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トラストルノ  作者: なさぎしょう
序章
35/296

混沌 そして 瓦解3


レベルEの被験者の逃走など、あってはならないことだ。動く大量殺人兵器のセーフティが効かないのと同じこと。


「そのレベルEの逃走を手伝ったものが内部にいた。現在その研究員もしくは構成員がどこのどいつか調査中だ。また、バックには先程も出てきたが…"切り札(トランプ)"の連中の関与も疑われる。」


なんてこった…

あっちでもこっちでもボロが出始めたってことか?


「今回、このような失態の数々を君達に話したのには訳がある。手元の端末を見てくれ。

今回その名簿に名前のあるものを…




準戦闘員として正式にSOUPに迎える。」




あり得ない。

準戦闘員として、子供を使うのか?


「なお、他に推薦したいものがあれば述べてくれ。」


「あ、あの‼︎ここに載ってる生徒達のほとんどが…その…Sクラスの生徒なのですが…」


全員が一斉に困惑の表情で名影長官を見る。

優秀で将来トラストルノを支える存在になるであろうSクラスの生徒を出すというのはどういった了見なのか。

名影長官が、その質問に対し、一瞬苦しそうな表情をしたのを芦屋は見逃さなかった。


「たしかに、彼らは将来優望な若者です。大変に優秀だ。だからこそ、ここトラストルノの危機に際して、その優秀な才と力を貸してほしいのだ。それがSクラスの者達がどうあっても今後の人生において背負う義務、責任でもある。」


芦屋は今一度、名簿に並んだ名前と顔写真を見て行く。

東校(イースト)からは伏舞人(ふせまいと)、アレイ・デイモンド、真城潤(ましろじゅん)、そして…


「……名影零(なかげれい)


これは真に実力を買われて、ということの他に"こちらも身を切るような思いをしている"というアピールも兼ねているように思える。

しかしこの名簿の作成に名影長官自身は関わらせてもらえなかったのだろう。だからこそ、悔しそうな表情を隠せずにいる。

いくら偽物(クローン)と言えど、愛娘。テロ集団との戦争だの、レベルEの捕獲だのに関わらせたくないと思うのは至極当然のことかもしれない。




会議は他にいくつかの連絡事項や確認を済ませて、お開きとなった。名影長官の言っていた事々については追って大量の書類として詳細が送られてくるらしい。

基本的に外部に詳細が漏れ出す危険性などを考慮し、基本は口上などが多いSOUPから書類が送られてくるのは珍しい。

事態の深刻さがうかがえる。


「息子はなんとか外させたんだがな…」


名影長官が椅子から立ち上がることもせず、天井を仰ぎながら呟く。

芦屋も帰り支度の手を止め、なんとなく上を見上げ目を閉じた。


「息子を外してくださってありがとうございます。しかし生徒を送り出すというのは嫌なものですよ…"個人の意思の最も輝くところ"がトラストルノでは無いんでしたっけ?」


「はは…ちがいない。しかしその"個人"の集合体たる"大衆"が、大衆でありながら個人として生きるために、犠牲になるのもまた個人なのだ。」


「戦争が、始まるのでしょうか。」


「戦争はいつだって絶えず起こり続けている。我々から(・・・・)は見えていないだけでな。なにしろここで最も栄えたるは戦争産業だ‼︎」


確かに、痛い指摘だ。


「しかしながら、だ芦屋くん。君がきっと指摘したかったのであろう大規模戦争の可能性は…常にある。が、確かに今この瞬間、平生より可能性が高まっているのは事実だ。」


「そうなれば、結果は同じ。名簿に載っていようがいまいが戦火の只中(ただなか)ですよね。」


芦屋がそう言うと、名影長官は「まったくだ」と重々しく頷き、そしてため息をひとつついて立ち上がった。


「君らには申し訳ないと思っているんだ。生徒達にも…説明するのも憚れる依頼、いや命令だからな。」


まぁ名影やディモンド、真城は了承を貰えるだろう。問題は(ふせ)だ。本人というよりは"御家"が認めてくれるかどうか…

名影長官をはじめとするSOUP幹部方は代理戦争組織(カンパニー)の連中を忌み嫌う。同じように、向こうもこちらを嫌っているのだから、大事な息子をSOUPに利用されるなど快諾しそうに無い。


「それじゃあともかく、連絡はするようにする。お疲れ。」


「お疲れ様です。」






暗雲立ち込めたる、不穏。

まさしく前途多難。


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