救出へ
南地区の…もっと明確に言えばSKANDAの連中が、こんなに無能だとは思わなかった。
追っ手は一向にやってこない。
ティトにはそのまま帰るという選択肢もおおいにあり得た。
PEPEの方ももういい加減不自然を通り越して、完全に嘘つきの不在確定だし、正直とっとと結果を報告して帰りたい。
「でも………」
どうしても、ジャックを裏切る気になれない。
ティトは意を決して、もう一度SKANDAに戻る決意をする。
グプタの言っていたことについても、ジャックに話したい。
追っ手も来ないような無能ぶりならジャックを掻っ攫うくらいわけないだろう。
テンはなかなか勘の鋭いタイプだったのかもしれない。
男に連れてきてもらった所にあった小屋が気になって仕方がなかったのでくまなく調べた所、あっさり地下に通じる隠し通路を発見することが出来た。
「待ってろよ、ジャック……」
地下通路を壁に背中をあてながら進む。
行く手に何者かが現れても背中を取られなくて済むように。さらに応戦できるように、使い慣れないリボルバー銃を構える。
別れ際、ここまで送ってくれた男が手渡してくれた代物だ。上手く扱える自信は無いが、今のところ最も有効な武器といって過言でないので、きちっと構えて進む。
途中の分かれ道は、床に残った僅かな掠れた足跡を頼りに行く。
「………?」
進みきったところで今度は上へ上がる階段が現れた。が、その階段の先には扉が3つあるのだ。
ここにきてようやくセンサーとカメラが設置されている場所にこれた。そういったものが全く無いと、もしかして見当違いのところへ来てしまったのではないかと、不安になってしまうのだ。
カメラには有効手がある。
ピレという愛称で呼ばれる……ジャミング装置である。ただ、小型の割に高性能なうえに、情報屋のユキさんの機能付加によってジャミング以外のことも行ってくれるようになっている。
ピレを投げて反応を待つと、今度は身体を滑り込ませるようにして、扉の向こう側の音を聞きつつ、開く扉を精査する。
……左……いや………真ん中だな。
開く前に、錠剤のように小粒の煙幕弾を扉から滑り込ませる。
人が居なければ、勝手に中で煙幕を噴射することもない。
どうやら人は居ないらしい。
テン自身はまだ入り込めたとは気づいて居ないようだが……いよいよ、SKANDA内部に潜入して行く。
サイスは途中何人かのSKANDA兵士と鉢合わせになりながらも、目的の出口近くまで来ていた。
さらにそこから端末スクリーンでカメラやセンサーをハックしジャックの姿を探すが、一向に見つからない。
かれこれ十分以上は探しているのだが…
「ん?…………‼︎‼︎」
一瞬、奇妙な切り替わり方をしたカメラがあることに気がつき、スクロールしながら探して行くと、一台ずつ不自然に人の映らない映像に切り替わっていっていることが分かる。
慌てて対抗するも、全く歯が立たない。
してやられた……!
相手はあのユキだ。それでもカメラが活きていてよかったと思ったのが間違いだった。あまりにも華麗に映像を切り替えられていたせいで正常な状態でまだ映っていると勘違いしていた。
「⁉︎テン?と………なんだ、外に……女?」
しかし幸運なことに、カメラが切り替わってしまう前にサイスはテンと、そして不審な動きをする女-----ティトを発見した。
残念ながらジャックは見つけられていないが、テンと協力すれば見つけられるかもしれない。
幸い、今の映像の辺りなら、この近くだ。
ただ分が悪いのは間違いない。向こうは、逐一カメラやセンサーでもってこちらの位置情報などを監視しているわけだし、なによりリザがいる……
でも奇妙だな…それなら何故、正妻の援護にもっと多くのロボを向かわせなかったのか…なぜジャックの追跡をドローンにやらせないのか……
もしかすると…ユキとリザはまだ…完全に僕らを売ったわけでは…ないのか?
三者三様にジャックの捜索、救出を目論む頃……第三勢力が南地区に向かっていることには、まだ南内部の者達は気づきもしなかった。