SOUP本部 SideH 探り合い
違和感がありすぎるな、余計な発言は慎まねば。
名影は隣の真城の脚をトン、トントンと叩く。すると、真城が同じことを伏へ、そして伏がアレイへ伝える。
「本当にいいんですか?3人組のことにせよ、増員の話にしても…こちらが押し付けたようで申し訳ない。」
首席の青年が明らかに名影個人に話しかける。
「いいえ、お気になさらず。」
名影は完璧な笑顔で返す。
「そういえば、次席の方は…どうなさったの?」
次席と思しき女子生徒がさりげない風に聞いてくる。この女生徒は年度が変わる前頃に行われた首席会の際に次席用待合室で芦屋にやたら話しかけてきたという生徒だろう。
芦屋が「ウザくて早く帰りたかった」などとぼやいていた。
今女子の次席は西校だけだ。
同じように女子の首席も東校だけだが。
「次席は今回の選抜メンバーに選ばれていないもので。」
努めて残念そうにそう言う。
「まぁ、あなたがいれば不足はないのでしょう?名影首席。」
首席くんはどうやら、名影を目の敵にしているらしい…いやもしかしたら気があるのかもしれないが。
どちらにしろ、先程から真城の睨みが半端ない。
「で、君は確かカンパニーの…?」
どうやら彼は代理戦争組織反対派らしい。値踏みするように伏を見る。
一方の伏はきょととしながら
「うん、そうだよ‼︎」
と言い放つ。
すると首席側から数えて3人目の年が分かりづらい東西入りまじりの顔立ちをした青年が顔を上げ
「僕と一緒ですね。僕の家も西では結構大きいカン…パ……ごめん。」
青年は困ったように笑いながら話しの途中で口をつぐむ。
見ると首席くんと次席ちゃんが彼を睨みつけていた。おっかない顔だ。
まるでカンパニー子息がいると、自分達全体の価値が下がるとでも思っているかのような反応。
「ところでそちらとそちらの方が初めてお会いするようなんですが…?」
アレイや真城は名影に説明を任せ、自分達は口を開かない。
「彼はアレイ・ディモンド。こっちは那月爽って言うんですよ。」
名影はなぜか真城だけだが本名を教えずに、スラリと嘘を述べた。
「へぇ‼︎ディモンドってあのディモンド博士の親戚とかですか?」
ディモンド博士とはトラストルノにおいて、様々な化学兵器の開発実験で成功を収めた人物達だ。たしかいま3代目くらいまでいた気がする。
名影もなんたなく気になった時期もあったが聞かずに来てしまっていた。
「えぇ…まぁ、祖父が1代目ですね。」
どうやらあまり触れられたくなかったらしく、笑顔が引きつっている。
「え‼︎じゃあ3代目はあなたですか?」
は?何を言っているんだこいつは。
SOUPやカンパニー専属の研究員は基本、研究施設に缶詰にされる。寮も完備で施設内から出させてもらえない。
そんな状態で学生なんて出来るはずなかろう。
「いや…3代目は兄です…」
アレイには兄がいたのか。はじめて知った。
「研究員というのは大変重宝されますよね。化学兵器というのはなによりも戦況を変えられるから……」
「そちらの自己紹介をお願いしても?」
名影は執拗な質問攻めに嫌気がさし、遮るように質問を返す。
答えてもらったなら答えを返すのが礼儀だろう。
名影の無言の圧力に西側の面々は口を噤む。
「お名前は?」
名影が急かすようにすると、先程カンパニーの話に食いついてきた男子生徒が口を開いた。
「じゃあ僕から。リドウィン・アヤウェって言います。僕の家はクレバーって言うんだけど…」
「え、あのクレバー⁉︎」
伏が食いつく。クレバーといえば西側でも最大の代理戦争組織のクレバーカンパニーを代々継ぐ超大物だろう。
そんなところのお坊ちゃんなら、へんなはなしPEPEになぞ入らなくてもいいだろうに…なぜわざわざPEPEに入ったのか。
「うん、たぶん君が思い浮かべてるあのクレバーです。ただ色々事情があって、僕は母方の姓を名乗ってるんだ。歳も実はもう24でね、PEPEに入るまでに時間がかかったものだから、特別にって5年だけ長く居させてもらってるんだ。」
なんとなく、西側の生徒達の中で1番話が通じそうだ、と思える。落ち着きだけでなく、物事を多角的に捉えることができそう。偏見も特に無いようだし。
「旧国でいうとどの辺りとどの辺りの方のハーフもしくはクォーターなんですか?」
アレイが興味津々な感じを隠しきれずに、前のめりになりながら問う。
「旧国でいうと…父はドイツ、母はイスラエル、ですかね。」
ほぅ…随分すごい組み合わせだな。
「じゃあ次は自分かな〜?」
1番端っこに座った年齢性別不詳の生徒が手を挙げる。
「自分の名前はカルマ、家族なし、秘密なし、特記事項なし。まぁ強いて言うならすこーしだけ潔癖かな。人の作ったもん食えない‼︎」
話してなお、性別がはっきりしない。名前もどっちつかずな名前だ。
挙句投げやりな自己紹介で終わられてしまった。
「私ですか?…アリス・ゲイルです。西校の次席です‼︎」
なぜか終始名影を睨みながらの自己紹介となったわけだが、真城が「アリスなんて素敵な名前ですね。」と珍しく世辞なんて言ったものだから、一気に柔和な表情に戻る。
最後は首席だ。
「フィリップ・コルレオーネ…だが。」
コルレオーネ…⁉︎
それって…
「やぁ失礼遅くなった。」




