担い手 2
リドウィン・アヤウェはカンパニーの生まれだ。しかし愛人の息子、ということから特に優遇してもらえたことがない……ばかりかPEPEへの入学を妨害されたことまであった。
浪人や留年という考え方の無いトラストルノ。それでもPEPEとしては、その地域最大のカンパニーがなんとなく忌み嫌っている人間をわざわざ主席にしたいとは思わない。
成績だけ見れば、リドはSクラスでも文句無しの一位だ。
でも、特別主席になりたかったわけではない。
ただ学ぶということをしたくてPEPEに来たのだから、肩書きは必要ない。
「見たと思うが……校長が先程の攻撃に巻き込まれた。さらに主席まで、気を失ってしまっているしまつだ。……そこで今からPEPE西区の責任者の席には君が座ることになる。」
「はい。」
責任者だ。
物事を決めるポジションというよりは、責任を被るという意味合いが強いんだろう。
「さっそく南地区に確認をとるか。」
「いえ、その前に東校に連絡を取らせてください。それからもし、南地区が侵攻してくるようなら無人兵器で迎え撃ち、人は絶対に他地区に入らないにしてください。」
「わかった、そのように手配しよう。おそらくすぐにでも代理戦争組織から使者が来る。君はそちらの対応もしてもらうことになってしまうが……」
「大丈夫です。彼等にとっても、僕にとっても、お互い他人です。クレバーには恩も仇もありません。」
「そうか……ではとりあえずここの応接室を臨時の本部とするから君はここに居てくれ。すぐに諸々を準備してくる。」
「はい。」
西地区最大のカンパニーであるクレバーと僕を引き合わせることに抵抗があるのはやむを得まい。愛人の子供だろうがなんだろうが、PEPEにとってフェアな立場でない、と考えられているのであろう。
しかし、いま自分に出来ることをやらなくては。
本当は、カルマが居てくれれば…とか、自分はサポート役の方が合ってる…とか弱気な考えも頭にあったが、今はそんなこと言っていても仕方がない。
それでも不慣れな自分の考えだけでは不安ばかりが増幅してしまう。
そこで、東校だ。
情けないかもしれないが、それでも構わない。
東校主席の名影に少しでも知恵を借りたい。
それから不可侵の考え。
ルールのないトラストルノにおいては、あくまで"暗黙の了解"という扱いだが、基本的に兵士の他地区への投入は宣戦布告、もしくはスパイ活動とみなされてしまう。
だから無人兵器での攻撃。
南側も意図は分からないが、おそらく無人の小型飛行機で突っ込んで来たのだ。
trrrrrr…trrrrrrr……
「?……はい。」
突然何処からか微かな着信音が聞こえてくる。
リドは応接室の角にあった花瓶の裏側から小型の旧式端末を取り外すと、恐る恐る電話に出た。
「あ‼︎もしもし?西地区のリドウィンって人で間違いない?」
?聞き覚えのある声だ。
「もしもーし?私、東地区の名影零です。」
名影零? あの東地区の主席の?
こんなに早く連絡がついた?
いやしかし、ならなぜこんなところに隠された端末にかけてきたんだ?
「あぁえっと……混乱してるかと思うんで、色々と追って説明しますね。とりあえず、周りに人は居ない?」
「えぇ、いません。」
「そうよね。まぁいない時を狙ってかけたんだけど」
なんだ?どういうことだ?
「実はいま、こっちで厄介なことが立て続けに何件も起こっててね。それでそっちと情報交換しつつ、貴方に提案したいこともあって連絡したのよ。ちなみに‼︎そっちにはその端末の準備をはじめ、色々と協力してもらった子がいるの。だから、貴方たちに出し抜かれるつもりはないからね?」
「出し抜くなんてしません。」
リドは語調を強める。
そもそも名影になんて勝てる気さえしない。
「でもなぜ、学校を通じて連絡してこないんです?」
「それにもちゃんと理由があるの。良い?まず先に素直に白状するけど、南地区のカンパニーの一件はもう耳に入ってるわね? そのSKANDAのトップを殺ろうとした白人の女……
うちの、東校の生徒だと思うわ。」