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トラストルノ  作者: なさぎしょう
騙合戦
206/296

伏兄弟 4


舞人(まいと)奏人(かなと)は部屋を出ると音のする方を目指して歩き始める。何はともあれ真人(まさと)彩人(あやと)と合流しなければ。


「うげっ‼︎」


しかし、さっそく曲がり角の奥の方から人が何人もやってくるのが見えてしまった。向こうはこちらに気づいていないだろうが、それでもこの道を通らなければ進めない。

男達の人数などを確認する。


「お兄ちゃん、どうする?」


舞人は頭をひねる。出来ればおおごとにしない方がいいに決まってる。


「うーん…賭けだけど…奏人、僕の言う通りにしてね。」


「うん‼︎」




何者かの侵入があったらしい…


と聞いても、ここに雇われた大半の人間は残念ながら、危機感などない。見せかけの兵数としてデュースが集めた連中だからだ。


「?おい、なんか餓鬼が走ってきてるぞ‼︎」


パタパタ…


「止まれ‼︎とまれぇぇ‼︎」


集まった七、八人の男達は子供に銃口を向ける。 …と、


パタパタ…バタンッ‼︎


「お、おい‼︎転んだぞ、撃つな‼︎囲め‼︎」


転んだ少年の元に男達はバタバタと駆け寄る。1人が抱き起すと、少年はわっとその男の胸に顔を埋めガタガタと震え出した。


「へ…部屋に‼︎変な人が入ってきた‼︎真っ黒な‼︎真っ黒な人‼︎」


「は?」


男達は意味がわからないと言うふうに首をかしげる。


「もしかして侵入者か?」


「それとも幻覚が見えてるんじゃないか?ほら、デュースが色んな薬とかも投与してたし。」


「おい、とりあえず部屋に戻した方がいいだろ。」


「ってかどうやって部屋から出たんだ?」


男達の話を聞いて、少年はもっと首を振り喚く。


「やだやだ‼︎あの部屋なんかいるもん‼︎そいつが部屋の鍵を開けて入ってきたんだ…それで拘束を取ってくれて…でも‼︎僕に急に殴りかかってきたの‼︎だからあの部屋に戻りたくないよ‼︎」


少年は必死の形相だ。正気かどうかはさておき、とても嘘を言っているようには見えない。


「とりあえず様子を見に行くか。」




「うわ…なんだ?部屋の中が真っ黒じゃねぇか。」


「本当に化け物とかじゃねぇよな…」


そんな訳あるか。

舞人はガタガタと震えながらも内心笑いが止まらなくなっていた。

奏人はいつも黒いペンキを持ち歩いている。本人曰く「必殺蛸墨スプレー」らしいが、名前はどうでもいい。つまるところは…黒いペンキで間違いないのだから。

それで部屋を塗っている。かつ、奏人は持ち寄りの黒いロングパーカーを羽織っているため、明るい通路からでは、暗い室内がよく見えないのだ。


「開けるぞ?」


「あぁ…」


何もそんなにビビることはない。いるのは5歳の男の子だけだ。


男達はそんなこと露ほども知らずに次々と入って行く。舞人の手を握ってくれている1人を除いて全員が部屋の中に入る。

すると、部屋からスルリと真っ黒な塊が通路に溢れでてくる。


「ん?おい‼︎あれ‼︎」


男達が黒い塊に気づいた瞬間、部屋の扉が勢いよく閉まった。鍵だけでなく、取手と壁の出っ張りに鉄棒を渡し、簡単には開かないようにしてしまう。


「おい‼︎クソ餓鬼(ガキ)‼︎」


「お前、ボーッとしてないで開けろ‼︎」


「ぶっ殺してやる‼︎」


鉄格子部分に顔を出した男達の中の1人が銃をぶっ放す。

残念ながらとんだ的外れで、その弾は舞人の左側壁に着弾する。しかし…男にとっては、これが命取りとなった。


「おい‼︎突っ立ってねぇで開けろ‼︎」


「ガキ捕まえろ‼︎」


外にいる1人に様々な指示が飛ぶ。


「ガキをぶっ殺せ‼︎」






カチリッ……



「ガキを、ぶっ殺す(・・・・)?」




「そうだ‼︎やっちまえ‼︎ガキをぶっ殺………」



ドシュッ‼︎…………




「……あ……?」


一瞬、その場にいた誰もが何が起きたか理解できずに動作を止めた。

全員の視線が外にいた1人きりの男に注がれる。

その正体(・・・・)知っていた(・・・・・)舞人と、黒い塊------奏人も驚いてしまう。


先程まで舞人に銃口を向け、暴言を吐いていた男は、閉ざされた黒塗りの部屋の中で、脳漿を撒き散らして空を仰ぎ、血の池の只中に沈んでいる。

あまりにも突然の圧倒的暴力。


「で、"ガキが"、なんだって?」


しかしそれでも、男は落ち着いていた。


「お…お前、何してんだ?」


「それはこっちの台詞さ。弟達(・・)に何してくれてんだ。命の危機だった、正当防衛だ。」




そう言うと、さらに銃口を鉄格子の方へ向ける。


「や……やめっ……」




バシュッ‼︎ バシュッ‼︎……ドシュッ‼︎



男達は一斉に鉄格子から離れる。

中に7人居たはずの男達はもう2人しかいない。


「だいたい、互いの顔も分かんないようなのよく雇ったもんだよ。なんとなく何系の顔立ちのやつがいる…くらいにしか覚えていなかったんだろ?あははは、そんなんで子供誘拐して、(あまつさ)え殺そうとするなんて‼︎……ざまぁねぇな。」



「う…ぁ…お兄、ちゃん?」


「奏人、舞人、怪我はないか?」


2人は首を横に振る。


「そうか、良かった。」


そう言った兄の表情は本当に安堵しているようであった。

暖かい微笑。










考えを改めよう。

この兄弟で、1番ヤバイ(・・・)のは、弟達でも僕でもない…






………長男(かいと)だ。


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