軍属2
高氏の説明は端的であった。
決して愛想が無いわけではない。が、分かりやすく端的にまとめて話をしてくれる。
目や挙動を見る限り嘘も付いていない
。
「分からないことはあるか?」
「いえ、大丈夫です。」
軍属になった場合、名影達は初日から高氏直属の精鋭部隊に入り訓練を受ける。
その後、戦場に出るにおいて何処に配属になるかは上次第。しかし基本的には前線ではなく、控えの部隊か指示部隊、情報電信部隊の方に入る。
これは約束通りだ。
「何がともあれ…あと1人を選ばなくっちゃ……」
芦屋辺りは名乗りを上げてくれそうな気はするが、さすがに芦屋の家の人間を代理戦争屋の下部組織である軍に連れて行くのはまずい。
他の生徒は……どうだろう。
「変なことだよな。」
「ん?」
紅楼の専用無人自動車に揺られ送られながら、真城はボソリと呟く。
「結局どっちが勝ったところで大差のない、何の意味もないような戦争を、全力でやる。子供のゲームよりつまらない。」
「代理戦争だから…?」
「というか、他人任せの運任せで物事を決定するくらいなら、コインの裏表ででも決めればいいのに。外の連中も、中の連中も、本当は誰も本質に気づいていないんじゃないか……って。」
「本質…?」
名影は真城の言わんとしていることがいまいち掴めない。
「価値の逆転…っていうか…。今までは代理戦争をするための入れ物としてトラストルノがあった。かつてはトラストルノの規模も比較的小さかったからそれで納得できた。………でもそれが、何処かのタイミングで、逆転した。人口か面積がトラストルノの内外で逆転した瞬間だろうと思う。トラストルノこそが"外側"で、それ以外が逆に"内側"なんだ。」
真城は自分に1つずつ理解させていくように話し続ける。もはや名影に向かって話しているわけではないのは明白だった。
「限られた見せかけの平和を保つ"内側"。トラストルノの人間はその見せかけの平和を夢見て戦う。もはや内側の人間の意思とはかけ離れたところで……」
名影は価値転換についてをどうにか理解したような気になりつつ、真城の顔を覗き込む。
「それで?逆転したことに気づいた上で、真城くんはその無駄な戦いに行ってくれるの?」
そう聞くと、真城は心底質問が理解できないというように、キョトンと首をかしげる。
「俺は別にトラストルノの為でも、紅楼のためでも、ましてどっかの平和ボケ野郎どものために行くんでもない。零と一緒に居たいから、頼られるのが嬉しいから行くんだよ?」
今度は名影がキョトンとする番だった。
「……そう……ふふふ、そうなの…‼︎あははははは‼︎そっか‼︎うんうん」
それから何故か無性に嬉しくなって、真城の肩を軽く叩きながら久しぶり大きく笑う。
そんな名影を見て、真城も自然と顔を綻ばせ、そしてにかっと笑った。
「なんか、潤とならそこそこ上手くやれる気がしてきたわ。というかもうどうにでもなれ‼︎って感じ。」
「そこそこって……いや‼︎俺がどうにかする‼︎」
「そう?んふふふ…心強いわ。」
名影は数年前の、真城に声をかけた自分に、心の底から感謝した。
少なくとも、いまここで、真城と話し、笑い、生きている私は……
誰かの替えなんかじゃない。
たった1人の…
名影零だ。