知将親子8
「…………子供……なんだ。」
………………こども?
「つまり…な。人体実験だよ。産まれたばかりの赤ん坊を使って実験をしていた……そうしたところ、当初の目的からは少々ズレた結果を出す赤児が出来上がってしまった…」
SOUPの連中がそこまで非道な連中だとは思わなかった……と言いたいところだが、人体実験をしている、というのは随分前から知っていた。
クローンや人型アンドロイドの作成に際して、多くの人間が使われたはずだ。
しかし…赤児とは…
「じゃあレベルEの被験体っていうのはクローンとかそういう……?」
「いや、違う。
そもそも赤児や、普通に大人も集めて行なっていた実験は放射能やウィルスに対する抗体や薬などの効果実験だった。」
「……⁉︎」
聖はさすがに驚いた。
ウィルスもさることながら、放射能?
SOUPの連中はついに悪魔にでも心を乗っ取られたのか?
「本来、SOUPが作りたかった最終目標は、ウィルスや放射能のある場所でも影響を受けない人間、もしくはその細胞だった。………しかし、出来上がったのは…そういった物質を"放射する"人間だった。」
聖は話についていけていなかった。
ウィルスや放射能を発する人間……?
「そいつが……逃げた?」
「そうだ。そして、子供である被験体を逃した人間がいる。問題は……それが誰であるか、なんのために逃したのか、背後で糸を引いているのは誰なのか。」
つまりその被験体の細胞を盗もうとしたにせよ、殺そうとしているにせよ……何らかの意図を持って、レベルEの被験体を逃したやつがいて……そいつらがどこの組織に雇われてやっているのかが気になるってことか…
「でも……そいつらはレベルEに近づいても大丈夫だったのか?」
そんなやばいやつなら、とっくに死んでいてもおかしくない。
聖のその質問に、父である秀貴は、次の言葉を言い淀む。どうしても、先に続けるのが怖かった。
「まず……そうだな…移動に際しては、とある有名博士の発明によって作り出されたシートで包むなり、着せるなりすればある程度は運べるそうだ。それも…完璧ではないだろうがな。
それから…そう、人に関して…だが。
そのレベルEの実験の際に、成功作も実はいくつか出来ていたんだそうだ……ただし原型じゃないがな…」
「結局クローン実験もそこに絡めていった…ってこと?」
「そう………だ……それでな、聖……」
芦屋秀貴は、父として、真実をしっかりと息子に教えなくてはならないことを分かっていた。
誤解のないように、でも嘘のないように……
聖はなにかと葛藤しているらしい父の顔をまじまじと見た。顔の造作が悉く似ている。
そしてようやく、父は口を開いた。
「実はな…成功作のひとつは…………
兄なんだ……しかも、四年前に本当の芦屋類を殺して……いま逃走している。行方知れずだ…。」