対人外戦
キーーーンッッ……‼︎
「くそがっ‼︎」
ガガガガガガガガッ‼︎
サイスはワイヤーが絡まったり、切れたりしないことを願いながら、迫り来る無数の手に向かって銃を乱射する。生憎、こんな落ちながらの射撃の精度なんてたかが知れていて、牽制にはなっているようだが、実際に本数自体を減らすことは出来ていないようだった。
「下が見えて来た‼︎」
ティトからの合図にサイスは少し膝を曲げティトを持ち上げる。その一瞬後に、ティトの手がパッと離れ、「レフト‼︎」と叫び声が聞こえてきた。
やはり、ティトは使える。
サイスは勿体無いとは思いつつ、替えもあるしと指に仕込んだ刃物でワイヤーを器用に切り、そして地面に着地する感覚と同時に左手に転がり込み走り出した。ティトは少し前を走っている。
「伏せて‼︎」
T字路に来たところで、ティトが叫ぶ。
サイスは伏せながら仁王立ちしているティトの後ろに回り込むと、現在位置と向かうべき通路を頭の中で割り出す。
西側への出口と、南と東の境に出る出口のどちらかに繋がっているはずの2つの通路……西側に出た方が良い、と先程まではかんがえていたが……むしろティトに協力を仰いだことだし、PEPEに厄介になれるならそちらの方が得策では?
「右だ‼︎」
サイスは弾丸の発する金属音に負けじと叫び、振り返って…唖然とした。
手の多さもさることながら、ティトのその銃さばきに、である。
ティトの手元から発せられた弾丸は寸分違わず手の平を捉え、そして腕にあたるアーム部分を中途まで破壊してその威力を失う。
しかしアームまでやられてしまえば、それはもはや武器としての役割を果たせていない。
鞭のような使い方は出来るかもしれないが、SKANDAの下にあるようなロボに武器の使い方の変更をするような、知的機能が備わっているとは思えない。
「走って‼︎」
今度は、ティトの合図でサイスが動く。
ティトは最後に背中背負っていたうちの1つ、小型のロケットランチャーを放つと、全速力でサイスに追いつく。
「すごいな……」
「銃器はね、結構得意なのよ。でも、一応貴方達に警告も兼ねて教えてあげるわ。PEPEの現主席はこんなもんじゃないわよ。一対一をやって…私、歯も立たなかった。」
「そりゃぁ……ご一緒したくないね。」
2人の背後、100m程先で岩が砕かれるような音が響く。手の何本かが、落ちて来た天井を砕くかどうにかしたのかもしれない。
「また追ってくるぞ‼︎」
「えぇ…最悪なことにね…‼︎」
『ムカウノハ イーストトサウスのキョウカイノトコロノ デグチデイイカ?』
声に出すのも億劫になってきて、歯の振動でユキに信号を送る。
すると『セイカイ』とすぐに帰ってくる。
つまり、そこにさえ行けば助かる。が、そこまでこいつらを連れて行ってしまうとユキにも危険が及ぶ。というわけだ。
全くため息が出てしまう。
リザはジャックを一旦どうにかしたい一心でキョロキョロと辺りを見回す。せめて少し広めに床のある場所があれば、おんぶの形に背負って、縄で縛り付けてしまうのに…
正直、担いでいると両手が使えなくて不便極まりない。
「うーーん……」
いや…誰か協力者がいればそれに越したことはないんだが……
…ガガ……ガガガ…ガッ‼︎
「?」
どこか遠くから銃弾の被弾する音が聞こえる。ここより少し上…か?
SKANDAの人間か…もしくは先程逃した2人だろうか?仮にあの2人だったなら協力してくれる可能性もゼロではない……がSKANDAの連中だったら…それはそれで、眼下に蠢く有象無象の相手をしてもらえるかもしれない。
『ユキ、コノウエニイルノハダレ?』
そもそも、よく考えたらユキに聞けば一発でわかる話じゃないか。逃したうちの1人は本当ならこちらで保護して逃す予定だったわけだし、合流にユキは反対じゃないはずだ。
『ウエニイルノハ、サイストティト。サキホドトウソウシタフタリ』
『オーケー』
リザは梁の上を真っ直ぐ走るのをやめ、ワイヤーを器用に使って右に進路を変更した。
目指すは右手壁にある梯子。
上階を目指し、2人に合流しよう。
眼下では膨大に膨れ上がった蠢く群衆が、リザの向かう方へ動きを変えた。