掛け違い
翌日のSKANDAは混乱と混沌な只中にあった。ティトの違和感の通り、グプタは死亡していなかった者の、意識不明の重体、その息子は行方不明、友人達はみんな近くの部屋で伸びてしまっていた。
さらに客人の1人までもが気絶しているのを発見され、しかも誰の目にも明らかに彼は強姦されていた。
もう1人の客人はいない。ロシア女は消えた。
ティトはグプタに手をかけた事と、グプタの息子達が予想以上に手が早かった事が相まって、思っていたように動かなかった自覚がある。
それに、今逃げ出せば、間違いなく犯人は自分だということになるだろう。
そうなって自分の捜索が始まった段階で、多少障壁は増えるがジャックを迎えに行くとしよう。
そうしてお暇させていただく。
「大丈夫…大丈夫…」
しかし、ティトも混乱していた……のだと思う。そう何もかも予想通りに動くだなんて普段なら絶対に考えないのに、もう気ばかりが急いて駄目だった。
グプタの正妻のパニック具合は、逆に周りが冷静になってしまうくらい…とんでもないものだった。
「あんたらが‼︎守れなかったことにも責任はあるのよ‼︎今すぐ二手に分かれるなりなんなりして、息子とあのロシア人を探して来なさい‼︎でなけりゃあんたらは全員死刑よ‼︎」
死刑なんて法律のないトラストルノでは死語なのに、そんなくだらないことなど気にも留めない発狂具合だった。
息子の友人達は困ってしまった。
あのロシア人が手練れであることは昨晩見た通りだし、なによりもう出て行ってしまったのではどうしようもない。
もういっそ息子は出掛けた事にするか?
なんて意見まで出て来ていた。
身体がベタベタする…全身痛い…頭も揺さぶられてる……気持ち悪い。
ジャックはうっすらと目を開ける。部屋には1人のようで気配も視線も感じない。
「もう……帰りたい。」
シャワーを浴びようとベッドから落ちると、這いずってシャワールームへ向かう。
無様だな……
自分で自分を貶す。
シャワールームで立ち上がれず、座ったままなんとか身体の内外を綺麗にした。
ティトはどうしたんだろう?結局、息子は殺した?その上でいなくなってしまった?置いていかれた?
裏切られたのか?
それとも何処かにいるのだろうか?
ジャックは事の顛末を知らない。
ただただ自分の情けない姿を早くなんとかしてしまいたい一心だった。
結局事のなりゆき全部を知ったのは、使用人の1人が朝食兼昼食を運んできがてら、嬉々として話してくれた時だった。
まぁ、つまるところティトには助けられつつ、裏切られた、と……
しかし、あの友人達にティトを捕らえられるとは思えない。となると俺に居場所を吐かせようとか馬鹿な事を考えかねない。どう考えたって知るはずもないのに…
クイーンに会いたい…せめて電話だけでも…
声が聞きたい…
テンにも、会いたい…
ジャックの苦しみも憎しみも悲しみも、全てシャワーが流していった。