戦場組3
零を通してではない、そのままの俺……か。
「そんなの、俺じゃないよ。」
真城は素直に思ったことを口にする。
「え?」
ロブは唐突な返しに、思わず聞き返した。
「だから、零を通して見ない、零のいない俺なんて……俺じゃないよ。」
真城は逡巡し、しかしロブに本当のことを話してしまおう。と決心を固める。
Sクラスの誰にも話していない、名影と真城だけの"秘密"。もっとも、別に隠そうとしたわけでは無く、なんとなく聞かれないから答えていなかっただけだけれど…
「俺、別に何も特別じゃない……群衆の中の1人だったんだ。家柄がずば抜けて良いわけでもない、これといった特技もない、むろんSクラスに入れる程優秀なわけでもない……
でも、そんなことより深刻だったのは、俺には趣味も、友人も、むろん恋人もいなかったこと。両親は死んだから、家でも特別な1人ではなかったこと。
そんなことは大したことじゃない、って思うかもしれないが、俺にとっては物凄く空虚なことだった。
居ても居なくても大差がない。
俺はその時、まだ"特別な人"っていうのが存在すると思っていて、そして自分はそれになることの出来なかった…いわば劣等種みたいなもんだと思ってたんだよ……」
だから、あの日……特に考えもなくPEPEのどっかの棟の屋上の淵に立って……たぶん、飛び降りるつもりだったんだと思う。
今となっては自分でも、どうして、具体的に何をするつもりだったのか思い出せないけれど。
でもまぁ、屋上の淵にに立って、眼下に硬い地面を認めていたあの状況は、きっと死のうとしていたんだろう。
「飛び降りに来たの。」
なんのためらいもなく、言い放った人。
もしかしたら、俺が飛び降りないように、なんか、心理学的に良い言葉、みたいなのだったのかもしれないけど……
俺はその言葉を聞いて、この人馬鹿だな。
って思ってた。
飛び降りても何も解決しない。
あんたが飛び降りた所で、誰も困らない。
それは俺も一緒。
「あんた首席の……」
俺と一緒なんかじゃない。
最初に話している相手について気付いた時は本当に驚いた。一体自分はなんで、この人と話しているのかと、疑問に思った。
でも………
「私も貴方も、大したことないわ。
"特別な人"だなんて、そんなおかしな人いると思う?SOUPのトップだって、カンパニーのトップだって、孤児だって、私だって、貴方だって…結局みんな肉と骨と皮で出来ていて、いつかは死に、遠くない未来、たとえ偉人になったとしても、結局は薄っぺらい紙みたいな存在になっていくのよ。
でもね、とにかく今、私は貴方に居て欲しいの。それで何か不満?」
二度目の再会で、そう語ると、俺をSクラスに引き上げ、俺は名影零の側にずっといるようになった。
俺が劣っていて平凡なんじゃない。
そもそも特別な人なんて物自体、存在していなかったんだ。
「なんか…だからそのー…名影零って存在を通して俺は生きてる?から………うん。」
真城は肝心の名影に対する奥底の感情に見合った言葉を見つけられず、妙な場所で話を切ってしまった。
そんな真城を見て、ロブは吹き出すと、真城の肩を軽く叩く。
「いや、悪い。ただ俺は名影首席がいる云々を抜きにして、真城は戦場に行くことをどう思ってるのかを知りたかったんだ。……でも、そうか。2人の間には第三者の立ち入れないような、深い絆があるんだな。……羨ましいよ。」
「ロブも零とそうなりたいの?」
「いやぁ‼︎首席と、ではなくてね。誰か1人でも良いから、そんな素敵な絆で結ばれた友人や恋人がいれば…と思っただけさ。」
その言葉に、真城は首をかしげる。
「俺から見てると、ロブと恩とティトもなかなかに親しい…絆?で結ばれていると思ってたけど……」
それを聞くと、ロブは顔を綻ばせる。
「あぁ、そうか。そう見えてたか。…うん、確かにそうだな。俺にとってあの2人は大切な友人だ…失いたくない、かけがえのないものだ。」
そのティトは…今どこにいるのかも分からないが。
「まぁ…なんだ。戦場に行くってのは俺らにとっては"普通じゃない"ことだ。だが、己が為、また、大切な者がために、頑張ろう。」
真城は差し出された手を固く握った。
「………うん。」