表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トラストルノ  作者: なさぎしょう
騙合戦
210/296

伏兄弟と医者


ビジネス特区以外でこんなに馬鹿高い建物があるのは珍しい。40階建てビルの30階と31階が紅楼(こうろう)お抱えの医者の医院だった。

旧時代には、こういった医者のことを闇医者(・・・)なんて呼んだらしいが、あいにくトラストルノには国家も政府も無いため、医師免許(・・)というものそのものが存在しない。つまり誰もが「医者です」と名乗ることができるわけだ。


まぁそれを聞くと、不安になるが、SOUPや代理戦争組織(カンパニー)に認められた医者なら百発百中優秀な医師だ。




「ロックス先生を‼︎」


もどかしいセキュリティの数々を抜けて30階フロアに辿り着くと、受付にいた黒人のグラマラスな美女に快人が声をかける。

快人は次の幹部候補にあがるような人物だ。身分の説明やアポなどせずとも顔パスで通れる。しかも弟たちも総出となれば、紅楼の人間なら間違えようがない。


「107号執刀室にいらっしゃいます。今は多分手術(オペ)を終えて経過の確認をされているかと。」


「ありがとう‼︎あ…受付の…」


「受診者名簿にはこちらで記名しておきます。ご長男様でよろしいですか?」


「あぁ、頼んだ。」




107号室ではスラリとした体躯に、ふわりとした茶髪、年の割に幼さの残る顔立ち、まっさらな白衣の出で立ちの青年------シーズ・ロックス医師が患者を部屋に戻し、手術(オペ)の結果をカルテで確認している。

近頃奇異な殺人事件なんかが増えているような気がする。戦争が無いということはイコール平和ではない。

トラストルノにいると、嫌でもそれを思い知らされる。ロックス医師には嫌い(・・)なやつがいる。そいつは今頃南地区(サウスヤード)にいるだろうが、最近は南地区(サウスヤード)も治安が悪い。

グプタの正妻の息子が、好戦的なこともあり"戦争へ"向かう気運が高まっているのに、グプタはそれを許さず、鬱屈した不満が治安の悪化を招いているそうだ。


ロックス医師は密かに嫌い(・・)なやつが少し痛い目でもみればいいのだ、と思っていた。




「ロックス先生‼︎」


突然、107号室の扉が開かれ、どどどっと少年達が雪崩入ってくる。


「やぁ伏兄弟、揃ってどうしたの?」


「彩人を‼︎彩人を診て下さい‼︎」


「彩人くん?」


担がれてきた伏彩人が診療台の上に寝かされる。本人は青いのも通り越して土気色の顔で目を固く瞑っている。

唸ることすらしんどそうだ。


「毒でも盛られたのかな?」


ロックス医師の質問に運んできた4人は頷く。幸い、ロックス医師はこの毒がなんであるか察しがついていた。知人(・・)が誤って誤飲してしまった時に解毒したこともある。


テキパキと薬棚からいくつかの瓶を持ってきて点滴を刺す。それから彩人の身体を慎重に横向きにすると、細い糸のような針で背中の数カ所を刺す。


「そんなぶすぶす刺したら痛いよ…?」


末っ子の奏人が心配そうに見る。それを「大丈夫だから」と快人がなだめる。


「そうだ、それなら奏人くん。お兄ちゃんのお背中優しくさすってあげてくれるかい?」


「うん‼︎」


ロックス医師は高めの椅子を持ってくると、彩人の背中側に置き、奏人を抱き上げ座らせてあげる。奏人はそっとそーっと彩人の背を撫でる。

すると数分の後、彩人の顔色が良くなってきた。


「とりあえず後は少し様子見だな…珍しい毒ではあったけど、対処できないような即効性の猛毒とかじゃなくてよかったよ。」


「本当にありがとうございます。」


「いいえ〜。ちょっと電話してきていいかな?なんか容体に異変があったら2つ奥の…僕の自室分かる?そこにいるから呼んで。」


「はい‼︎」


ロックス医師は白衣をはためかせながら部屋を一旦出て行った。


「ありがたいな…よかったよ。」


快人は彩人の髪を梳き、顔にかかってしまっている髪をのけてあげる。


「マジでよかった……」


真人もほっとした勢いで力が抜け、床にどっと座ってしまう。気が抜けると、身体の疲れが一気に襲ってきたのだ。それにあの不気味なアンドロイドの恐怖からの解放も尚更、脱力感を誘う。


「うん。本当によかった……」


舞人はそう言うと、拳をぎゅっと握りしめ頭を思い切り下げた。


「ありがとう‼︎助けに来てくれて、嬉しかった、本当にありがとう‼︎」


3人は急な大声に驚く。がすぐに「そんなことか」と笑い出した。


「舞人、兄弟なんだから助け合うのは当たり前だろ。」


快人が舞人の頭をぽんぽんと撫で、それからぎゅっと強く抱きしめる。


「とにかく全員無事で良かったよ。」








舞人はそれから名影達に無事を知らせるために、電話を借りてくる、と部屋を出た。


もう1人の…西校(ウエストヤード)の生徒には結局会わなかったな…




「いやぁだからさ…君ね、そうばかすか毒を使うなよ…君の本心じゃなかったのかもしれないが……うん、いや……」


…?

あぁそういえば先生も電話するって言ってたか。電話終わってからノックした方がいいかな?


「ところでアレ(・・)は使った?…うんうん……あぁ…じゃあやっぱり改善が必要か……いやいや分かっていたことさ。そういやあいつ(・・・)南地区(サウスヤード)から戻って来たか知ってるかい?……まだ?ふん、死んじまえばいいのさ…くくく……」


舞人はぎょっとした。あの優しそうなロックス医師でも「死ねばいい」と思うことがあるのか、と。そして次の発言で、舞人はさらに驚くこととなった。


「いや、わかった。うん…それじゃ……君も無事でなによりだ。今度また会おうじゃないか……




デュース。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ