侵入者 SideS
「これより標的のいると思われる棟への侵入を開始する。」
『了解』
『りょーかい』
他のクラスの寮よりも幾分か大きく、しかし古さも感じる荘厳な建物がSクラスの寮らしい。
随分と豪勢な所に標的はいたものだ。
今回の標的は人造人間ではない。それどころか、私に非常に関係のある偽物だ。
簡単ではないだろう。
しかし、なんとしてもSOUPより早く私達が始末してしまわなくてはならない。狂った実験を終わらせるのと同時に、連中の思惑を表沙汰にしてやるのだ。
稚拙な考えかもしれない…。
それでも、何かせずにいられない。
復讐なんてかっこつけたものなんかじゃない。
ただ、私自身の満足のためだけに…
建物の外から回り込み、1つの部屋の窓下で屈み込む。
この建物はロの字型で、真ん中に中庭がある。さらに、そちら側に廊下があり、外側の窓からだと廊下に出ることができず、どこかの部屋などに入るしかないのだ。さらに、厳重なセキュリティ。
厄介だ。
窓枠に細い針金状の物体を滑り込ませると、その細長いものは窓枠に沿って蛇のように這っていく。そして一周しきると、少女がそれをクルクルと巻き取り、しまいこむ。
そのまま今度は窓枠の左端と右端を慎重に押さえ、奥にグッと押し込む…と窓枠ごと窓が外れた。
少女は音を一切たてずに中に入り込むと、窓枠をまたパコッと器用に嵌め込む。この間、音はほとんどなく気配すらも夜闇に紛れてしまっていた。
「これより標的捕獲および抹消に向かう。」
『了解、これより一旦通信を切る。ジェスター、お前がその建物の外に出ると同時に、また電波を拾って通信出来るようになるはずだ。健闘を祈る。』
『君の御武運をお祈りするよ。』
その声を最後に通信がプツリと途切れた。これで完全に1人、しっかり集中できる。
彼女が入り込んだ部屋は電気系統の部屋らしく、コンセントやらケーブルやらがごちゃごちゃと広がっている。その間をぬいながら、音をたてずに進む。埃がたまっているために足跡を残さずに進むのは至難の技だ。
廊下に出ると、階段を見つけ登っていく。どうやら主電源はもう落とされているらしく、エレベーターは稼働していない。
となると厄介なのが、万が一起きて行動する人間がいた場合、確実に階段を使ってきてしまい、鉢合わせる可能性が高いことだが…
それへの対策もちゃんと考えてきた。
実はこのPEPEに仲間を2人、送り込んでいる。ただしその2人はこちらの詳しい計画などまでは知らない。ただ、私達の掲げる主義主張に共鳴し、手を貸してくれているだけだ。
そしてその2人にSクラス内部の人間関係を聞いた上で、盗聴、盗撮のスキルを仕込み調べた。
もし鉢合わせたなら、ある人物になりきるのだ。
私なら、いや私だからこそ出来る。秘技、とでも言おうか。