伏兄弟
敵を欺くにはまず味方から。
伏兄弟の場合、欺いているのは主に両親だった。まず一つ目の秘密は、兄弟だけが知る旧式GPSチップの存在。
旧式のものなら、変に他人に電波を拾われてしまうこともない。手術は闇医者をやっている長男の友人に頼んだ。
まぁ、つまりだ。
伏兄弟には、次男を助ける手段がある。
ただ準備に時間がとられている間に、今回の震災。
しかし、これも相手の混乱を引き起こしてくれたと思えば結果オーライ。
伏兄弟は男ばかりが5人。
上は26歳から下はまだ5歳。母親がきっちり数えていたおかげで年齢がいくつ離れているかもわかる。
「真人、彩人準備を怠るなよ。」
「わかってる、っての。」
伏兄弟の下4人は仕事で忙しい両親に変わって長男の快人に面倒を見てもらった記憶が少なからずある。故に、基本的に長男の言うことはよく聞いた。
逆に真ん中3人は2歳ずつしか離れていなかったこともあり、喧嘩もしょっちゅう…しかし見ようによっては実に兄弟らしい、兄弟であったとも見える。
「今回は奏人も連れて行くんでしょ?」
兄弟一甘え上手で母似の四男、伏彩人は、その痩躯に似合わぬ厳ついマシンガンをひょいひょい手入れしてはキャリーバッグに詰めていく。
「あぁ…正直不安しかないけどな…」
快人は頭を抱える。
かわいい大切な弟たちだが…若干、手のかかる所があることは否めない。
「くっちゃべってばっかいねぇで早くやれよ。」
「はぁ?やってるじゃん。」
「頼むから喧嘩しないでくれ…」
部屋の奥、ガラス戸を開け放ち室内一体となったガレージで車の整備をしているのは三男の伏真人だ。いたって年相応の少年で、少しばかり反抗的な態度が目立つが、基本的に真面目。PEPEに通っていて、成績も中の上。
普通を極めたのかと思うほど普通だ。
が、実は長めの前髪を上げ、メガネをとり陽光に晒すとわかる……家族の中で唯一、なぜか彼だけが、瞳が灰色なのだ。
ただでさえ優秀な兄弟に囲まれて、さらに灰眼種に自分だけ入っている。という劣等感が、もしかしたら彼の反抗的な態度の根本的な原因かもしれない。
「本当に突っ込むのはお前達だけで大丈夫か?」
「あぁ、兄貴は車の運転と奏人への的確な指示の方を頼むよ。」
「奏人…大丈夫かな?」
「いや全然大丈夫だろ。むしろあいつとこれから退治するかもしれない敵に同情するレベルだぜ?」
「そうそう‼︎さっすが小さくても伏家の人間だよねーあんなにバカみたいに強いと思わなかったもん。」
真人と彩人は口々に末っ子を絶賛する。
実際、戦闘訓練を試しに受けさせた時は、自分の弟ながら"化け物"かと思った。だが、心配なものは心配なのだ。
「俺はそれよりも兄貴の運転技術の方が心配なんだけど…これ手動運転車だけどマジで大丈夫?」
真人は失礼な心配をしてくれたもんだ。
「余裕だよ。むしろこっちのが得意。」
「このご時世によくアンチカーなんて手に入れたよね。」
彩人はこの話になる度に驚く。
「友人に手動運転車の売ってる所を紹介してもらったんだ。」
その友人も手動運転車を持っている。職業柄、彼の元にはいろんな情報が集まってくることもあり、その店も客に聞いた場所を彼に伝え直してくれたものだった。
「舞人にぃさん助けるにしても、本人がタイミングよろしく別出口から逃げ仰せてたら、その旨をどうやって知らせるの?」
「それは俺がやるよ。」
チェスだかトランプだか知らないが、伏家を敵に回したことを後悔させてやる。