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トラストルノ  作者: なさぎしょう
序章
37/296

亜細亜座(あじあざ)


トン、トン、トンタカタッ…


「えぇ、今日もいっぱいのお運びで……」



小気味良い音と、ハリのある声、お客の笑い声に熱気。

"亜細亜座(あじあざ)"は10年ほど前に出来、ここ1〜2年人気がうなぎのぼりの大衆向娯楽(パフォーマンス)集団である。元々は8人だけの小規模演芸旅団だったのが、今ではゆうに50人を超す大所帯になっている。本団ではないいわゆる"一座"に入ってはいる、ような人間も合わせればもっといるだろう。

名の通り、旧中華系、旧日系の人間を中心に成り立っているこの一座では、10もある自持劇場で毎日のように様々なパフォーマンスが行われている。

たとえば中国雑技団の圧巻の技の数々、もしくは京劇。旧日系のものでは、日本舞踊や能、雅楽の演奏に落語などが主だった内容になる。

他にも東アジアのものに限らず、旧インドの伝統音楽(カルナータカ)や、旧モンゴル系の音楽も人気がある。



そんな中でも一際人気が高いのが京劇の花形を演じる(おう)と、1人で日系のあらゆる芸事をこなしてみせる(りん)と呼ばれる2人である。

皇は繊細な美青年だし、鈴も少し影のある印象ではあるが綺麗な少女で、双方とも老若男女問わず人気がある。

しかしいつも表まで出て来て気軽に客や仲間達と話す皇とは違い、鈴は舞台上以外で滅多に見られない、としても有名だった。



今は旧日系の青年が落語の真っ最中。

鈴はあとあとの出番に備えて裏で集中力を高めていく。


「鈴さん、鈴さん‼︎すみません…いつもの白い(かた)がお見えになっているのですが…」


白い方…ケイトか。


「悪いのだけど、公演が終わり次第行くからって楽屋で待っとくように言ってもらえるかしら。」


「承知しました‼︎」


歳はどう見ても、耳打ちをしに来た男の方が上だが、ここ亜細亜座では年ではなく、入って貢献した年数や実力がものを言う。

鈴は今残る唯一の創立メンバーで、さらにありとあらゆる芸事をこなす…つまり年数も実力も亜細亜座では文句なしのトップなのだ。亜細亜座では座長を作っていない。それでもやはり公演依頼などがあれば、代表で出向くのは事務の担当と鈴だ。


「…という噺でした。」


ワァァァァ…パチパチパチ…


さて、出番だ。

今日はどんなお客がいるだろうか。





楽屋で待て、と言われて素直におとなしくしているのは性に合わない。

そっと裏から表の方にまわって、勝手に劇場客席内に入り込む。大概チケットが満席分無くなっても、実際行ってみると4〜5席は空いている。

その1席に座り、ケイトは鈴…いやジェスターの出番を待った。


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