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トラストルノ  作者: なさぎしょう
愛憎劇
240/296

鑑賞≪思い出≫


零と夕飯も一緒に食べて、本当に他愛もない話をして……今日は1日中、零と共に過ごした。

だからだろうか……懐かしい夢を見た。






真城潤(ましろじゅん)は別に、名家の生まれでも無ければ、孤児というわけでもなし、これといって特に秀でた教科があるわけでもなく、苦手な事があるわけでもない……


真城は自分を退屈でつまらない人間だと思ったし、この単調さが人間ってものなんだ。なんて仰々しいことまで考えていた。




そんなある時、両親が立て続けに死んだ。

その時に、真城の心を真っ先によぎったのは「これで普通じゃなくなる、退屈でつまらない人間でなくなった」という思いだった。


両親の死に対するかなしみ、今後への不安、Cクラスとはいえそこそこ頑張って何年も通ってきたPEPEも辞めなければならなくなるかもしれないのに…


「退屈でなくなることへの期待」


の方が大きかった。




しかし現実は身近な者の死くらいでは(・・・・・)変わらないのだ。

先行き対するぼんやりとした不安。

このままこうして何もなく、生きて、死んでいく恐怖。兵士になったとしたって、そんなのは一瞬非日常になるだけ。

結局はすぐに戦場が日常になるし、そもそも兵士なんていっぱいいる…

最後には沢山の死、何万人、という数の死者(・・・・)に纏められて有耶無耶にされるのだろう。





誰か…俺を見てくれ。

俺だけを見てくれ。

俺にとって、俺自身を特別にしてくれ。





そんな思いは真城をどんどん侵食していって、弱らせていった。

気づけば、死が真城を蝕み始めていた。


自殺しよう。


と思ったわけではない。気づけば屋上にいて、下をぼんやりと眺めていた。だから実際、止められなかったとしても、真城は飛び降りてなどいなかったかもしれない。


「なにしてるの?」


普通なら切羽詰まってパニックになってもおかしくないような状況に面して、なお彼女は冷静で、むしろ楽しそうですらあった。


「特になにも…」


「ふーん?私はね、飛び降りに来たの」


「……そう…なんだ。」


「うん」


零との記念すべき初会話は、こんな味気ないものだった。というより、やっぱり真城は普通でない状況だったのだろう。ボーッとしすぎて、話し相手の少女が主席の名影零だと、微塵も気づかないでいた。


「止めてはくれないの?」


「止めて欲しいの?」


妙に落ち着いて、むしろ楽しそうな名影の調子に触発されて、真城もこの少女との問答が意味もなく楽しくなってきた。


「ねぇ、あなた痛みを感じないって本当?」


「……うん。」


この話はあまり好きじゃない。

結局痛みつけようとするだけして、飽きると離れていく。真城はそんな一過性の興味なんて、恐ろしすぎて欲しくなんてない。


「ふーん」


すると名影は近づいてきて、思い切り真城を後ろへ引っ張り、自分と同じ所へ降ろした。それからズイッと詰め寄る。


「歯を食いしばんなさい。」


「?」



バッチーーーンッ



真城は驚いた。

もちろん痛みはない。ないが、突然の衝撃にはさすがに驚くし、その細身の少女からは想像つかない程の力の平手打ちが振るわれたことに対しても驚いた。


「本当だ、驚くばっかりで痛くはないのね。蹲らないし……顔って鍛え辛いはずだから本当に痛みを感じてないのね。」


いくらなんでも、会って数分、わずかな会話を交えただけの少女(・・)から、なんの前触れもなく叩かれたのは初めてだ。


「ねぇ、私と一緒のクラスで学ばない?それでね、私を守って欲しいの。もちろん戦闘の基礎は教えるわよ。そしたら最強の盾と矛を1人で担えるわね‼︎」


「1人で矛盾(むじゅん)してろってこと?」


「あっははは…そう‼︎1人で矛盾してろってこと‼︎」




そこでやっと、真城は相手の正体に気づいた。


「え、あ…あんた主席の……Sクラスの……あの、…」


「私の立場なんて一対一の関係では重要じゃないのよ。ねぇ‼︎私を守ってよ。卒業まででいいから‼︎そしたら私も何か1つお願いを聞いてあげる。」


「お願い……?」


何があるだろう。この不思議で、有能な少女に自分が…自分だけ(・・・・)が望むこと…。





「あ……じゃあ、卒業の時に……あんたの手で…








俺を殺してよ。」


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