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トラストルノ  作者: なさぎしょう
合戦場
296/296

落下


ユキの言っていた"奇妙な空洞"と思しき場所には比較的すぐに辿り着いた。


「なにここ……貯水槽みたい。」


先行して武器を構えその"奇妙な空洞"に入ったティトが、思わず怪訝な声で呟く。

その空洞は確かに巨大な貯水槽のようで、なんとなく湿っぽい。筒状の空洞の上は残念ながら開いておらず、中はひたすら暗くじめじめとしている。


「いま灯りをつけるわ。」


そういうと、ティトはパキッと折って、ケミカルライトをつけた。とりあえず三つほど折ると、バラバラの方角に投げ、さらにもう一本で自分の周りを照らす。


「向こうに梯子が見える。」


サイスが出入口を警戒しつつも、奥の方を指す。

確かに梯子があった。

しかし………


「嘘でしょう?これ……登ってくの?」


「だいたい上に出口があるかもわからない。」


リザはクローン達の追ってくる音を僅かに聞き、ここへやってくるまでの時間を考える。




「ユキ、空洞には着いたよ。でも、地上に出れそうな、出口が見当たらない。」


『OK、いまリザ達の…おそらく真上辺りにいる。リザ、上に登って、出来るだけ端に寄ってることは出来そう?』


「うん。」


『そしたら、いちかばちか、そこの天井を爆破するよ。ただこっちにも妙な機械が後ろに控えていてね。爆破とほぼ同時に地上に出て車に乗り込んでもらわないとならない。』


「……わかった。」




ユキはきっとうまくやるだろう。

リザは2人に指示を出す。


「とりあえず、登って。地上に、待機してる、私の仲間がそこに、穴を開けてくれるから……」


「いいわ。順番は?」


ティトが尋ねると、一瞬の沈黙の後、サイスが1人ずつ指し示しめす。


「1番はティト・コルチコフ。あんたがそのライト持って先行してくれ。それから2番はあんただ。絶対にその布包を落としてくれるな。」


「わかった……ところで、お願いなんだけど。この布包を、このワイヤロープで、私に、括り付けて、くれない?」


「わかった。そして3番手は僕だ。武器で出来るだけ連中が登ってこないよう、引き止める。」


2人は頷く。






「OK。じゃあ先行して登るわ。」


リバに布包を括り付け、それぞれ武器や手順を改めて確認すると、ティトが梯子にまず手をかける。

ケミカルライトは口に咥え、両手で4〜5メートルの高さまでスルスルと登る。


次にリザが続く。

こちらも人1人背に背負っているとは思えないスピードでティトを追っていく。


サイスはもう一度入口の方をチラリとみると、武器の位置をもう一度確認し、2人に続いた。




それら(・・・)はちょうど3人が10メートル程登った頃に、地鳴りと共に入って来た。

蠢く大群はあっという間に床をうめる。


「結構な音がしてるんだけど‼︎まだそんなにいるの⁉︎」


極力下を見ないようにしているのか、決して振り返らずにティトが叫ぶ。

サイスとリザは平気で下を見て、答える。


「ううん…まあまぁしかいないよ。」


「いや…まぁそうだな。もうどれだけ何が来ても知ったこっちゃねぇって感じだ。とりあえず早く登って行ってくれ。もう既に二、三匹登って来てる。」


リザは下に蠢く大量の…自分であって自分と全く異なった物体を複雑な気持ちで見やる。

どれもこれも顔こそリザとほとんど同じなのだが、血走った目や、青あざやミミズ腫れのあるもの……中には顔が奇形になってしまっているものもいる。

身体は欠損していたり、およそ人と思えないものであったり……


眼下の私から生み出されたものには、果たして感情…こころはあるのだろうか?


「結構登るスピードが速い‼︎もっとペースあげられないか‼︎」


「梯子の段がところどころ無いのよ‼︎」


「くそっ」


サイスが早くも小型のマシンガンを取り出し、眼下の数体に噴射する。


「あんたと同じ顔してるからやりづらい…」


サイスが思わず呟く。


リザは聞こえないフリをした。


「もう‼︎なんでこんなに長いのよ‼︎」




ティトが叫びたくなる気持ちも分かる。

かくいうサイスも叫び出したいくらいなのだから。


でも、ここを出られれば、もう余計なことに首を突っ込まなくてすむよう、北地区(ノースヤード)あたりに行く。

そして出来ることなら…ジャックをクイーンの元へ。最後くらい、兄らしいことをしたい。我儘な自己満足でしかないが。

あと、それからジャックの墓を……っ⁉︎


サイスは余計なことを考え、意識を霧散させていた自分を呪った。

腹が、熱い……‼︎

痛みで動きを止めたサイスのことを何かが器用に乗り越えていく。




この空洞の高さはゆうに200メートル近くあるような気がする。さらにそれに加えて登りづらい梯子。

後ろからは追っ手。

最悪だ。


ティトは暗闇に目が慣れ、ケミカルライトを灯すのをやめていたが、それでも大群は梯子を登ってこようとしている。

光を頼りにしているわけでは無いらしい。


「やっとゴールが見えてきたわ‼︎」


「……だって。あとちょ……」


"ちょっとだよ"というつもりだった。






後ろに迫っていたのは鏡。

私と瓜二つの完成品。

上から見る限り、彼女(・・)は成功品で間違いなかった。


では何故こんなところにいるのか。

そもそも、サイスは?


「リザ‼︎ついてきてる⁉︎」


リザは動けないでいた。

こちらを見つめる、鏡の彼女が……






その時、瓜二つな彼女の事を何かが引っ張った。

腰のあたりを掴まれているらしく、自分そっくりの彼女が後ろの何かから逃れようと身をよじる。


リザは彼女から目が離せない。

彼女ごと、後ろにいるであろう人を引っ張りあげられないだろうか…









クローンの彼女がなんとかしがみついていた手を思わず外してしまう。


それくらい、思い切り、後ろに彼女は仰け反った。


仰け反った瞬間に見えた。


彼女の片方欠けた脚と、彼女の腰をがっしりと掴み、彼女ごと落ちる白い腕。


彼女の縋るような、泣きそうな瞳。


彼女の肩越しに見えた、苦悶の表情。

リザは咄嗟に手を伸ばした。




が、彼女も、背後の人物も下に蠢く大群の中へ……


リザは上を見上げる。

ティトは気づかずに登っている。


もう一度眼下を見おろすと、背負った布包に1度優しく触れ、それから何も無かったかのようにティトの後を追う。


リザは目の奥がじわりと熱くなったことに、気づかないフリをした。下からはまだ何体も2人(・・)を追ってきている。




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