正夢 そして 現実
………⁉︎
なにが、起こっているのか。
白い布の下にあったのは紛れもなくナギの顔から肩もとにかけてで、まるで眠っているかのようで。
でも眠っているにしては、血色も何もなく、顔の線や輪郭がぼんやりとして、曖昧なくて不気味さがある。
首元のあまりにも綺麗な赤黒い真っ直ぐな線は…なんだ?
それに、左鎖骨の下辺りにある指の先ほどの丸い傷はなんなんだ…?
「な…ナギ?」
もしかして、昨日のは…SOSだった?
「おい、どうした名影。入って…も……⁉︎」
名影がベッドの脇で呆然と立ち尽くしている。
そしてその目には恐怖と、戸惑いと、涙が見えた。
「どうしたんだよ‼︎」
芦屋は伏を担いで、ベッドに近づいていく。その後にさらにアレイが続く。
ベッド脇に立って、芦屋とアレイも困惑の表情になる。と同時に、芦屋の脳裏に鮮明に今朝見た夢の一端が思い起こされる。
泣いている女。
横たわる死体。
その死体は、名影……にそっくりで。
「正…夢?」
ドサリッ
「うぐっ…ゔぅ?」
あまりの驚きで芦屋の腕が緩まりだらりと下がり、担がれていた伏が顔面から床に落ちる。これにはさすがの伏も目を覚まし、キョロキョロと辺りを見回す。
「こ…これ、あの…これって…え?」
アレイが困惑の表情を強めて名影を見る。
それもそのはずだ。なにせ今自分達の目の前で横たわり、おそらく息絶えていると思しき人物と、よく知る人物が瓜二つなのだから。
「なか…え?あの、これって誰ですか?」
アレイと芦屋は幽霊でも見るかのように、恐る恐る名影の方を向く。名影は頭の中の混乱を整理できずに目を白黒させ、ますます戸惑う。
「ねぇ、ここってナギりんの部屋?この子って、じゃあナギりんなの?」
伏は状況を飲み込めず焦っている。
誰が、ナギを?
SOUP?でもそうでなきゃPEPEに入れる筈ない。いや、そもそも…いつ?私は昨日の夜にはナギと会ってる。あれは確かに、ナギだった。
…もしかして
「原型に殺られた…?」
でも、それなら私は何故生きてる?
侵入できたなら、私のことも簡単に殺れた筈だ。どうしてナギを殺した?
駄目だ、頭が回らない。混乱に次ぐ混乱。
周りの声も、空気も、全てが静止して、自分の鼓動だけが感ぜられるような違和感と混沌。
「なにがどうなってるの。」
目の前にいるのは確かにナギなのか?
名影に"似てる"なんてレベルじゃない。
名影そのもの、と言っても過言ではない。でも名影は今自分の隣にもいる。
「え…これどんな状況?」
アレイと舞人はまだ夢の中とでも思っているのか、目を擦ったり、頬をつねってみたりして、現実であることを確認している。
「なぁ、名影……名影?」
名影は茫然自失といった体で立ち尽くしている。
こんなにも困惑している名影零ははじめて見る。それくらいの異常事態だ。
四年前の悪夢が蘇る。
でも、良くも悪くもナギは俺らからある一定の距離をとっていた。恋仲の人間もいなかろう。
つまり、四年前の悲劇の"全て"は再来し得ない…はずだ。
しかし気になるのは、首元の傷だ。
真横に綺麗に一直線。
仮に首が…胴体と繋がっていないのだとしたら、あの綺麗すぎる線は、四年前と全く同じだということになる。もしかしたら四年前の犯人がまた戻ってきた?
あんな風に一直線になるとすると…ワイヤーの類か、もしくは日本刀という手もある。よほど上手く首元に入ってしまえば…
だいたいなんで、ナギだった?
死は虚ろ、肉は残れど血は残らず。