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トラストルノ  作者: なさぎしょう
痛快癖
260/296

不快



SKANDA地下格納庫は地上のSKANDAの敷地の倍はあるだろう。その一画を通ってリザと男はユキとの待ち合わせ場所を目指す。

リザは一体どこにそんな力を内包しているのやら……シーツに(くる)まれたジャックを軽々と担いだままで軽快に駆けていく。


男はふと格納庫内に並べられた黒い箱の1つに目をやる。いま、僅かだが動いたような気がしたのだ。気になって前を走るリザに叫びかける。


「なぁ、この棺みたいな箱ってのはあれかね?最新兵器とかなんかか?」


「そう。でもきっとあなたが思っているような武器じゃない」


「?もっとやばいってことか?核爆弾やらなんやらではないのか。」


「違う。たぶん…その箱の中は……






アンドロイドかクローンだと思う。」



男はリザの発言にぎょっとする。

だって……もしそれが本当なら…先ほど箱が動いたように見えたのは…偶然では無いのでは?


男はおそるおそる背後を振り返った。




「おいおいおいおい…うそだろっ…⁉︎」


「振り返らないで‼︎走れ‼︎」


箱がいくつか開き、中から出てきたのはSKANDAの兵士。

しかも見覚えがある。


先程の銃撃戦で男が倒したはずの兵士達だ。


「なんで‼︎SKANDAがあんな技術を持ってる⁉︎俺ら(・・)でもまだ実戦にまでは到達出来ていないというのに‼︎」


「だから…粗雑だった…考えもなく……突っ込んできたり……あなた達が作ろうとしている、完成形のレベル……までは全く行ってない。」


なるほど確かに。

男は納得すると、必死でリザについていく。


ようやく格納庫の1つ目の出口に辿り着くと、リザは守衛室のようなところにあったロッカーから勝手に武器を拝借し、男にも銃器を投げ渡す。そうして武器の装備をあらかたすると、男に次の格納庫の(キー)を開け、と目で合図する。


「……どっちだろう。」


男がパネルと睨めっこをしている間、リザはきっちり目の前の敵を片付けなくてはならない。

ジャックを右肩に担ぎ直し、左手にマシンガンを構える。

万が一にもSOUPからの卸売で、自分のクローン(・・・・・・・)が出てきたら厄介だと思っていただけに、SKANDAの兵士だったのはありがたい。

しかも…



ダラダラララララララ……



「クローンじゃなくて…アンドロイドだ…」


リザの中で、非常に偏った思考ではあるのだろうが、クローンよりもアンドロイドの方が殺すことに抵抗がない(・・・・・)

先程の兵士達と容姿は変わらないのに、打ち倒したアンドロイドからは血飛沫は上がらない。


あくまで無機物的な動作で次々と倒れていく。


「開いっぅ…ゔっ………」


リザは奇妙な音に気がつき、背後と前が両方見えるように足を引き、そうして男の方を見た。


「………っ⁉︎」


男は斬り倒されピクリとも動かないのだが、それよりもリザの目を引いたのは、男の遺体の横に立つ(・・・・)人物(・・)であった。






「うわぁ………いた……」




リザは久しぶりに見た自分のクローンかアンドロイドの、あまりにも未完成で非人間的な動きに驚愕と悲哀と、それから苛立ちすらも覚える。ここまで色んな感情に襲われるのは久方ぶりだ。


どことなく人間らしからぬ関節の動きをする自分自身と、対峙する。


クローンとしての失敗作だとしても、あまりに失礼ではないだろうか?いや、そもそも、その様はリザにとっての…何か尊厳のようなものを踏みにじられたような感覚を覚えさせられる。失敗かどうかということ以前の問題だろう。


兵士達がアンドロイドだとするなら、目の前の自分もアンドロイドだろうか?‪

こんな風にやたら自分のそっくりがいっぱい出てくる映画を、昔見た覚えがある。しかし……こんなに歪められたそっくりさん(・・・・・・)を見た登場人物が出てくる映画はあっただろうか?

あるなら、リザはいまその人物の気持ちをはじめて痛感しているのである。


『だいじょうぶ?』


骨伝導の信号でユキから送られてきた信号に、『よゆう』と返せば、不思議と自分の中に落ち着きが戻ってくる。


リザはジャックを改めて担ぎ直すと、マシンガンでもう1人の自分を撃ち、そうして血飛沫のうちに、なお倒れず襲ってくる異形の様にため息をもらした。

やむなし、と判断すると男の死体には目もくれず、自分の真上に袖の隠しポケットからワイヤーを飛ばし……そして真上へ跳ね上がった。




全くカッコよくなんていかない。

ワイヤーで真上に飛ぶと、ギリギリのところで反動をつけて、対になる梁のところまで飛ぶ。

そうしなければ真上の梁に腕を打ち付けて痛め、最悪真下に落下して全くの無駄を食う。


リザはジャックを担いだままで、ヒラリと華麗に細い梁の上へ着地すると、なんてことのないように走っていく。

どう考えても、普通なら足がすくむような高さと細さの梁なのに、リザにとってはなんてことがないようでするりするりと進む。


軽業師になった気分……


リザは風貌に似合わぬ例えを頭にぼんやりと浮かべながら、余裕綽々で進み、眼下に幾人か見える自分にうんざりして、小型の爆弾を1つ落とした。

あんなものは……そもそも全部が失敗なんだ。


そもそも……この私(・・・)から成功を(・・・)望もう(・・・)とは……


















※本編に関係のない挨拶がございます





※後々これ以降の文のみ削除いたします。

今年一年読んでいただきありがとうございます。駄文且つ長々と終わらない…なにぶんはじめての長編小説に挑んでおります故……ゆるーく読んでいただければ幸いです。

感想や厳しい意見などもお待ちしております。


(正月話を「よりどり小噺」の方へあげようと思っております)

来年も何卒、トラストルノシリーズをよろしくご愛読くださいませ。

良いお年を。

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