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トラストルノ  作者: なさぎしょう
輪舞曲
86/296

SOUP本部 白うさぎ


迎え撃つ。

とは言っても、今日懐に忍ばせている武器はごく少量であった。

こんなにもあっさり侵入を許すと思わなかったし、SOUP本部からある程度支給されるものと思っていた。

要するに準備不足だった。本気でなかった。


…自業自得かもな。


リドウィンは兎にも角にも今は目の前のことに集中すべきだ。と改めて自分に喝をいれる。



「あれ?1人だけ逃げ遅れちゃったの?」


数時間…いや数十分前とは全く別人となった相手を見て、リドウィンは息を()く。



やむを得ない場合もある。ことトラストルノにおいては、相手の死をもって、自らの生を勝ち取らねばならないことが往々にしてあり得る。

戦場に限った話ではない。

でも今はもう、ここも戦場で、そして自分は兵士。

敵と(まみ)えてしまえば、SOUP対テロリストという組織同士の対立など関係なくなる。個人対個人。

リドウィンと白兎の命の駆け引きとなるのだ。



「君はさぁいかにも真面目って感じでつまんなそう。」


白兎の言うことは的を射ている。自分は、目立って個性らしい個性も無く、いつも周りに溶け込んでいる(・・・・・・・)タイプ。

それなりに努力をし、それなりの位置に居て、それなりの人生を歩む。"それなり"というのがどの程度のものなのかはよく分からないが、要は成り行き任せだ。


しかし、ここは成り行き任せではダメだ。

それなりどころの話で無くなる。

なにより……


「死ぬのはごめんだ…」


リドウィンは呟き、そして力強く前を見据えると、白兎も楽しそうにこちらを見る。


「じゃあ、行っくよ‼︎」


白兎はやはり体格に合わない大きすぎる(ぶき)を、盛大に振り被るとそのままリドウィンに走り寄り、思い切り振るう。


ブンッ…‼︎


重たく空気を切る音がする。

リドウィンはその鎌を避けつつ、下から白兎の急所を狙う。刃が細長いナイフを、相手の脇腹目掛けて切りつける。


バチバチバチッ…バチッ…‼︎


次の瞬間に何が起こったのか、リドウィンは理解できなかった。


触れたナイフに…電気が来た?


「すごいでしょう?私の特注ベスト。」


白兎は鼻高々だ。

白兎は防弾ベストのを着ているのだが、脇の部分は薄めの素材になっている。隅から隅まで、他のSOUP本部守備隊の正規のベストと同じ。

きっと厚みからして防弾もしっかりできるのであろう。

ただ、他の人間の使うものとは違う。ある程度強力な電流が流れているのだ。これでは触れられない。


脚?首?頭?

その辺りは電流が流れていなさそうだが…1番確実なのは頭だろうな。頭にまで電流が流れていたら彼女はアンドロイドか何か、ということになってしまう。

そうなると、一気に勝ち目はなくなる。


「ねぇ、あなたたちって学校のお友達なんでしょう?」


白兎は何を思ったのか急に話しかけてくる。


「まぁ…クラスメイトですね。」


リドウィンも少しでも"最悪の瞬間"を先延ばしにしようと、話に乗っかる。あわよくば、何かいい策が降ってはこないかとも思いながら。


「友人ではない…ってこと?」


「いえ、友人ですが。ただ僕は友人だと思っていますが、彼等も僕を友人と思っている可能性は低いですね。」


「なぜ?」


リドウィンはしばし答えにつまったが、言ったところで何が変わるでもなし、白兎の質問に答える。


「僕が代理戦争組織(カンパニー)の家の子だから…というのが1番の理由でしょうかね。まぁ僕個人にもきっと多大に原因があるのでしょうが。」


「ぷっ…おっかしい。みんなSOUP傘下の教育機関に通っておきながらアンチカンパなの?」


リドウィンは首を傾げる。

PEPEに通っているからこそ、アンチカンパが多い、のではないか?


「だってカンパの連中が仕事請け負って、あっちでもこっちでも戦争してくれている(・・・・・・・)から、彼等やこのトラストルノは成立しているようなもんでしょう?」


そう…なのだろうか。


「それに、戦場に人だの家だの食料だのを取られている大衆ならともかく。戦争で金も地位も、時には名誉でさえも手に入れて、上から俯瞰しているだけの連中に、誰かを差別する権利なんて無いわよ。」


随分饒舌だな。

彼女は反体制派(アンチトラストルノ)かアンチカンパかと思っていたが、違うのだろうか。


「あなたは自分を大衆の一端と捉えてるんですか?それとも新たな勢力?」


「まさか‼︎新たな勢力だなんて、そんなの大袈裟にも程があるわね。それから大衆でも無いわ。その大衆からもハブられてしまった異物よ。」


随分、思っていたのとは違う返しが返ってきて驚く。


「ねぇ、戦線離脱するならあなただけは見逃してあげてもいいわよ。そんな友人かもわからないような人達のために死にたくないでしょう?」


急な申し出に、リドウィンはありがたいと思うが…


「お断りします。彼等のため、というよりはここまで戦ったのだから最後は勝ちたいっていう自分の我儘のために、戦線離脱はしません。」


「ふーん…無駄死にね。」


そうかもしれない。実際勝てる見込みは薄いし、時間稼ぎにもなれないかもしれない。それでも目の前の勝負を放り投げるつもりは毛頭ない。




白兎は大鎌を器用に使いこなしてリドウィンに迫ってくる。

完璧に避けようとすると攻撃は加えられないし、攻撃を加えようと思うと、ギリギリのところを無理な体勢で避けて懐に入りこむしかない。

胴体はダメなので、脚を狙うがなかなか届かない。


頭…狙うか…


「ほらほらどうしたー?」


相手は余裕だ。

ブンッと頭上を切る鉄の塊から身を守りつつ、タイミングを見る。

白兎は頭の上で、まるで軽い棒切れかのようにくるりと大鎌を回し、タンタンッとステップを踏みながら距離を縮め、振り下ろす。

リドウィンはそれを横に飛びながら避けると、壁に片足を押し付ける。


「すばしっこい、ね‼︎」


今度は横に大鎌が振られる。


リドウィンは壁に押し付けた反動で、上前方へ跳躍する。そしてそのまま、自分の体重を出来る限りかけ、大鎌の()へ乗り、沈みこませる。


「‼︎」


さすがにこれには白兎も驚き、反応が遅れる。

電気のベストには敵わないが、リドウィンにも隠した武器がある。その武器を内ポケットから取り出すと、鎌の()を握る白兎の手に足をかけ動けなくすると、その武器(・・・・)を振り上げ白兎の首元へ突きつけた。


バチッ…‼︎


「…っがっ‼︎」


電気を保身に使う発想は無かった…が、攻撃として使う気はあった。

ペン型の小型のスタンガンは、見た目に反して強力で、白兎は白目を剥いて倒れる。


リドウィンはおそるおそる近づき、完全に気絶していることと、息はあることを確認すると、周りを見回し、積まれた箱や物々の中から縛れそうなものを探す。

兎にも角にもあるもので雁字搦めに白兎を縛り、端の方に転がしておく。


「さて…この鎌はどうしようか…」


持ち上げてみると、やはり相応の重量があるが持てなくはない。


「使えるかな…」


とりあえず持って行くことにする。

去り際にもう一度、のびている白兎を見る。

彼女は…イザベラ・モンドは、なぜ白兎として行動するようになってしまったのだろうか…


いや、そんなことはどうでもいいか。

思考を中断すると、リドウィンは鎌を担いで先を急いだ。





カルマは、フィリップやアリスは…無事だろうか。



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