SOUP本部 静寂
名影達4人は全員が本部内東側に様々な仕掛けを施し、敵襲を待つことにした。
といっても大した仕掛けではない。先程見た"SURVIV"というゲームの中身を見るに、相手はそこかしこにセンサーないしカメラを仕掛けている。
つまり罠はお見通しの可能性があるのだ。
「今んとこゲーム自体には罠は表示されてないなー。」
耳にかけたインカムからはキャンディの気の抜ける声が聞こえる。なんとなく集中力を削がれるその声に、アレイはイラつきつつあったが、他の3人が意に介さず責務をこなしていくので、文句は言えまい。
「くれぐれも背後には注意してね。」
名影の指摘に3人は思わず自分の後ろを確認する。
インカムからの指示指摘が無くなると、自分の呼吸音だけが聞こえる。あとはまっさらな静寂…
あっちからもこっちからも見られているような錯覚に陥る。
「お、"死神"と"天使と悪魔"がログインしてきたよー。れいちむの読み通り東側からのお出ましだ。」
「ねぇ、それって相手もゲームを見てるってことなのかしら。」
「今、この辺り一帯でのアクセスを調べてる。……いや、ゲーム自体にはアクセスしてないな。アクセスしてるやつはもっと奥の方にいる…"切り裂き魔"ってやつだけだーよ。」
「ジャック…」
西側が担当すると言っていたやつだ。西校の面々はゲームの存在をわかっているのだろうか?
いや、今は他人の心配をしている場合ではない。
「ん?妙だな…連中が立ち往生してる…入ってこない」
感づかれたのだろうか?
そう思い、とにもかくにも息を殺し待つ。しばらくしてキャンディの張り詰めた声がインカムから溢れた。
「来た‼︎死神を先頭に3人一斉に入ってきた‼︎」
…⁉︎
待て、それはありえない。名影達はすべからく東側の音を拾うべく、そこかしこに盗聴器などより高性能で微妙な音も拾う、音捨機を設置している。
なのに、なんの音もしなかった…
「見間違えじゃねぇの?だって…音してねぇぞ…」
アレイのか細い声がインカムから聞こえてくる。
……いる。
間違いなく近くに人がいる。それもよく知った空気ではない、誰か知らない人間の気配が近くにある。
「黙って、いるわ。」
名影は前方に人の影と思しき動くものを見つけてそっと視線を寄せる。人影は確かにゆっくり、それも大胆に歩いているはずなのに、物音が全くしない…
それどころか先程から名影が感じている気配も、目の前の人物からではないように思う。
いるのに、いる実感がない。
ただ静かにそこに……ある。
「れいちむ‼︎後ろ‼︎」
名影はキャンディの声に、咄嗟に身を翻し脇にかがむ。
と、そこに立つ人物と視線が交わる。書類に書かれていた、死神でも白い人でもない…もう1人。"戦闘術に長けている"やつだ‼︎
「どうも?」
名影は相手から一瞬も目をそらさぬようにしながら挨拶する。直感的に、思ってしまった。
楽しい‼︎
と。しかしその楽しさの余韻に浸る暇もなく、相手の拳が飛んでくる。名影はその隙間に手を入れ込み、相手の首から口元までを覆っているものを下へ引っぺがそうとする。
しかし相手は突然ストレートからフックへ打方を急変させる。名影は止む無く身を沈め横に引く。
名影は相手の懐に入り込むと、隠し持っていたナイフを突き出す。
しかし相手は、その手を滑らせ避けると、そのまま手を捻り上げ名影を投げ落としにかかる。名影も咄嗟に相手の首元めがけ左の強烈な蹴りをお見舞いするが、それは相手の手をゆるめるにとどまり、倒れる気配は微塵もない。
これでは相手の顔を見るなんて、悠長なことを言っていられない。
なるほど、戦闘術に長けている。
という表記が頷ける。ボクシングなどだけではない、おそらくPEPEの戦闘訓練にも取り入れられていないような様々な戦闘術を体得している。
さらに言うなら、戦闘術のみならず護身術にも長けているようだった。
名影はそれでもうまい具合に立ち回る。密かに旧時代に取り残されてしまっていた戦闘護身両術を体得しておいてよかった。
それでも相手の顔面には全く擦りもしないが…
と、突如男は後ろへ身を翻し、ばっと姿をくらます。
名影はその目に確かに焦りの色を見てとり、ほくそ笑んだ。
お仲間はきっと今頃、伏のあの罠に苦戦していることだろう。名影も男の後を追って暗闇に姿をくらます。
殴る拳の当たらなかったためか、はたまた音という音が消え去ってしまったのか…2人の戦闘の間、キャンディの…このSURVIVを見ている者の元にはゲーム画面の映像だけが流れ
ただ一切の音は消えていた。