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○○の夢
雨だ。
鮮明に思い起こされる、湿ってまとわりつくような空気と、吐き気を催すほどの血の匂い。
トラストルノという場所にいながら、温室育ちの自分には一生関係ないと思っていた、血と、鉄と、人間の…生き物の"死"の匂い。
「あ…嘘…うそよ…なんで…」
ずっと憧れてきた人のバラバラの四肢と、憧れの人の愛した人。それから、自分。
「違うの、違うのよ。これは夢なの
悪い夢よ‼︎‼︎‼︎」
初めて見る女の人の取り乱した姿と
首
首だ。
虚ろな眼と、色の悪くなった唇と、真っ白な肌が印象的な首。
兄の首。
「なんで…なんで彼なの…なんであんたじゃないのよ‼︎」
それは自分もずっと悩んできたこと。
なんで狙われたのは自分ではなかったのか。
俺はあの日の悪夢から抜け出せない。
首が…頭から離れない。