感傷3
男はテンを自分の住まいまで連れてくると、「ちょっと待ってな」と言って建物の裏手へ消えた。
テンは今更になって、本当にあの男が信頼に値するのか、そもそも本当にこちら側の人間か、と不安になって来た。
ジャックなら一目見ただけで分かるんだろう。
と思うと自分が情けない。
「悪いわるい、こいつを奥から引っ張り出すのに苦労しててな…だがちゃんと動きそうだ。」
旧時代の頃にあった二輪車だ。
もうトラストルノで一般的には見られなくなった。ただ、一般的にというだけで、繁華街や屋台街なんかではまだまだ残っていて、たまに見かける。
「うしっ、じゃあ後ろに乗ってくれ。」
「…っはい‼︎」
男に対する不安と、なかなか古いオートバイに対する不安が尋常じゃない冷や汗をかかせている。
が、ジャックをなるだけ早く迎えに行かなければならないのだから。
立ち止まっている場合ではない。
「南地区の、ちと辺鄙な場所に出ちまうんだけどな、それでもいいか⁉︎」
「構いません‼︎」
屋台街より一本奥の、川沿い人気のない道をオートバイで物凄い勢いで走っていく。エンジンや風の音、一本向こう側から聞こえてくる喧騒に負けじと、2人は叫ぶようにして会話する。
結論からいうとテンの心配は杞憂だった。
オートバイは見た目の割にとてつもないスピードが出たし、男はそのとてつもないスピードのオートバイの扱いに非常に慣れていた。
全く不安げのない運転。
「ちっとばかし頭かがめてくれるか‼︎」
「はい‼︎」
言われてテンが頭をかがめつつ、前方を見ると、明らかに徒歩で通る以外の目的は無さそうなトンネルが見えて来た。
しかも徒歩でも通る人は少ないらしく、通るどころか近づくのも躊躇われる程廃れている。
「捕まっとれ‼︎」
テンは男の言葉に素直に従い、頭をかがめたうえで男にしっかりと捕まる。
ビュッ‼︎
男が小さな球体をトンネル内部に投げ込むと瞬間、黄色っぽい閃光が走り、そしてそれは出来た瞬間と同じように弾けて消えた。
瞬間滅菌弾…簡単に言うと掃除してくれる小規模爆弾といったところだろうか。値段はピンキリ、屋台をやっているこの男が持っていたということはそんなに値の張るものではないだろうに、トンネルは先ほどまでの状態が嘘のように、閃光弾の弾けた内部だけ綺麗になっている。
そこをフルスピードで通り抜けると、いきなり地面が無くなったかのようにオートバイがふわりと飛ぶ。
…と思えば今度は地面に叩きつけられるような感覚が襲う。
トンネルを抜けた途端に明らかに空気が変わった。
空気だけじゃない、人の気配や喧騒が遠のき、地面や空の感じも途端に、まるで映画のようにカチリと途端、様子が変わってしまったのだ。
そのままずーっと一本道をひたすら走って行き、何もないような所で、男はオートバイを止める。
「この辺りの…どっかから南のはずだ。ちょうどあっこの小屋らへんかな?このあたりは極たまーに人は通るが、まず住む人間はいない土地だ。」
「すごい…こんなすぐ着くなんて…」
テンが素直に驚くと男は少し誇らしげに胸を張った。
「ところであの小屋は…」
「ん?あぁ、あれなぁーなんで壊さんのだろうな。いやそもそも全く壊れんというのも不思議だよな。」
それを聞いてテンは思うところがあるようで、じっと小屋を睨みつける。
「それじゃあここまでしか送れんですまんな。ジャックを、ジャックを絶対に助けたってな‼︎」
「はい‼︎ありがとうございました‼︎」
男に礼を言い、小屋に近づく。