特別な生徒 5
伏舞人は148㎝の小柄な体格と、童顔に似合わず態度がでかい。決して悪い意味ではなく、何者にも臆することが無いのだ。
自分の中でのルールがしっかりしている。間違っているものを間違っていると指摘できる。無法地帯のトラストルノにおいては大切なことだ。それになにより、責任感も強い。
「次席とか首席とか関係なく、2人は大切なクラスメイトだよ?本当は先輩だけど、2人が望むなら年齢なんて関係ない、友達だよ‼︎」
芦屋とは幼等科の頃から知り合いで、家同士は犬猿の仲なのに、そんなことはお構いなしで聖に懐いていた。いつどんな時でも隣に居て一緒に歩んでくれたり、時には引っ張ったり、押し上げたりしてくれる親友。
名影も伏のことは一目置いている。別に家柄が云々とは関係なく。伏舞人という人間が持つ力強さ、人を惹きつける力に、憧れがあるのだ。
とは言っても。現在Sクラスでは最年少14歳の伏。若干クラス内で甘やかされたこともあり、普段の日常生活においてはアレイといたずらを仕掛けたり、自由奔放なところもある。
可愛げもあり、それでいていざという時の信頼もある。Sクラスの裏番長なんて呼ばれることもあった。
「暇だな〜」
ただ伏もこの講義は暇で暇で仕方がなかった。毎度のように芦屋から回ってきたメモクイズを解いて、答えとしりとりになるように問題を書いて、次のシヨンに回す。講義中はそれでも退屈さを紛らわしきれない。
今日は朝からずっと眠いのか欠伸連発で、今も腕まくらに顔を伏せている芦屋を起こそうか悩めるところだ。
でも…暇だ。
「ねぇねぇ、聖くん。おーい。」
とりあえず声をかけてみると、突っ伏したまま腕の隙間から睨んでくる。芦屋は端正な顔立ちをしているのに、いつも眠そうだったり、だるそうだったり、まず上機嫌な時が少ないせいで友達が出来辛い。本人も別に数人いればいい、と言っているのだが…
(そうすると、聖くんに声をかけたがっている女の子達はタイミングを掴めずに卒業していくことになりそうだな…)
くそぅ…羨ましい。伏だって顔は悪くないのだ。童顔でちょっと背が低いだけで。
「この話、暇だねー。」
睨む芦屋に小声で言うと、「んなことで話しかけんな」と余計に鬱陶しそうにされる。
その態度に少しむかっぱらがたって椅子をガンガン蹴り上げる。芦屋は無視を決め込んでいる。
…そんなに疲れているのだろうか?
恩寿音のところにクイズメモが回ってくることはほぼ無い。芦屋に始まり、名影を除く全員のところに反時計回りでメモが回ってくるのだが…その渦巻きの1番真ん中にいる恩のところには稀にしかメモが到達出来ないのだ。まず真城で大幅に時間を食う。それを軽減するために、ヘルプとして真後ろに名影が控えているが、本人が極力自分で解こうと努力はするのでそこでメモが滞る。次々、芦屋の気まぐれでメモがいくつも回されるが、大概真城で止まる。
それからロブ。彼は解くのにさほど時間はかからないのだが、問題作りに凝るのだ。その影響でアレイがロブからの難問につまることとなる…とここでいつもチャイムが鳴って終了だ。
まぁそもそも講義中に回すべきものではないから、クイズを解けないことにはなんの不満もないのだが、クラス全員が参加しているものに自分だけがいつも参加出来ないことには一抹の寂しさを覚える。
「まぁでも良いクラスだよね。」
恩はロブとよく今のSクラスについて話す。
首席が優秀なことも、次席が実は苦労家なことも、でも1番に思うのは"人間味のある暖かいクラスだ"ということ。とうぜん飛び抜けた優秀者が多いせいもあって、Sクラスは端から見ていても、なんとなく殺伐としたイメージがある。
しかし、今のSクラスはほんわかとした暖かいクラスだと思う。
願わくばこのまま、この暖かいクラスのまま自分は卒業していきたい。あと二年、何事もなく…
四年前のようなことはもうこりごりだ。
むしろあの事件からよく立ち直した。それもこれも首席の、名影のおかげだ。
だから、どうかこのまま…