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トラストルノ  作者: なさぎしょう
序章
33/296

混沌 そして 瓦解


PEPE本部は旧ロシアの某所地下に造られている。そのため、自然災害の影響を受けにくく、さらに万全のセキュリティでもってテロなども起こり得ない。まさしく"世界で最も安全な場所"である。

と鼻高々に語る同僚を見るたびに、芦屋秀貴(あしやしゅうき)は馬鹿馬鹿しく思っていた。

かつて、人間の歴史において"絶対"などと謳われたものは、そのほとんどが、あまりにも悲惨な状態で瓦解していっている。

ここだって本当は不十分に違い無い。


かったるいな…


本部での幹部会が開かれる度に思う。こんな会議は無意味以外のなにものでもない。所詮PEPEはSOUP(スープ)の傘下機関でしかなく、結局はSOUP(おかみ)からの指示なくしてはろくな動きもとれない。


「相変わらずかね。」


ふと後ろから声を掛けられ驚き半ばに立ち上がる。気配を全く感じなかった…


「お久しぶりです。こちらは変わらずですよ。そちらはいかがです?



名影長官。」


名影徹(なかげとおる)SOUP(スープ)幹部会常連の名影家の中でも彼はずば抜けて統率力、カリスマ性に富んでいる。

さらに頭も良く、ありとあらゆる学問に長けており、鍛えられた身体はもうじき70をむかえる老人とはとても思えない。昔はモテた、と聞いてこれほど納得できる人間もそういなかろう。

しかしまたなんでこんな重鎮が"PEPEの会議"に来ている?


「こっちはどうもこうも…まぁ詳しいところはこれからまさしくこの会議で話されるわけだが、危機的状況と言わざるを得ない。問題に次ぐ問題だ。」


「はぁ…?」


この人ですらお手上げな問題など、こんな会議で話して何になる?

芦屋は訝しげに相手を見やる。

「そもそも俺は反対だったんだ、あんな無謀な…うちの"娘"にも何か影響があるに決まっている。」


娘、か…それはあの作り物(クローン)の少女のことだろうか。妙に冷めた目をしたあの作り物の少女は名影の研究の最も成功したタイプで、この名影徹長官もそれはそれは可愛がっているらしい。

とは言っても、肝心の娘はPEPEの寮にいるのだから滅多に会うことはないのだが。

むしろうちの息子の方がよほど近くにいるな…


「いや、まったく。参謀連中の対応の愚鈍さには呆れるね。常に後手後手にまわり続ける。」


ブー…ブー…ブー…


突然バイブの振動がスーツの内ポケットから響く。


「構わんよ、でたまえ。」


「失礼します。」


名影に背を向け、端末を耳と口元に最大限寄せる。とある人の影響で、芦屋はいまだに旧式の端末を使い続けていた。


「もしもし、なんだ。」


『すみません、校長(・・)少しお時間よろしいでしょうか?』


息子…いや、Sクラスの生徒(・・)からの電話に、珍しいなと首を傾げつつ、話すよう促す。


『実は今朝、Sクラス寮内より生徒1名の遺体が発見されました。心臓深くまでの刺し傷による出血多量、および……首をスッパリいかれてるので、そちらが死因かと。』


首を斬り落とされていた?

嫌な空気が電話越しの2人の間に流れる。思い出さずにはいられなかった、四年前の事件を。


「どの生徒だ。」


『昨年度後期より特別聴講生として本クラスに入っていました、ナギという生徒です。』


あぁ、なんか神代が言ってたな。新しい生徒を1人受け入れたいとかって…学力も戦闘成績も悪くなかったし、素性が知れないなんてのはトラストルノでは珍しくないこと、構成員の神代が大丈夫、と判断したことから編入を認めた生徒だったはずだ。


「それで?」


先を促すと、しばし間があってから


『この生徒には身寄りが無いようなので、検死および葬儀の許諾をしていただきたいのと、葬儀に際しましてうちの贔屓の葬儀屋に頼もうと思っています。』


「それで構わない。こちらは生憎今から会議だ。そちらのことは君に一任するよ。」


あいつはそれなりに要領もいい。任せても問題は無いだろう。

本当は、兄貴の方がいれば…と思わなくもないが。


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