早く‼︎」


さすがに先を急ぐとは言っても、アレイは躊躇ってしまう。別に背負われるのが恥ずかしい、とかではなくただただ申し訳ないのだ。


「ほ…本気か?」


「もちろん‼︎」


アレイはおそるおそる伏の背に乗る。すると伏は全員が驚愕するくらい軽々とアレイを持ち上げると、「さ、行こう‼︎」と爽やかに言い放って見せた。

そのまま伏とアレイを先頭に、フィリップ、アリス、リドウィンが後ろに続いて登っていく。

伏は全くペースを落とす気配がない。


「あの子の…体力…どうなってるの?」


「身体の作りが根本的に違うの…かもね。」


一段一段の高さもバラバラの急階段に後ろ3人が少し息を切らしつつ登っているのに対し、全く息の乱れもなく登っていく伏は、もはや別種の生き物のように見えてくる。

アレイも変わらぬ安定感にただただ驚く。





「…‼︎あれ、出口じゃないか?」


フィリップが前方にいかにも重そうな鉄扉を発見する。

その扉の前の踊り場まで辿り着くと、伏は一旦アレイを下ろし扉の前、目の高さにワイヤーを張り、簡易な罠を作る。


「銃とかある?無かったら小型の銃ならあるから貸すね。これをしゃがんで構えて、僕が扉を開ける。数秒構えてなにも無かったら屈んだまま僕を先頭に外に出てみよう。」


4人が頷き、フィリップ、リドウィンが銃を構える。


「いきます‼︎」


扉が盛大に開い…たかと思うと、金具の部分が相当に痛んでいたようで扉が外側に向かって倒れた。

一瞬驚くも、即座に全員が外に意識を向ける。


何も起こらないので、伏が屈んだまま外に出て辺りを見回す。そして他の人達に合図をすると、全員が伏に続いて出て行く。


そこはどこかの路地裏らしく、薄暗い。


「ここ…どこだ?」


全員で辺りを見回す。


「あそこに店がある‼︎な…なんて書いてあるんだろう?」


暗がりの中に、確かに一軒だけ光の漏れる店がある。が、看板の文字が読めない。


『קפה שלום』


するとリドウィンがスタスタとそちらに向かう。


「おい‼︎リド、大丈夫なのか?その店。」


「あぁ、僕らのリタイアは成功さ。ここは……



僕の祖父母の店だ。」



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