伏兄弟 3
最初は静かに、バレないように侵入するつもりだった。その気はあった。少なくとも俺にはあった。
「ってかそもそも扉が開かないんですけど。」
プレハブ小屋の前の監視カメラと、隠れて見張りをしていた連中は、むしろ死角にいるのをいい事に有無を言わせず気絶させる。
そしてそのまま縛って転がし、中に入る。
ここまでは良かった。しかし地下につながるのであろう扉がどうしても開かない。押しても引いてもびくともしないのだ。
「もう小型のやつで爆破しちゃう?」
そこで彩人が提案してきた結果があの爆発音だ。
「いやさすがに、小型でも爆破すれば気づかれるっつの‼︎」
「じゃあ不意打ちを喰らわせればいいよ。」
言うが早いか彩人は地下への扉にチップのような小型爆弾を取り付ける。反応から見るに、この下の空間に舞人がいるのは間違いない。
…のに爆弾を使う気なのか、この弟は。
「僕が先に行くよ。」
下からの銃火器の類の攻撃に備えるための円盤型の鉄板を磁石でもって右足の裏につける。
超古典的な方法ではあるが意外と使える。
「じゃあ見計らってきてね‼︎」
マジか…兄貴に怒られても俺は知らねぇぞ。
真人がそんなことを思いながら見守る中、彩人はお気に入りの機関銃を右手に持ち、鉄板をつけた右足を下にして飛び込めるように構える。
「3、2、1……爆破‼︎」
キュッ……ドガーーーッン‼︎
扉が二重になっていたのか、予想以上に鈍いが大きな音で爆破、粉砕された。
扉が無くなったことにより出来上がった真っ暗な穴。化け物の口の様なそこに、彩人は躊躇いなく飛び込んだ。
可愛い顔してとんでもねぇ奴だ、って言われてるの見たことあるけど…本当にとんでもねぇ奴だわ。
内心ひとりごちながら、数秒差で真人も飛びこむ。
彩人の心は久しぶりの高揚感に浸っていた。
この下には死が待っているのかもしれない、という恐怖と期待。
「爆破‼︎」
自分で言って自分で爆破する。そしてその煙も晴れぬうちから穴に飛び込むと右足の鉄板を下にして飛び込み落ちて行く。
これで下から撃たれても、身体は鉄板で隠れているから殺せまい。ただし、この鉄板は下に着く寸前が鍵になる。
降りきる前に、磁石の入っていない靴を履いた左足で鉄板を思い切り蹴り外すと、その鉄板が出て行って数瞬間後に後ろから来ている真人と同時に出て行く。
鉄板に向かって何発か銃弾が撃ち込まれた音がする。
しかし、撃ち方の問題か撃った時の音に違和感がある。
上から降りてくる真人が迫って来たのと同時に降りきる。と、同時に左右に窪みを見つけ、2人はそれぞれ両側にに別れ隠れる。
「なぁ、あれなんだ?」
銃を向けこちらを狙っているのは蜘蛛みたいな形のロボットだ。ただ蜘蛛よりも銃を構えている分の脚が一本多い様な気がするが。
「よくあんなデカいロボットをこの地下に持って来たよね。」
「人の方がやりやすいんだがな…」
2人はジェスチャーで会話し合図を送り合うと、窪みから同時に飛び出す。
「「⁉︎」」
そのままロボットの機銃掃射の嵐を上手く屈んで交わしつつ2人が進んでいた時…2人の間を小柄な何かが物凄いスピードで通り抜け、なんとロボットの腹の下部分に身体を滑り込ませ、とっとと先に行ってしまったのだ。
「あっ、あいつ‼︎奏人、ずりぃぞ‼︎」
ちゃんと話を聞いていなかった2人は、てっきり奏人は快人と一緒に後から来るのだと思っていた。
まさか後ろにいて、しかも先を越されるとは…‼︎
「なんだよ‼︎おい、彩人‼︎このロボとっととぶっ潰すぞ‼︎」
「そんなの分かってるから‼︎命令しないで‼︎」
2人は走り寄った勢いでロボットの銃機器の部分の真下に潜りこむと、その脚をつかみ同時に左へ身体を捻る。すると、蜘蛛型ロボットは面白いくらいあっさりと左へよろける。
するとすかさず彩人が機関銃のグリップ部分を脚と胴体の間に食い込ませ、下へ引きおろす。
バギッ‼︎ガタガタッ…‼︎
体勢を崩した所へさらに真人が伸縮性の斧の様な鈍器でもってカメラセンサーの部分を破壊した。
そして2人が離れると、ロボットは前後不覚のまま立ち上がることも出来ず、産まれたての子鹿のようになる。
「っし、急がねぇと奏人に負ける‼︎」
バタバタバタッ…
先に進みたい。が、しかし生憎通路の奥からは沢山の足音が迫って来るのが聞こえる。
基本的には、殺人はしたくない。
兄に迷惑がかかるからだ。2人の倫理観でいうところの、殺人の善悪はつまるところ"兄への迷惑"、この一点に尽きる。
やらねばやられるのだから、それ以外の高踏な、殊勝な考えなど持ち合わせちゃいないのだ。
「これはもはや殲滅しか道がないな?」
「ふんっ‼︎伏家に喧嘩を売ったこと、後悔させてやる‼︎」