素敵な催し
ビジネス特区とは違い、元からガラクタの寄せ集めのようだった繁華街は、1週間も経つと、元通りではないが、また少し姿を変えて再開し始めた。
そんな繁華街に一気に活気をつけるべく、亜細亜座は持ちうる劇場全てで一斉公演を行うことを決めた。
鈴は、これを好機とみた。
間違いなく彼等も見にくるであろう。
特に1人、亜細亜座に通い詰めている兵士がいる。彼ならばやってくるに違いない。
復讐…なんて高踏なものじゃない。
八つ当たり、とでも言えばいいか。
「潤、ちょっと明後日デートしない?」
「うん。……ん?」
名影と真城は2人でPEPEで出たガラス片やら特別処理廃棄物の仕分けをしていた時。唐突に名影が言い出した。
「デート。亜細亜座がね、早期復興を願って各所でやるらしいんだよねー。だからさ2人で観に行こうよ。」
「え、うん。いや、俺は嬉しいんだけど…いいの?」
「なにが?」
真城は何かが気がかりらしく、チラチラと名影の様子を見ながら言葉を探す。しかし結局、直球で聞くより仕方ないと思ったらしく、控えめに言葉を繋いだ。
「芦屋に…言わなくて良いのかなって。」
「芦屋?なんで?」
「零に頼ってもらえないこと気にしてたっぽいから。それに…その……」
「その話はもうしたよ。」
「え⁉︎」
真城は普段のほとんど変わらない表情が嘘のようにくるくると顔を変え、名影の一挙手一投足に反応を示す。
「別に頼りにしてないわけじゃないの。でもね、適材適所。私が1番頼れるのは潤だし、なによりデートっつってんのに芦屋連れて行くのは尚更おかしいでしょうが。」
「ま…まぁ…うん。」
真城はどうやら"デート"という響きがむず痒いらしい。ほんのりとあかくなっている。
「でも、ただのデートじゃないんでしょ?」
「いや、ただのデートよ。2回目以降はもしかしたらただのデートじゃ無くなるかもしれないけれど、今回は本当に観に行って楽しむただのデート。」
真城は「そっかぁ」などと言いながら照れ笑いを浮かべて、それからまた仕分け作業に戻る。
そもそも、真城が名影と"恋人のような"関係になったのは、決してどちらかが惚れたはれただいうようなことではなかった。
それが、今は一丁前に照れてしまう位には、名影のことを好いている自分がいる。それが果たして純粋な恋慕かは分からないが、名影とのデートは素直に嬉しい誘いだ。
「デートかぁー…」
「本当はまいっちも見つかってないような状況で何を呑気な事をって話だけどね…今行っておかないといけない気がするの。だから誘った。……あ、そうだ‼︎ペアルックとか着ちゃう?」
「ペアルック?いいけど、あるの?」
「なんか似たような服とかないかな?」
「どうだろう?零とは趣味が近いからあるかもね。」
自分がデートなんてものをするようになろうとは…と互いに思いつつ、なんとなく、この他愛のない会話ですら寂しさを感じてしまう。
なにか良からぬことが、大きな波となって、もうすぐそこまで迫ってきているような予感がする。
2人は亜細亜座でのデートを楽しみにしつつ、割れた硝子の選別作業に勤しんだ。