休息2
名影は真城を伴って劇場内に足を踏み入れる。元々何か別の目的で建てられた建物をそのまま"亜細亜座"の劇場として使っているようだった。
亜細亜座の建物にしてはとても西側風な作りで、オペラなんかに適した建築に思える。
「すげぇ…」
真城は名影について歩きながら、忙しなくキョロキョロする。
「席はここね。」
筒状の劇場の壁にはいくつも飛び出た箱がある。箱の中は2人から10人位までの椅子が置かれている。
その箱の中から、小ぶりながら正面に舞台が見える2人用の席を名影は選んでチケットを購入した。
庶民派の一座である亜細亜座の座席にして、この席は異常に高かった。そもそもこのいくつもある箱席自体が下の平席よりも高いのだが、ここは真正面を2人で、という贅沢っぷりで特にお高かった。
でもどうせこういう時でもないとお金を使うこともないしな。
亜細亜座のチケットは平席は物々交換で手に入れることが出来る。が、箱席はビジネス特区などで使われる"紙幣"が必要になる。
名影はSOUPの手伝い諸々によって紙幣を持っていたが、 使わずに溜まる一方だったし、なによりこういう事には盛大に使うのが粋だろうと考えていた。
「さっきの書類見る。」
席に着くと真城がリュックから茶封筒を取り出し、中身を確認し始めた。
確かにこの席ならば、中で書類を確認しても余程内容を他人に見られることはないだろう。
1番始めは、切り裂き魔の情報からだった。
本名や写真だけではない。関わりがある人の一覧や、本人の身体情報などまで仔細に書かれている。
「こっちは?」
「それがトランプとは別の工作員の情報。そっちは名前くらいしかわかってないんだけどね…」
「ふーん…」
真城はズラリと並び書かれた名前を流し読む。一枚に50人くらいが8枚もありとても一つ一つに集中はできない。
「その中に、名前以外のことも私達ならわかる人がいるのよ。」
「え?」
劇場内には次々と人が入り騒めきが増していく。
「ここよ。」
名影が身を乗り出して、名簿の一箇所を指し示した。真城はその名前を読んで、瞬間誰のことか分からなかった。
それくらい意外な人物で、それが自分の知っている彼女とすぐに結びつかなかったのだ。
会場はいっぱいになり、もうまもなく亜細亜座が開演する。
「ティト・コルチコフ………?」