SOUP本部 切り裂き魔
別に、怖いもの知らずな訳ではないし、トチ狂ってる訳でもない。むしろ至極冷静に"恐怖している"自分もいて、今だって引き返してしまいたい。
「なぁーんて俺らしくないよねぇ。」
チェーンソー相手にどこまで殺り合えることやら。
「あーれー?戻ってきちゃったの?はぐれちったかなぁー?」
「…⁉︎」
突如背後から声がして、カルマは思わず振り返り、後ずさる。
一体どうやったのか、ジャックはカルマよりも後ろにいた。ということは、カルマ達が向こうから駆けて来る前には、あの扉を解除し外に出て…待ち伏せしていた?
「せっかく背後取ったんなら、そのまま斬り殺しちゃえば良かったのに。」
余裕綽々を装って言うと
「いやぁいいのさいいのさ。僕は君を斬り殺しはしないからね。いやまさか、こんなにも1匹目がうまく釣れるとは‼︎」
「は?」
まずい…事態が飲み込めない状況は、非常にまずい。
「俺を殺さないの?」
「殺してほしいのかい?」
「いいや、まさか。」
ジャックはチェーンソーを、電源を切った状態で持ち、ただニコニコとカルマを見ている。
気味が悪いことこの上ない。
「ねぇ、もし俺がこの場であんたに斬りかかったりしたらさぁ、あんたは応戦してくる?」
「必要ならね‼︎まぁ必要ないからそんなことしないけどさ‼︎」
「なんっ……‼︎」
小馬鹿にされている感じがひしひしと伝わり、むかっとしつつも冷静に相手に一撃を加える算段を立てていた。
が、あまりにもジャックにだけ意識を集中させすぎていた…
ドサッ
「うーわ、なにそれスタンガン?ペンかと思ったわ…支給品?」
「あぁ…まぁね。みんな持ってるよ。たぶんこいつも…」
カルマの背後から現れた人物はジャックの問いにかったるそうに答えつつ、倒れている方へ屈む。そしてカルマの上着からPEPEで発行される個人カードを抜き取ると、裏表を確認し、自分のジャケットの内ポケットへしまいこんだ。
「本当に例のリストはいらないのか?」
「うん、女王様のお目当は彼等だしね。」
「でも王様は?」
「僕らは別に王様の下僕じゃない。赤の女王の下僕だからね。」
ジャックはそう言うと気を失っているカルマをひょいと肩に持ち、改めてもう1人に目を向ける。
「君は今からリストの回収かい?どちらにつくつもりなんだ?」
「どちらも。」
「えぇー、欲張りだねぇ。いつか全部バレちゃうよ?」
「たぶんもう、薄々感づかれてますよ。」
「あぁそう?まぁなんか困った事あったら言ってよ。君は正直トランプで1番信用できるんだ…
ナイン。」
「光栄だよ。それじゃまた今度。」
「うん。じゃあこの子はありがたく頂戴して、でついでにウサギの様子も確認してから帰ろうかな。本当は4人全員欲しかったんだけど、まぁ1番厄介そうな彼を捕らえられればあとの残りの子達はPEPEに直接獲りにいくさ。」
「…あっそ。」
もう1人は、あっさりジャックに背を向けると、何事か端末をいじりながら元来た道を戻っていった。
後に残されたジャックは、カルマを担ぎながら、もう1人の去りゆく背をじっと見つめ、見えなくなると少し寂しそうに苦笑してから逆方向へ歩き出す。
ウサギがもう1人を捕らえている頃だろうと思いながら。