真を知る者 3
リザから無言の指示が飛んできた時、心底ホッとした。
指で右手へ進めと指示をすると、サイスとティトを先行させつつ、ロボを凝視している。
サイスは右手に曲がって少し行ったところにシャッターのようなものを見つけ、そこにティトと共に入った。その瞬間----
「サイス‼︎‼︎」
リザの声が背後から聞こえ、振り返った目の前にはリザが担いでいた布に包まれた何か。
咄嗟に受けとめるが、よろけ尻餅をつく。
「ユキ‼︎」
臀部に痛みが走ったのとほぼ同時に、リザの叫びがもう一度聞こえ、そして……
ガガッ…ザザーーーーーーッ‼︎
ジャックの遺体を投げると同時に振り返り、ユキの名を叫ぶと、背後でシャッターが軽々しい音とともに閉まったのを感じる。
シャッターなんて軽快な名前の通り、防護壁としての役割はさしてこなせそうに無い、ちんけな音だ。柔いのは見るまでも無い。
対して相手はおそらく鋼鉄。
いや何で出来ているのか、詳しくはわからないし、手足は柔いだろうが…胴体はそれなりの強度があると見受けた。
まぁもっとも、身体の強度をいったら、こちらだって負けていないが。
手持ちの武器の中から刀を二本取り出す。
二本ともリザの腕の長さ程のもので、リザはそれを一本はそのまま、もう一本は逆手に構えるとロボの方へ勢いをつけて走っていく。
残った四、五本の手足がロボからリザに向けて伸びてくる。結構な速さであったが、リザはその合間を縫って走り抜けた。
リザの走り抜けたあとに、ロボの腕は残らない。リザの的確すぎる刀さばきによって、ロボの腕は全て木っ端微塵に粉砕されていく。
弱い部分がまるで光って見えているのかという程に、完璧に弱点を突いていってしまう。
腕を粉砕しながらロボの、雲の目のようなセンサーの目の前に飛躍着地すると、そのまま勢いをつけて跳躍し、ロボの上でくるりと回ってみせる。
すると、ロボがリザの動きに吊られるように上を向き、後ろへ反り……
ズガガガガッッ………
「いっちょ、あがりっと……」
仰向けに倒れた蜘蛛のようなロボの腹の上に乗ると、スイッチらしき青い点滅の側のボタンを躊躇いなく押す。
ロボはそこで一旦動きを止めるとまた手足の部分を動かし、本当に倒れた蜘蛛のように脚を内側へ折って止まる。
「ユキの武器…役に立った…」
『……本当に?それは良かった。勝手に拝借してきた甲斐があったねぇ。』
いま使ったワイヤーは、随分前に紅楼関係者、伏家に依頼を受けに行った際に、興味本位でリザが拝借してきたものだった。
確かいま、伏の家の次男だか三男だかが、ワイヤー戦闘を得意としていたはずだ。そのワイヤーをリザも我が物顔で使いこなしてしまった。
とはいえ、もちろん最新のものではないから……残念ながら金属を切ることまでは出来なかったが。
リザはともあれ2人と合流しようと、シャッターの方へと歩をすすめた。
シャッターが軽い音をたてながら閉まった。
外側に、怪物ロボと、少女を残して。
「ちょっ……閉まっちゃったじゃない‼︎」
ティトが慌ててシャッターの方へ走り寄る。
しかしサイスは、閉まったシャッターより、少女より、目の前にある布に包まれたなにかから目が離せない。
これは…やはりジャックなのか。
しかしだとするならば…ジャックはやはり死んでいて…だから動かなくて…
いや、眠らされていたりするだけで…
いまこの布の中身を確認する?
確認などせず、この布の塊を抱えて逃げる?
サイスは試しに布の塊を両手で抱え立ち上がろうとする。
が……思ったよりも重たく、持つことそのものは出来るが、これを担いで走れる自信はない。
こんな重さのものを片手で担いで走っていたかと思うと…リザという少女の存在は尚更恐ろしい。
「なんか…静かになったわ……」
ティトが恐ろしげにシャッターを見つめ、その向こうの音に耳をすませる。
「どう…なったのかし……⁉︎」
ティトは途中で言葉を切ると、サッと身を翻す。
ガッ…‼︎
先程まで、ティトが顔を寄せていた辺りに、見覚えのある細長い鉄の腕が……その先に血を滴らせながら……シャッターに突き刺さっている。
よく見ると、先程までの腕よりは幾分か細いように思われるが……
細く、磨き抜かれた金属の冷たい光を、滴る血がくすませている。
シャッターの向こうからは、静寂だけが返ってくる。