SOUP本部 化物
本当は…こんなところで死ぬわけにはいかない。
潤との約束がある。
それでもさすがに起死回生の一手が思い浮かばず、名影はあきらめの気持ちでもって目を閉じた。
…ヒュッ……ザクッ
ん?
真横を冷たい風が過ぎるのを感じ、しかし自分にはなんの痛みもないことに名影は驚く。
うっすら目を開けて相手を見ると、耳元に手を寄せ何かを必死に聞き取ろうとしているように見える。そしてそのまま1つ息を吐くと、名影を見下ろし逡巡したのち、名影を置いてどこかへ駆けて行ってしまった。
「え…なに?」
置いて行かれた名影は訳が分からず戸惑う。
どう見たって圧倒的優位で、名影を殺す絶好のチャンスだったはずなのに…何か仲間から連絡が来たにしろ、なにも生かしておく必要はなかったはずだ。
それに随分慌てているようだった…
「まさか、潤がやっちゃった…?」
顔を覚えて、あわよくば生け捕り、なんてハナから無理ではあった。こと真城に関しては"生きて"捕らえるなど至難の技だろう。
「まぁ…止めに行かないとまずい…よね。」
結局は名影も追いかけざるをえないのだ。
相手は学生、と気を緩めていなかったか、と問われれば…正直少しナメてかかっていたようにも思う。
でも、だって…
「…嘘だろ。」
接近戦を仕掛けられて、死ぬかと思ったところをシンクに助けられた。そして目的のコード室のある建物へ。
しかしこのままコード室に向かっても、きっと他の2人は来ない。そこでさらにSOUPの人間か、さっきの学生の仲間…もしくはジャック達なんかと鉢合わせようものならたまったもんじゃない。
接近戦はまっぴらごめん。射撃と、頭を使うような--たとえばハッキング--こと以外はめっぽう弱いのだから。
だから射撃で援護しよう、と屋上の一画を陣取りスコープでジェスターのいるであろうあたりを見る。
…驚いた。
あのジェスターが、捕らえられているだなんて。ありえないだろう。
「…嘘だろ。」
捕らえた獲物に近づく小柄な人影に照準を合わせる。
あの子はこわかった…でも、本当は子供なんて撃ちたくない。これが仲間のためでなければ絶対に撃たない。
「…っくそ‼︎」
あんな子供にまで参戦させるSOUPの姿勢に悪態をつきつつ、引き金を引いた。
手応えは十分にあった。
しかし、結果としては当たらなかった。
「なんで…」
「見ぃつけたぁ‼︎」
「……⁉︎」
弾が当たらず困惑しているケイトの右斜め前のあたりから、人影がふわりと飛び上がってくると、月明かりによって、その人物の影がケイトに被さる。
ここ、屋上だぞ⁉︎どうやって登ってきた⁉︎
ガキンッ
その人物は真上からサーベルのようなものでケイトを突き刺そうと落ちてきた。
ケイトはそれを寸前で避けるも、体勢を崩してしまう。
屈んだ状態からゆっくりと立ち上がったその人物は…笑っていた。
きっと端正であどけなさも残る、年相応の少年らしい面立ちのはずなのに…今はまるで地獄からやってきた悪魔のような、獲物を目の前にした化物のような、背筋も凍る"笑顔"でケイトを見下ろしているのだ。
先程の小柄な少年や、あの人の笑い方も恐ろしかったけれど、この笑顔は恐怖をも上回ってくる。
心臓のあたりをヒンヤリとした手でゆっくり掴まれるような。そんな感覚。
「なぁ、今なにを撃とうとした?零に当たったらどうすんだよ?」
零?誰だ。あの少年か?
当てようとしてるんだからしょうがないじゃないか‼︎
「なぁ‼︎」
「うわっ‼︎」
少年は目の前で腰を抜かすケイト目掛けて、低姿勢で鋭い一撃を放つ。そこから連続で何度も突き刺そうと、一撃一撃重みをつけて放ってくる。
ケイトは死に物狂いでそれを交わし、なんとか立ち上がると懐から素早く小銃を抜けとり少年に向けた。
…が、少年のサーベルの切っ先は的確に銃口を捕らえると小銃ごとケイトを後ろに吹っ飛ばす。
「…っがはっ…かはっけほっけほっ。」
あんまり強く押されたために、かなり強く地面に背中を叩きつけてしまった。
肺が詰まるような感覚と同時に、乾いた咳が出る。
なんだかリンチにでもあってる気分だ。
「ふはっ」
少年はなにが可笑しいのか吹き出すと、またも突き刺すような一撃を、ケイトの顔面めがけて放つ。




