SOUP本部 死神と化物
しまった…相手が先に援護に来てしまった。
でも、じゃあ、ジェスターは?
「まずい…よな。どうしよう。」
とりあえず、あの子をシンクと少年の方にいかせる訳にはいかない。
ケイトは一度しまった荷物の外面を薄く開き、そこからシート状の物体を取り出す。こんなものは本当に猫騙しに過ぎないが、一瞬でも相手に隙ができてくれればいい。
シートの表面を軽く撫ぜると、僅かな凹凸が現れる。旧時代の産物の1つで、いまではほとんど使える人のいない"点字"だ。
ケイトはさらりと表面を撫でて点字を触読し、それからまた全体を押さえつけるように撫ぜ、新たな点字を出す。
数秒のうちにその動作をいくらか繰り返し、ようやく目的の物の名前を触り当てると、そこを二回コツコツと指で叩く。
すると、ただの薄めのシートだったものが歪に形を変えながら、最後には手榴弾の形に収まった。
あまりにも精巧な作りだ。
実際、これは爆発しない。
相手が少しでも身を引いたり、怯んでくれれば良いのだ。
ケイトは思い切り、小柄な少年めがけて偽手榴弾を投げた。
伏はなんとか追いつくと、何がともあれ次は逃がすまいと出入り口にワイヤーをかけ準備を整える。
そしていざ、粗方の準備を終え参戦しようとそちらをよく見ると、真城が戦っているのは先程逃したスナイパーの方ではなく、もう1人の仲間の方であることが見て取れた。スナイパーはどこへ行った?
カツッ…コンコンコン…コロコロ…
「?……‼︎」
影にうずくまる人影を見て捉えた瞬間、その影から何かが飛んできて伏の足元に転がった。
伏はそれがなんであるかを判断するより先に身を引き、物陰に隠れる。
これはPEPEでの戦闘訓練の賜物かもしれない。
ただその咄嗟の行動が、今回は仇になった。
「ん?え…爆発しないんですけど…⁉︎」
よく見ていると、その手榴弾はしばらくそのまま動かず、やがてジクジクと焼けていった。
焼けていってしまったのだ。まるで紙のようにあっさりと。
「なにこれ……あ‼︎ちょっと待てごらぁ‼︎」
伏が不思議手榴弾に気を取られている隙に、物陰にいたスナイパーがすっと脇を通り抜け出入り口の方へ向かっていく。
思わず口荒く呼び止めると、伏はワイヤーの1本を力強く引いた。
「いよっと‼︎」
うまい具合に脚に引っかかる…予定だった。
スナイパーの青年はタンタンッと小気味好くステップを踏むと、軽々跳び上がり脚元にきたワイヤーを避けたばかりか、設置された配管に華麗に着地し、そのままなんらかの粉を空中に振りまいた。
「くっそ‼︎降りてこい‼︎」
伏自身も跳躍力にはそこそこの自信があるが、あんな細い配管に上手く着地できるとは思えない。
そのうえ、上から変な粉を撒かれてゴホゴホと噎せてしまう。
「見えた。」
青年は嬉々として呟いた。
「あぁ、僕も見えた。」
伏ももう一度頭上を仰いで、そしてしたり顔で呟いた。
もう随分と暗くなった夜闇の中で、月夜に照らされて、特殊な粉によりキラキラと、ワイヤーが目視できるようになった。
もう随分と暗くなった夜闇の中で、月夜に照らされて、偶然にも見上げる形となったために、キラキラ光る白髪と、不思議な橙の瞳、蒼白の顔が伺えた。
さて、どうしてやろうか。