SOUP本部 SideH
「で、これに乗ってくのか?」
A棟側裏門に止められた無人自動車をアレイと真城が不審そうに見やる。それもそのはず…
「これじゃ家畜用の檻車じねぇか‼︎」
後部座席部分の、本来窓があるべき場所には、鉄格子がはまっている。さらには頑丈そうな扉でもって、入り口が後ろ部分にしかない。
今風に言えば檻車というのもわかるが、どちらかというと、旧時代の護送車に近いきがする。
トラストルノでは基本的に全て個人任せで、裁く基準たる法もないので、罪人をどこかに運ぶ必要もないため、護送車はめっきり見なくなってしまったが。
「これから本部に向かう…っつーよりは、本部に連行される。ってかんじだな
。」
檻車風無人自動車は結論から言うと悪くなかった。最新の飛行システムも搭載されているため、渋滞は飛行によって回避出来ていたし、窓が無い分風が気持ちいいし、なにより広くて脚を伸ばせるのがいい。
ただ案内音声がやかましく、止め方も分からないのが難点だった。
『右手に見えるのがこの辺り一帯の象徴"虚脱の像"です。云々…』
延々とどうでもいい情報が流れ続ける。これは観光バスか何かか?
見た目に反してしょうもないサービス付きとは…
だいたい"虚脱の像"って……
「なぁ、今回相手にするかもしれない奴らってさ…SOUPでもどうにも出来ないほど強いのかな?」
アレイがぽそっと不安を口にする。
「いや、そもそもSOUP自体がそんなに実戦に強いタイプの組織じゃないのよ。代理戦争組織みたいに年中実戦に出向いてるならまだしも、彼等は滅多に武器を取らないでしょう。」
名影が言うと、今度は伏が首をかしげる。
「え、でもさSOUPを構成してる人の大多数は元Sクラスの人達でしょ? 戦闘訓練を受けてるはずじゃ…?」
「戦闘訓練自体は受けてるでしょうけど、卒業してからはきっとちょっと走ったりする程度の運動しかしてないんじゃない?」
名影も別に実態は知らないが、前に見たSOUPの構成員は超肥満体型で、どう見ても実戦向きではなかった。
「えぇー…なら僕Sクラス入らないで普通クラスで卒業して兄さんとかと代理戦争組織で働いた方がよかったかも…」
伏の家は代々、東の巨大カンパニー"紅楼"の幹部で、現在も確か舞人の父親が幹部になっているはずだ。祖父は表からは引退し、相談役の補佐として働いていると聞く。
舞人が尊敬してやまない兄の伏界人は伏五兄弟の長男で、父親の後継者候補。
といっても舞人のことだ、きっと"紅楼での地位"とかではなく、単に戦闘にほぼ参加できないというのを危惧しているのだろう。
「まぁ伏に落ち着いて書類仕事とか似合わなそうだもんね。」
真城がはっきり言うと、伏は否定できないとばかりにうなだれる。
名影から見れば、今回の4人は自分も含めて書類仕事に向かないように思えるが。
「…ってかなんでずっと飛行システムで行かないんだろ?わざわざ地上に降りたりしなくてもいいんじゃね?」
「まだ長時間飛行には対応してないんじゃない?」
「か、もしくはSOUP本部への正確な道順を覚えさせないためのカモフラージュかもね。」
ただ案内音声のせいで、名影にはかなり正確な現在地が分かってしまっているのだが…
「お?噂をすればアレが本部か?」
アレイの指差す先を全員が見る。
そびえるようなビルとそこから翼のよう左右にのびる…あれは壁か?それとも中も何かあるのだろうか。
さらにはその周りには鉄柵なんかも張られているのが見える。
「でか…すごーい…」
舞人が口をぽかんと開けている。
「でもなんか…監獄みたいじゃないか?こんな職場とかさぞや気分が沈まれることでしょうな。」
真城が皮肉っぽく言い捨てる。
「さしずめ鉄壁の牙城。城下じゃその日その日をやっと生きてる人間がごまんといるってのに…」
檻車風無人自動車はそびえるビルディングに近づいていく。
近づけば近づくほど、その建物は威圧感を増し、そら恐ろしく思える。まるで食べられてしまうかのように錯覚しそうにもなる。
その建物と壁はさながら翼を生やした"怪物"のように見えて恐ろしい。