アトラクション
寸前でシャッターに突き刺さった鉄の腕を避けたが、しばらく腕はピクリともせずに突き刺さっていた。
それから、ズルリと抜け、一発の銃声と共にまた新たな静寂が辺りを包む。
リザは……どうなった…?
ティトはシャッターに出来た穴から恐る恐る、向こう側の様子を見る。
リザの左胸……つまり心臓のある辺りに濃い血の染みが出来ている。リザのパーカーの元の色と合わさって、その染みはドス黒く不気味だ。
しかし、当のリザは全くそんなの意に介さないとばかりに蜘蛛のロボの動かないのを確認し、染みを見てわずかに汚れを落とそうとするかのような動作を見せるだけで……それもすぐに諦めるとこちらに近づいてくる。
「ここ…開けるよ?」
その言葉に、へばりつくようにして見ていたティトは慌てて身を引く。
ガッ…ガガガザザザーッ……
「ユキ…このあと、どうする?」
『そのまま少し行ったところが突き当たりなんだけど…その奥が奇妙な空洞になっているようなんだ……もしかしたら出口かもしれない。』
「わかった」
リザはユキからの指示を受けると、布包を大事そうに膝の上で抱えるサイスの元へ歩み寄る。
サイスは困惑と混乱の表情でリザを見上げる。
「どちらの持ち物か、あとで…決めよう。
いまは、私に持たせて。貴方じゃどうせ……運べないでしょう?」
屈辱的……いや情けなさがサイスを貫く。
仲間1人、弟1人運べないなんて…しかし実際背丈もさほど変わりない男を、走りながら運ぶなんてサイスには無理だ。
それでもサイスが渋っていると、
ドドドドッ……
「⁉︎クローンの大群…じゃないかしら…」
ティトの一言にハッとなる。
先程までロボのおかげで大分数を減らされ、ついてこれなくなっていたクローン集団が、どうやらまだ懲りずに追いかけてきているらしい。
「……頼む‼︎」
サイスは意を決してリザに布包を託すと、交換にリザから武器を数点預かる。
ティトを先頭に、リザ、サイスと続いて、3人は走り出した。
一刻も早く、地上に出なくては‼︎
ユキは3人のセンサーを追いながらも、不気味な巨体が背後に尾けていることに気づいていた。
それが生き物なのか、機械なのか……まぁ機械だろうな。
仮にあのデカさで生き物となると、象かなにかそういったものということになってしまう。
ただでさえ貴重な人間以外の生き物をわざわざこんなところに放って置くことはないだろう。
しかし、どういうわけか、その何かは一向に攻撃を加えてはこない。
何かあった時のために、傍らには旧型のロケットランチャーまで準備しているのだが……
《ユキ…さん、この空洞、周波数で測った感じ…では地上近くまであるようなんですが…》
喋るのが得意でないティズが咄嗟に考えたんだろう。ユキの手元の小型エアスクリーンにそう文が映し出される。
ティズ程文字打ちが早ければ、喋るのと大差ないスピードで情報が入ってくる。
「出口は無さそう?」
《はい》
つまり、氷の張った池、みたいな状態なわけか?
中は空洞で、でも上にたどり着くためのなにか…梯子などがあるとも限らない。
それでも地上には近づける。
「参ったな……」
爆破という手があったが、それこそ背後に尾けているやつに襲われるかもしれない。
「ティズ‼︎もし3人のセンサーが空洞内に入ってきたら教えてくれ‼︎」
《了解》
しかし、あーだこーだと躊躇っている場合ではない。
南地区丑の方角に……
嫌な火の手が上がっている。