抱き寄せて SideJ
「ジャック?あぁ良かった起きてるわね。」
「あぁ…で?渡したいものって?」
「随分急かすのね。明日の朝、返事を聞きに来るくらいなら、もういっそ今日はずっと貴方のそばにいてやろうかしら?」
ティトがなにやらコートのポケットを探りながら聞くと、ジャックは露骨に顔をしかめた。
「冗談じゃない。ぼ…俺は寝たいんだ。」
「あら、この部屋のベッドはよく寝れるの?」
「まさか…」
ティトは肩をすくめる。
「なら私がいようがいまいが、寝れないことには変わりないじゃない。」
それを聞くと、ジャックは大袈裟にため息をつく。
「君はわかってない。もしかしたら今日はとんでもなくよく眠れる日かもしれないだろう?」
「ふ…そんな日来るの?無駄あがきだと思うわ。…あ、あった!」
ティトは意地悪っぽくジャックの意見を一蹴すると、ようやく沢山のポケットの中から目的のものを見つけ出した。それをジャックの方へ突き出す。
「…⁇」
「いいからもらって‼︎」
その何かは、綺麗にラッピングされている。手乗りサイズの袋。
中身の検討は全くつかない。
「なんだこれ?」
「一つは寝不足が隠しきれない貴方へのちょっとした気休め。もう一つは…そうね、今回の協力への謝礼と私を信頼してもらうための情報ってところかしら。」
ジャックは包みを丁寧に解いていく。
やっぱりジャックっていう人はとても繊細な人のようね……。
ティトはわざわざとった包みを畳んで置いたり、中の物の封を切るためにわざわざナイフを端に綺麗に沿わせて切ったりするジャックの姿を見てそう思った。
「小型接続端末と……薬?」
「えぇ。」
ジャックは意味がわからない、とティトの方を見る。
「薬の方は睡眠剤よ。別に使わなくてもいいけど…貴方、いま顔がすごいわよ?隈はあるし、唇も荒れてるし…よく寝た方がいいわ。」
「…………まぁ…。」
よく寝た方がいいのは事実だろう。睡眠不足は正常な判断能力を奪う。さらに苛立ち易くもなる。
とはいえ、こんなところで薬まで使って熟睡…というのは果たして正しい判断か…
「だいたいこの薬が睡眠剤だっていう証拠は?」
「ないわ。だから別に無理に飲ませようってんじゃないのよ。もし本当に寝不足が祟りそうならってね。」
ジャックは薬を一旦テーブルの上の畳まれた包みの横に置き、今度はメモリーをずいっと目の前に出して問う。
「これは?」
「小型接続端末よ。」
「それは見りゃわかる。じゃなくて中身は?」
「秘密。」
ジャックの問いに不敵な笑みでティトは答える。
「中は秘密よ。…というか私もちゃんとは知らないのよ。まぁでもそうね、一つ言えることとしては、それはとある人の端末にハッキングして得た情報よ。」
「……はぁ?」
「いいから見て見なさいよ‼︎でも出来るだけ早く、かつ1人で見ることをオススメするわ。」
ジャックはメモリーを訝しげに見つつも、「分かった」と言ってそれはポケットへしまった。
「で、よ。協力してくれるか否かは明日の朝って言ってたわけだけど、どう今結果はでない?」
結構せっかちだな……
ジャックはティトをじっと見る。優秀さは滲み出すくらいにはある。しかし…今回のような大それたことをやるのに大丈夫か…
しかし、今夜のディナーの時の態度を見て、ジャックの中でのグプタの息子のイメージは最悪だったこと…そして、寝不足でよく考える、ということが出来なかった…というのもあってジャックはため息の後、首を振った。
「わかったよ…その代わりミスはなしだ。」