リタイア5
「作る……?」
「そっ。なんのためにこの機械達はいる?俺らに使われるためだ。つまり、これは二重の引っ掛けでもあったわけだ。」
説明をしながらもディモンドは連れてきた二体の片方のドローンをいじり始める。小柄な彼もそれを手伝う。
「殺人ドローンはやっつけなくちゃならないわけだが、ここを開けるにはドローンの熱線もしくは爆破機能が必要になってくる。はじめからこちらに勝たせる気がなかった…ともとれるけどな。」
それでは仮にドローンをフィリップがなんとか倒すことが出来たとしても、離脱することは叶わなかったわけか…
「おい、ちょっとそこどいて。」
ディモンドは塊に寄りかかっていたアリスを退かすと、ドローンを操作し近づける。ドローンと塊が並ぶと、なんとも言えない薄ら寒さを感じる。
無機質な冷たさ。
どちらもそれなりのサイズがあるため威圧感もある。今にもこちら側に対して無感情な攻撃を加えてきそうな、恐怖。
「うしっ、開けるか。」
「おー‼︎」
キー…ッン……ジジッ…ジー…
塊は存外簡単に熱線によって切られていく。切り終えると、その切り取った部分をドローンがうまい具合に退けてくれる。
少しすると人1人が通れるくらいの穴が出来上がった。中は暗くよく見えないが、空洞になっているのは間違いないようだ。
「伏、なんか電気代わりになるようなもん持ってねぇ?」
「うーん…と、これとか?」
小柄な彼--伏が脚に取り付けた小型ポーチから取り出したのは、細長い蛍光色の棒、数本だった。
「ナイス‼︎それでいい。」
「そ、それはなに?」
アリスがもの不思議そうに問う。
「…⁉︎知らないの?」
伏が驚きつつ、1本をアリスに手渡す。
「それ折ってみて‼︎昔は…たぶん今でも戦場の兵士さん達は持ってるんじゃ無いかな?」
「折るの?」
アリスは本当におそるおそる、その棒を折る。すると折った場所から光だし、光は広がっていく。
数回そんなことを繰り返していると、棒は全体を光らせた。
「すごい…」
アリスも感嘆する。
折り終わり光った棒をディモンドはアリスから受け取ると、塊の中の空洞へ投げ入れた。
「ふっか⁉︎え、落とし穴⁉︎」
伏が声を上げるのも分かる。滑り台のようになっているのだろうが、あまりに急かつ深そうで、飛び込むには相当な勇気がいる…さて、誰から入るか…
「でも……滑り台って滑ったことないし‼︎長くて楽しそうだね‼︎」
「「「…………。」」」
いや、これこそが伏舞人という人間の凄いところだ。長所だ。
楽しそう?
他の3人は申し訳ないが微塵も楽しそうなどとは思わなかったし、正直不安しかない。
「え、じゃあお前1番に滑り降りてくれんの?」
「うん?いいよ?」
なんというガッツ。男の中の漢。
見た目に似合わず、とんでも無い奴だ。
結局、怪我人と女子を間に挟む形で滑り降りる事になった。伏、アレイ、アリス、フィリップ、それぞれ3秒間隔で降りる…いや落ちていく。
「じゃあ、行くよ?」
「お、おう…御武運を。」
「ひゃっほーーい‼︎」
あいつ、実はすごい馬鹿なのかもしれない…
叫びながら満面の笑みで吸い込まれていった伏を見て、アレイは思わずそう思ってしまった。
「じゃあ、下でな。」
アレイも怪我をかばいつつ滑り降りていく。
「じゃ、じゃあ…」
「おう。」
「ねぇ、ぜったい降りてきてね?」
「……っ!あぁ、うん。」
アリスはフィリップの顔をじっと見てから滑り込んでいった。
最後になるべきではなかった。
1番後ろでこわいとかじゃない。
誰も止めてはくれない。1人になったところで、突然2人のクラスメイトを置いてきてしまったという罪悪感がのしかかってくる。
俺は……首席なのに……
「フィル‼︎‼︎」
ハッとした。空耳…かと思った。